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虐げられ令嬢は恋を知る~今さら執着されても遅いですよ元婚約者様~  作者: 甘寧


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 声を聞いただけで全身に震えが走る。


(なんで……)


 貴方がこんな所に?そんな思いが脳裏を駆け巡る。


「おい!無視してんな!」


 肩を思い切り掴まれ、顔を向けると苛立ったオーウェンがいた。


「お前、その恰好…」


 珍しく驚いた表情を見せてくる。


 当たり前よね。オーウェンは私のドレス姿なんて見た事ないもの。


 社交の場へは婚約者である私ではなく、いつも違う女性を連れていた。元より、派手派手しい場は好きじゃないので、勝手に行ってくれて結構だと思っていた。


 ──なので、こんな着飾った姿を見た事がないオーウェン(この人)は、どうせまた嫌味を言ってくるだろう……ヴィクトルに仕立ててもらったものを酷く言われるのは本意じゃないけど、黙っていた方が得策。


 そんな事を考えていたが、いつまで経っても罵る言葉が聞こえない。


「どうしたんです?」


 思わず声をかけてしまった。


 その声にハッとしたのか、正気に戻ったオーウェンは、ネルの足のつま先から頭の上まで舐めるように見てくる。そして、ニヤッと不気味な笑みを浮かべた。


「なんだ?僕に気に入られる為にそんな格好したのか?」

「は?」

「まあ、少しは見れるようになったし……相手してやらんでもないな」

「は?」


 この人は何を言ってるの?


「今日は他の女と会う予定だったが……お前がそこまで僕の事を想っているのでは仕方ない。僕の屋敷に連れてってやる。精々尽くせよ?」


 ゾッと全身に鳥肌が立つほど気持ちの悪い笑みを浮かべると、オーウェンは力任せに腕を掴み、連れて行こうとする。


「ちょっ、離して!違う!」

「うるさい!黙って付いて来い!」


 抵抗するネルを怒鳴りつける。


 怒鳴られると体が委縮して力が入らなくなってしまう。いつもなら抵抗せずにやられるだけだが、今の私は違う。


 オーウェンの手を振り落とし、鋭い目で睨みつけた。


「貴方の為に綺麗になったんじゃない。勘違いしないで」

「お前……誰に口聞いてんだよ!」

「私は、もう昔の私じゃない!言いなりになると思わないで!」

「お前ッ!」


 反抗するネルに苛立ちと怒りでギリッと歯を食いしばる。


「はっ、あの団長様の為だって言うのか?外見だけでも変えて良く見せようってか?健気だなぁ。どんなに変わったって最後は僕のものになるのは決まってるのに」

「……」

「分かったら行くぞ。僕が気が短いのは知っているだろ?」

「やめて!」


 伸びてきた手をバシッと叩き落した。


「あ゛?」


 オーウェンの表情が怒りに変る。


「お前、いい加減にしろよ?今なら()()優しくしてやるって言ってんだよ」

「貴方の言いなりはもう御免なの!」

「──ッ!!」


 感情的になるネルに、オーウェンは拳を振り上げた。ネルはギュッと目を瞑って身構えたが、痛みは襲ってこない。


「……これで三度目か?いい加減、注意じゃ済まなくなるぞ」


 オーウェンの拳を握りしめるヴェクトルが視界に入った。殺気に満ちた視線に、ネルもゾッと背筋が凍りそうに冷たくなった。


「ヴィクトル……」

「ほお、俺を呼び捨てとはいい度胸だな」


 握りしめている拳を潰す勢いで力を込めると「痛い!」と、情けない声がオーウェンの口から漏れた。


 パッと手を離してやると勢いよく後退り、目に涙を溜めながらも威嚇するように睨みつけている。


「いい加減にするのはそっちだろ!ネルは()()婚約者だ!部外者は退いてろよ!」

「都合のいい時だけ婚約者呼ばわりの奴が笑わせる」

「うるさいな!そんなの僕の勝手だろ!」

「まったく、負け犬ほどよく吠える」


 オーウェンが何を言っても冷静に返されてしまい、怒鳴っている自分が恥ずかしく思えてきた。


「ネル、こっちへおいで。そんなドレスよりもいいドレスを買ってあげる」


 強い口調で従わせるのは無理だと判断したのか、猫撫で声で私の前に手を差し出してくる。


 今更、手のひら返してきても遅いというのに。


「私はこのドレスが気にいってるの。他のドレスなんて要らない」

「じゃ、じゃあ、何が欲しい?」


 笑顔を作りなれていないのか、口元が震えている。


「貴方から頂くものなど何もありません」

「は?」


 ネルの言葉に顔を引き攣らせながらも笑顔を作ろうとしてくる。


「お前はその男に騙されてるんだ。自分のものだと思わせ振りな事しておいて、簡単に捨てる男だぞ?」

「……」

「どうせ捨てられて傷付くのはお前なんだ。大人しく僕の元においで」


 苛立ちを必死に抑えているのか、眉間が痙攣している。

 我慢なんて柄じゃない事をするから……と呆れながら息を吐いた。


「……ヴィクトル様行きましょう。相手する時間すら惜しいです」

「ああ、そうだな」


 二人して踵を返すと、オーウェンが止めようと声を掛けてくるが、それをヴィクトルが睨みつけて黙らせた。


「婚約者云々言っているが、ネルを婚約者と言ってられるのも今のうちだけだ」

「は?どういう意味だよ」

「さぁ、どういう意味かな?」


 ヴィクトルは意味ありげに微笑みながら、ネルを連れてその場を離れて行った。



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