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ホワイトナイト

馬車の中では向かい合わせに座ると


「今日はホワイトナイトの仮面舞踏会なんだよ。

相手に名前を聞いたり、仮面を取るように要求する事はマナー違反。

今日は仮面を付けていて誰かわからないから、私のフリをして近づいてくる輩がいるだろう。

魔法契約で私が側にいると右手が熱くなるだろう?」


「はい。なります」


「しかも手を繋ぐか腕を組むと魔力が心地よくなるだろ?これを忘れないで。

もしも、近くに私が居なくなったら、出入り口を警備する2人の騎士のうち一人は黒髪だ。

その黒髪の騎士に『体調がすぐれないからアデレイド伯爵家の馬車を』と言うんだ。

そうすると、君がよく知っているアデレイド家のトムが御者をする馬車が来るから乗って帰るように!

くれぐれもはぐれたら、トム以外の馬車には乗ったらだめだよ?」

と言われた。


「はい。わかりました」

と私は真剣に返事をした。


「行きは、わざとトムではない御者の馬車で行く。トムは今頃、ケルダード教会から司祭様を乗せて舞踏会に向かっている。

でも、司祭のフリして近づく偽物にも気をつけて」

と言った。


「リスト様、気のせいか髪の毛が短くなりましたか?」

と聞くと、リスト様は、

「これは被り物だよ。髪の毛から全て被り物だ」

と言っていた。

リスト様の『髪の毛も全て被り物』と言う言葉の意味をはかりかねてしまい、しげしげと眺めていたら会場に着いてしまった。



会場であるシラウト財団ミュージアムに着いて驚いた。


本当に全員白いドレスに白い仮面だ。

男性も白い貴族服やタキシードなど。

服飾は白のみだが、刺繍は金糸か銀糸なら使っても良い。

イヤリングやネックレス、髪飾りなどの宝石は好きな色を使って良いが、服や仮面に宝石をつけるのはダメ。


皆、その中でも目立つために、仮面に金や銀の装飾をしていたり、髪飾りを宝石をふんだんに使ったゴージャスなものにしたり、洋服の刺繍を目立つものにしたりと様々だ。



ニュートン・シラウト侯爵様に挨拶をしてから会場に入り、あらためて会場の中を見た。


「なんて素敵で華やかなのかしら!」

白い服装の人で埋め尽くされた会場は幻想的だった。



リスト様と会場を見て回った。


「さすがホワイトナイトだわ!飲み物から軽食に至るまで、色の薄い物しかないのね。

間違っても赤ワインやロゼは出さないのね。白ワインか、白のスパークリングワインか、ライスワイン。

ノンアルコールは、白葡萄ジュースか、レモン水しかないのね。でも、葡萄ジュースもワインも何もかも、産地ごとに数十種類用意されていてすごく豪華だわ。」


私は会場を見回した。


「招待客は真っ白なのに、ホールにはありとあらゆる絵画や装飾品が飾られていて、まるで私達がその引き立て役みたい!

すごく凝った趣向ね。ステキ!」


こんな素敵な夜会があったなんてと驚いて楽しくなってしまった。


「すごく楽しそうだね?」

リスト様の声は優しくて、口元も笑っている。


「ええ!あまりにも異次元にゴージャスで幻想的。

それに仮面のお陰で私を探してわざわざ嫌味を言う人もいないし、みんな楽しそうだし。

最高の夜会ね!」

私は楽しくて笑いながら話した。


「では、レディ。今日はたくさん楽しみましょうか」

と言ってリスト様はダンスに誘ってくれた。



ダンスホールは踊っているカップルでいっぱいだった。



「夜会でこんなにダンスをする人が多いのは初めてだわ!」

「今日は顔がわからないから多少下手でも気にせずに踊れるんだよ。

だから普通のダンスだと、だんだん踊る場所がなくなっていくよ?」

とリスト様は楽しそうな声で笑った。



リスト様の言っている意味がわかった。

一曲目、ダンスをしているのにあまり動けず。



次の曲では、ワルツを踊るために腕を伸ばすことすら出来なくなった。


リスト様は、私の腕を自分の首に回して、自分の腕を私の腰に回す。


これじゃ抱き合っているみたい。


まわりを見ると、半数以上が同じようにして踊っている。横に揺れるようにリズムに乗るだけ。



こうして向かい合ってみると、リスト様の体は引き締まってシュッとしているし、背が高くて足も長いから腰の位置が高い。


そして、だんだん曲が進むにつれてリスト様の腰に回す腕の力が少し強くなってくる。人混みで、ぶつかるのを避けるようにして踊っているせいだ。


「いい?ダンスの輪の中を少しずつ動くよ?」

と耳元でリスト様に囁かれて強く抱きしめられ、踊りながら人混みを抜けるように動き出した。

急に動くと目立つので、あくまでゆっくり。



強く抱きしめられた事にドキドキして何も考えられない。

どうかドキドキしていることがバレませんように。



「リスト様、あまり近づくと口紅がリスト様の服についてしまいます。」

と言うと

「だから、わざと私を見上げているのかい?

