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気持ちの変化

私はギルバートが王立病院に入院してから毎日、ギルバートのところに行っている。


ギルバートは

「今までのお医者様は安静にしていなさいとしか言わなかったけど、今のお医者様は運動をしなさいというんだ。

毎日憧れていた剣術を習ったり、空いた時間はチェスをしたりしてすっごく楽しいよ。

お薬も前と違って苦くないんだ!」

と入院してからの生活が楽しいと言っていた。


そして、ギルバートが入院して、私はまた教会通いを再開した。


ノエルとギルバートがいない生活は、本当に寂しかったから、気を紛らわせるために、必要以上に忙しくしていたいと思った。



今の私はどこに行くにもカーラが一緒だ。

カーラの気遣いはさりげなくて心地いい。

アリスとはまた違うタイプで一緒に外出するのも苦にはならない。



教会通いを再開して1週間経ったある日、司祭様が執務室に籠った時、第一騎士団の制服を着た恐ろしく綺麗な顔の男性が礼拝に訪れた。


ダークブラウンの髪に、見たこともない蒼とも碧ともつかない瞳。映画スターが霞むくらい綺麗な顔の方だ。

この教会で会うのは2回目。


前回はラズベリー亭でのランチに誘われたが今回は、騎士様がこちらに話しかける前にカーラが先制攻撃をしてくれた。


「ごきげんよう騎士様。

今日は朝から礼拝の準備に忙しいのです。

もしや騎士様はゴスペル隊の寄付をしてくださるのですか?

それとも、この壊れて少し音が出にくいパイプオルガンのための寄付ですか?

ありがとうございます。

このオルガンは貴族のお屋敷一軒分の価値があるのです。さあさあ、ここに記帳ください」

とカーラは騎士様に一言も喋らせない。そして


「勤務が大変な騎士様はやはり街の見回りをしっかりしていただかないと私達庶民は安心できませんわ。

ささ!業務にお戻りください」


と追い返してしまった。


強い。



カーラは口が達者な上に、色々と器用だ。

移動中の馬車の中でいつも簡単な護身術を教えてくれる。

それから護身用の魔法も少し教えてくれた。



ベスとカーラが来てから、時間の合間を縫って私はお茶会にも参加する様になった。


「色々な方とお知り合いになっておいて損はありません。

噂を打ち消すには、逃げていてはいけませんよ。

今後も、色々な噂に翻弄されるかもしれませんが、情報を制覇する者が最後には勝つのです!

それには知り合いが多い方が有利になりますよ。」

と、カーラの母であるベスに言われた。


ベスは、お茶会の招待状を吟味しては

「ここは行った方がいいですよ」

などとアドバイスをくれる。


そして、

「この方のお茶会に行くときは、手土産はこれが良い」

とか

「このお茶会はドレスコードに暗黙のルールがある」

とか教えてくれた。


ベスの社交界に関する知識は豊富で、その上恐ろしく的確だった。


ベスのアドバイス通りにお茶会に参加すると、概ねうまくいった。


初めは醜聞があった私に対して露骨な態度を取るご令嬢もいたが、同じ学院の友人達が取り持ってくれて、だんだんとお知り合いのご令嬢が増えた。

特に、エリザベス・トンプソン伯爵令嬢は私の名誉を回復するためにいつも力になってくれた。



以前の私は、修道院で一生過ごすつもりで社交は一切やめていたけど、リスト様と婚約してから社交をする様になって、こんな素敵なお嬢様方との交流を放棄していたんだと思うと、もっとお父様とお母様の言う事を聞いておけばよかったと後悔する。



