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式典の招待状

次の日、ケルダード教会に行くといつも通り司祭様は忙しそうにしていた。


昨日、司祭様との別れ際に翌日に教会に行く約束をした。


「司祭様、昨日はありがとうございました」

とお礼を言うと、

「今日はトレド君が来ますよ。

いつものマリーナ嬢が来る時間に合わせて今日は来るそうですよ。」

と司祭様は時計を見た。


すると右手が熱くなって執務室のドアが開いてた。


トレド様が入ってきた。

やはり、トレド様が近くに来ると魔法陣で契約をした右手が熱くなる。



前回お会いした時と同様に、左頬に傷があり、長い前髪で目元は見えない。


「おはよう。アデレイド嬢。

今日は話があってきました。」

そう言いながら、トレド様は長椅子に腰掛けた。


「君が呼ばれた貴族院の会議の後、君の代理だと名乗る人物が教会に来て婚約解消を申し出てきた。

もちろん、条文にあるように本人からの申出ではないから受理されなかった。

そうしたら次は私のフリをした男性が婚約解消に教会を訪れた。『トレド子爵』を見た事がある人はほとんどいないから受理されると思ったのであろうが、ここにいる司祭様が身元確認に呼ばれて、偽物だということが証明されたから受理されなかった」

トレド様はため息を吐くと


「ここまでの経緯はあえて言う必要がないと思っていたから伏せてきたんだけどね。

昨日、馬車が襲われた。

マリーナ嬢に扮した女性は、私の同僚だ。

武術に長けているので、全く怪我はなかったが、襲ったのは、物取りを装った誘拐犯だ。

アデレイド嬢を狙っていたのは一目瞭然。

相手はやはり、ラナス侯爵家かな?」


とトレド様に聞かれた。


「多分…。

ラナス侯爵夫人は、母の姉なんです。

姉といっても、祖父の兄弟の子供なので、正式には従姉妹にあたるらしいのですが…。

昔、領地で起きた山火事で沢山の犠牲者が出たそうなんですが、叔母の両親はその際に他界したとかで、祖父が娘として育てたらしいです。

そしてアデレイド伯爵家から嫁いだのがラナス侯爵夫人です。

その息子がケレイド・ラナス侯爵子息。

我が家の乗っ取りは、ラナス侯爵夫人の計画だと思うのです」


「なるほど…。

今回は、夜会の途中でおかしいと思ってトレド君に連絡したんですよ」

と司祭様は、手の中から小さな手紙を出した。

すると手紙は鳥の形になり、飛び立つと、また司祭様の手の中に戻ってきた。


「今回の夜会でラナス侯爵夫人は、アデレイド嬢を傷物にする計画をしていたのではないかと思う。

どう考えても、司教が一緒にいる時点でどこかに護衛がいると思って当然なのに。

それに失敗したので、次は新興子爵である私を襲う計画を立てているようだ。

ラナス侯爵家の狙いはアデレイド伯爵家の資産だけなのだろうか?

疑問に思う点もあるから、次の夜会に出席しよう。

次の招待状が来ていたら教えてほしい。

仕事の都合にもよるけど、ちゃんと出席しようと思う」

とトレド様が言った。



トレド様と夜会に出席できるのは嬉しい。

私は笑顔で

「お願いします」

と言った。




屋敷に戻ると、国立美術館のリニューアル記念式典の案内が届いてた。

式典という名の夜会だ。

早速、司祭様に招待状を添付して手紙を出すと、すぐにトレド様の出席の返事が来た。


式典は1週間後だ。


式典の前日、トレド様からドレスが届いた。

光沢のあるシルクでできた淡いブルーのドレスだ。

添えたれたメッセージには

『急に準備したドレスだからサイズがぴったりかどうかはわからない。

きっと似合うと思うから明日の式典で着て欲しい』

と書いてあった。



「素敵なドレスですね?