よく見ると瞳は光に当たると金色に輝いて綺麗だね。」



私は心臓が破裂するかと思った。



「ふふふ。口がパクパクしているよ?酸欠?

あれ?首まで赤くなってきた?さっきのスパークリングワインが強かったのか?」


「…こんな…こんなふうに言われたことないから恥ずかしいです…」

とか細い声しか出なかった。


「うん。こんな反応してくれるなんて可愛いね。

さて、この人混みから抜けるよ?」

と言う言葉の通り、真ん中あたりで踊っていたはずなのに気がついたらダンスフロアの端の方に来ていた。

リスト様のリードでダンスの輪から抜けた。



「では、次は酔わないようにレモン水にしとこうか」

と言ってワイングラスに入ったレモン水をリスト様が取りに行ってくれている時だった。



「離れちゃダメだよ」

と手を掴まれた。声も背格好も服装も今日のリスト様とは全く似ていない。


「人違いですよ」

と言ったが、相手は聞く耳を持たずにどこかに連れてこうとする。もしかしたらラナス侯爵子息かもしれない、と思い声色を変えて、


「私はアリスといいます。どなたかと勘違いされているのでは?」

と咄嗟にアリスの名前を名乗った。

男性は

「えっ?それなら仮面を取って見せてよ」

と言ってきたところで

「おや、私のパートナーに仮面を取ってくれとは随分と失礼な。」


とリスト様がやってきた。

手が熱くなってきたので本物だ!

でもリスト様も声色を使っていて別人のようだ。

手の熱さがないと、疑うレベルにリスト様も声が違う。


「こちらの殿方が()()()の仮面の下が見たいって言いますの」


ギルバートの本の読み聞かせの時のお姫様役の声色の続行を試みた…。

恥ずかしいけど今は我慢。


()()()この方は人違いをしたんだよ。」

といいながら、レモン水のグラスを握らせてくれた。

やはり手が触れると魔力が循環して心地よい。

間違いなくリスト様だ。


リスト様は男性に向かって

「君は、このパーティーが終わるまで仮面を脱いではいけない事を知っていて仮面の下を見せろとアリスに言ったのかい?君の名前を教えてほしい」

とリスト様は詰め寄ると

「人違いをしたようだ。申し訳ない」

とあっさり引き下がって人混みに消えた。



()()()は機転が効くね」

と褒めてくれた。

私が得意げにレモン水を一口飲むと

「その声も可愛いし、今日は()()()のままでいいよ」  


と言われて、恥ずかしさを誤魔化すために一気にレモン水を飲んでしまった。



ダンスの後は会場を少し見て歩いた。

本当に幻想的で素敵な光景だ!


「では、我が婚約者殿。こちらへ」

リスト様に手を引かれて控室のようなところに入り、そして隠し扉のようなものを開けると階段があった。


階段を登ると、パーティーが行われているホールを上から見下ろすような場所に出た。 

ガラス張りになっており、ホールが見渡せる。


まるでオペラ座のボックス席のようだ。


「ここは?」

私が聞くと


「監視室だよ。今、みんなが踊っているホールは普段、シラウト侯爵領の遺跡から出土した『金の聖杯』や『ピンクスターダイヤモンドの首飾り』など、多数の宝物が展示されているんだ。

高価なものを展示するには厳重警備が必要だけど、警備員が多数いたのでは美術品鑑賞は楽しめないよね?

だから、こうやって来場者にはわからない位置に大人数の警備員を配置できるようにしてあるんだ。

この建物には見えないところに沢山の監視室があるんだよ」

とリスト様は楽しそうに下を見ている。



この監視室は、下からは全く見えない。

隠秘魔法で監視室を隠してしまうだなんて、凄すぎる!

今日は建物全体が夜会会場になっている。



「上から会場を見て思いましたが、ブルーヘアーやオレンジヘアーなど目立つ地毛の方はこんなに多くないですよね。

髪色も変えている方が多いのはホワイトナイトだからなんですか?」


「きっとそうやって目立とうと思ったんだろう。でも今日は水色の髪の毛の女性が数十人いるね。

あれだけいると逆に目立たないね」

とリスト様は笑いながら、それでもホールを見続けている。



「マリーナは気がついた?