ある日お茶会の後、

「マリーナは素敵なお嬢様ですもの。

あんな風に醜聞をばら撒かれたのは悔しかったわ」

とエリザベスは言ってくれた。


こんな風に味方になってくれる友人もいたのに、何故逃げていたんだろう。




お父様とお母様が帰ってきたら、ちゃんと助言を聞こうとエントランスホールの百合を見ながら思った。



ギルバートとノエルが不在にしていて、きっと寂しいだろうと、リスト様はお忙しいのに2日に1回は会いに来てくれるようになった。


本当に短い時間しかお会い出来ないので、エントランスホールの百合を眺めながら他愛のない話をするようになった。




そんなある日、夜会の招待状が来たためリスト様に相談した。


次は、シラウト侯爵の夜会だ。


シラウト侯爵様ご夫妻は、王弟殿下の船に乗船しており、私の両親であるアデレイド伯爵夫妻と共に行方不明だ。

貴族院の会議で、嫡男であるニュートン・シラウト侯爵様が侯爵籍を継ぐ事になった事は覚えているが、その時、ご挨拶などはしなかった。


今回「チャリティー夜会」となっているが、夜会にかかった費用と同額をまだ見つかっていない王弟殿下の船に乗船していた平民の方々の家族の支援に使うと言う、招待客には寄付を求めないタイプの夜会になっている。

でも、貴族の義務として寄付はしないとね。



リスト様は

「当日は迎えに行くよ。

今回の夜会はいつもとは趣向が違う。

テーマは『ホワイトナイト』だ。

白い服装がドレスコードになる。

服装はこちらで用意させてもらうよ。

明日、メゾンの者をアデレイド伯爵家に向かわせるからね」



と、リスト様は招待状を見て言った。



「今、父が不在だから、あまりまとまったお金は使えないのですが…。持っている白いドレスをリメイクしてもいいかしら?」

とおずおずと聞くと


「マリーナは、経済観念がしっかりしているね。

だけど、王族も参加予定だからリメイクはダメだ。

今回は支払いの事は気にせずにいてくれればいいよ」

とリスト様は笑っていた。


父がいない間に領地に何かあった時に、捻出できる資金が限られている。

なるべく資金は使わずに領地のために使おうと節約中なのだ。



次の日、リスト様が言っていたように、数名のお針子が尋ねてきてドレスの採寸が行われた。

デザインの相談はされなかったから、多分おまかせでいいんだと思う。


それから1週間でドレスが出来たと連絡があった。

真っ白なレースやオーガンジーをふんだんに使った豪華なドレスが出来上がっていた。

華やかなドレスだが露出が少なくて上品。そして手袋はレースの手首までの長さ。

あまりの華やかさにため息が出る。


私のこの平凡な顔。ドレスに負けるかも…



そんな心配をよそに、当日、お針子さんが立ち会って着付けが行われた。 


髪には金粉の混ざったヘアワックスを使って、キラキラ光るように仕上げて、メイクは甘めのピンクを基調とした可愛らしい感じにしてくれた。


「マリーナ様の髪の色って、ご自身では『よくある栗色」なんて言いますけど、ちょっとアンバーの混ざった綺麗な髪ですね。

それに目の色も、栗色なんて言ってますが実際は、明るいヘーゼルナッツ色で、光の加減では金色に見えるんですよ?

ご自身を知らなさすぎます」

とアリスが言った。


そんな時、右手がじんわり熱くなってきた!



そのタイミングで、侍女が

「トレド様がいらっしゃいました」

と来客を告げた。



リスト様は銀糸で刺繍を施された真っ白な貴族服で、エントランスホールに立っていた。


今日は髪をオールバックにしている!

でも、真っ白な仮面をしており、目の部分は仮面と同じ素材になっており、やはり目を見ることはできない。ただ、初めてお会いした時の仮面とは違い、口元は隠れていない。


いつもと髪型が違う上に、猫背ではなく綺麗な立ち姿なので別人に見える。


でも手は熱くなってきたからリスト様本人である事は間違いない。


「マリーナ、こんばんは。

やっぱり何を着ても似合うよ。

でも、少し足りないものがあるようだ」

とリスト様は言うと、濃紺のベルベットでできたジュエリーケースを出して、中を見せてくれた。


ケースの中のイヤリングとネックレスは、エメラルドの落ち着いたデザインで、すごくセンスがいい。


…新興子爵って、そんなにお金があるの?と思いながらリスト様をあらためて見た。



リスト様の口元は笑っていて

「では、婚約者殿。ネックレスをつけさせて頂きますよ?」

と言うと、私の後ろに立ってネックレスをつけてくれた。

イヤリングは侍女がつけてくれた。

侍女達は口々に

「トレド子爵様のセンスは凄くいいです。なんて素敵なんでしょう」


と、今日の装いを皆、褒めてくれた。

そして、口元だけが見える大きめのバタフライマスクをつけられた。



そして馬車に乗ると会場まで向かった。


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