お嬢様の婚約者の方はお嬢様の事をわかってたらっしゃるわ。」

とアリスは自分の事のように嬉しそうに言ってくれた。

「ええ、素敵な方なのよ。明日が楽しみだわ」

と私はドレスを見ながら答えた。



ぴったりかどうかわからないなんて書いてあったけど、サイズはぴったりだった。

淡いブルーのドレスに合わせて真珠のアクセサリーを付ける。

この真珠のチョーカーとイヤリングはお母様のお気に入りだ。



式典当日、トレド様は、濃いブルーの夜会用の服を着て迎えに来てくれた。

ポケットチーフがドレスと同じ色だ。


トレド様はやはり耳まである髪はそのままで、目元は相変わらずわからなかった。



トレド様はエントランスホールにカサブランカの花束を持って立っていた。

「アデレイド伯爵家に初めて来た時に、エントランスの百合が印象的で記憶にあったのでこれを。

今日もエントランスに百合が飾ってありますね。

この百合の花は綺麗ですね」


「エントランスの百合はお母様が『私達が無事ならずっと綺麗に咲き続けます』と言って外遊前に魔法をかけて行ったのです。

お母様達が行方不明になって1ヶ月以上経ちますが、百合はずっと綺麗に咲いているので、これがアデレイド家の支えなのかもしれないですわ」

私はお母様の百合を眺めながら答えた。


「きっと皆元気にしていますよ。

あの王弟殿下が乗船している船ですから、もしかしたら違う航路から帰ってくるつもりなのでしょう。

私はそう信じています。

この国での王弟殿下人気は相当なものだ。

船が見つからないと発表された時、初めこそ皆、悲観しましたが『あの王弟殿下だから、ひょっこり帰ってくるだろう』と国民はだんだん思うようになって、今では皆楽観的ですからね。

私達も、楽観的にいきましょう」


と、トレド様にエスコートしてもらい馬車に乗る。



馬車の中では

「いいですか、私たちは仲の良い婚約者だ。

だから、私はアデレイド嬢に微笑むし、同じように私に微笑みかけて欲しい。それから少々近い距離で歩きますよ」

というので


「それなら私の事はマリーナとお呼びください。私は何とお呼びすれば?」


「それならリストと呼んで欲しい。クリストファーは普通、クリスと呼ばれるが、家族は皆、リストと呼ぶんだ。」


「では…リスト様、よろしくお願いします」


お互いに呼び名が決まると、次は共通点を探すために食べ物の話になった。


「マリーナは何かキライな食べ物はある?」


「私はブラックオリーブです。

寄宿舎のディナーでは必ずブラックオリーブが食事についてきました。

寄宿舎の5年間で一生分のブラックオリーブを食べた気がします」


と言うとリスト様は笑っていた。


「一生分のブラックオリーブかぁ。とは言っても一切れとか二切でしょ?」


「いえ。5粒です。

夕食に5粒です!卒業の時、知ったのですが、皆、食べるふりしてナプキンにくるんで、自分の侍女にあげていたみたいです。侍女は、サンドイッチに入れて自分のランチにしたり、皆工夫していたみたいですが、私はそんな事知らないから馬鹿正直に毎日食べていたんです。」

寄宿舎では、侍女の衣食住を整えるのは主人であるご令嬢の役目だった。


「ブラックオリーブは肌艶が良くなるとか?」


「いえ!卒業時に知ったのですが、寮長であるマダムの好物だったから毎日出ていたそうです。

自分の好きな食べ物を毎日食事に出して、残すと怒られるって横暴ですよね!」


私は学生当時の事を思い出してプリプリ怒っていた。


そんな私を見て、リスト様は声を出して笑っていた。


「リスト様、今度はリスト様の番ですよ?」


「キライな食べ物かぁ。

私はメロンがキライだ。あれでキュウリの親戚だと言うから理解できない。

キュウリの親戚のくせに、柔らかくて歯触りがグニャッとするんだ。

頭が混乱するね」


「そんな理由ですか?

リスト様、そんな事考えながらメロンを食べる人なんてどこにもいないですよ?」


「少なくとも、私はそんな事を考えながらメロンを食べている」


「フフフ。リスト様って面白いですね」


リスト様と他愛もない話をしていたらあっという間に国立美術館に着いた。



私たちは馬車から降りると、会場に入った。

式典は厳かに行われた。


その後のパーティーで二人で挨拶回りをする。

今の私はアデレイド伯爵の代行で、リスト様はその婚約者だから。



これが初めて二人で出席する公の場なので、少し緊張した。


びっくりしたのは、リスト様と腕を組むと魔法の循環が良くなり、手だけでなく身体中が心地よく暖かい。


これが魔法契約なのかと、あまりの心地よさに驚いた。





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