今日は私たち2人の背格好と髪色が似たカップルがいる事に。」


と、言われてもう一度下を見るた。

栗色の髪の女性と、背の高い栗色の髪の男性のカップルが今気がついただけで10組はいる。


「さっきマリーナに声をかけた男があそこにいるよ。

ほら、今また別の栗色の髪の女性に声をかけている。

あれは多分、マリーナの名誉を傷つけたケレイド・ラナス侯爵令息だろう。

連れがいる女性に片っ端から声をかけるってマナー違反もいいとこだ。

紳士としての教育を受けているとは思えないね。」

とリスト様は呆れている。


「あっ!今、壁際にいる金髪の男女カップル。あの2人の動きが怪しいんだよ。今、1人の男性と合流した。

それから、ホールの真ん中でダンスをしている壮年のカップルもね」



そうやってホールの人間観察をしていると


「何自分だけ遊んでるの?こっちはプランCに移行しているよ?いいなー僕も遊びたなー」


と後ろから声がした。


振り返るとそこには、白いタキシードを着た波打つはちみつ色の金髪に蒼い瞳のナイスミドルが立っていた。


以前、ケルダード教会でお会いした魔法省第四師団長様だ!


「お久しぶりですね?マドモアゼル」

第四師団長は私の右手を取り、膝をついて挨拶をした。そして立ち上がると、


「前回、ご一緒にお茶をする時間はありませんでしたが、次のご予定の予約をさせてもらえませんか?

なんなら今からでも、夜会の控え室を第四師団長名義で貸し切りにしますので、お友達の御令嬢を呼んで私を交えてティーパーティーはいかがですか?」


畳み掛けるように話しかけてくる第四師団長の勢いに押されて、私は一歩後ろに下がってしまった。



「師団長…なに人の婚約者を口説いてるんですか?

それに前回ってことは、私に内緒でマリーナがいる時間帯にわざとケルダード教会に行ったんですね。

今は追求しませんが、これが終わったらどうなることか」

リスト様は低い声で師団長に殺意を向けている。 



師団長は笑いながら

「怖い顔は婚約者の前でしちゃいけないよ?

私はあくまで司祭様に会いに行って、このマドモアゼルと運命的な出会いをしただけだよ?」


リスト様はむっとした様子をしていたが、咳払いをした。そしていつもの声で


「こちらは私の婚約者のアデレイド伯爵令嬢です。

そして、マリーナ、こちらはいつもお世話になっている魔法省第四師団長です」

リスト様は、私と師団長様の間に入って、事務的に紹介してくれた。


勢いに押されてビックリしてした事を誤魔化すように私は笑顔を作った。


「師団長様、わたくしはマリーナ・アデレイドと申します。トレド子爵様の婚約者にございます。これからもよろしくお願いいたします」

と淑女の礼をした。


「マリーナ嬢、婚約者に不満が有ればいつでも魔法省に来てください。

美人はいつ来ても大歓迎ですよ」

と満面の笑みで言われた。



「あっ、ウエストゲートから完了の連絡が入りましたよ。

さあ、皆さん、あと3分で始めますよ?」

と、師団長様が誰かに話しかけている。 


監視室の時計はあと3分で午前0時だ。


「師団長の声は、耳につける魔道具でどんなに離れていても聞こえるようになっているんだ。

さあ、会場を見ていて?」


トレド様に言われて会場を見ていると、夜会の出席者は皆、動きを止めた。そして10からカウントダウンが始まった。



10!9!8!7!6!5!4!



すると監視室にはいつのまにか魔法省第四師団に所属する魔導士が数名いて、魔法をかける準備をしている。

目の前にいる魔導士も、夜会の出席者と共にカウントダウンを始めた!



3!…2!…1 !!!



監視室の魔導士がホールに向かって魔法をかけるのと、ホールにいる参加者が仮面を外して天井に向かって投げるのが同時だった。



仮面は金と銀の紙吹雪になり、会場中に紙吹雪が舞う中で、皆楽しそうにパートナーの素顔を見て抱き合ったり、キスをしていた。


中には、いつのまにかパートナーだと思い込んで全く知らない人と過ごしていた事実に直面した人達もいて、困惑した様子の男女も見受けられた。


仮面を外さなかった人の仮面は、魔法によって黄金の光の粉になり、ハラハラとゆっくり仮面が溶けていった。



なんとも幻想的な光景だった。


ふと自分の顔を触ると、仮面が金色の光の粒になり、溶けるよになくなっていく途中だった。


リスト様を見ると、いつもの耳まで髪の毛で隠れて目元が見えないリスト様に戻っていた。髪も戻っている。


素顔が見れると思ったのに…。


今日は不定期に連続投稿をしてしまいました。

2日分の投稿となります。


明日から投稿は夜の時間になるかもしれません。


楽しみにお待ちいただけると嬉しいです!


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