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明日、僕は安らかに眠りたい。

 これまで僕がした推論に間違いがないか、確認するようにゆっくり最初から考え直す。


「青木は佐藤さんと付き合っている」

「うん、例の放課後にこの目で見たから真実だよ」


 うむ。確か、サトルは僕の下駄箱に例の手紙を推理した放課後に事の顛末まで確認したはずだ。


「続けるぞ。この青木は3-1で森と岩田の容疑者2人と普段から仲良く、今日も仲良さげに3人並んで会議室に向かう姿を見ている。」

「その三人なら確か昨年度も同じクラスだったはずだよ」


的確な情報をサトルが追加してくれる。


「僕はこの三人が共犯の可能性が高いと考えている。」

「仲が良いからってだけで犯人扱いは早いんじゃないか?」

これは、サトルに一つ言っていなかったことがあったから予想していた返しだった。


「それは、この教室にどう侵入したかってのかっていう問題と関係している。」

「そうだ!教室は鍵がなかった上に、昨日の放課後にあれだけ戸締まりしていたはずなのにどうやって教室に入ったんだい?」

「ああ、そこがこの事件が単独犯ではなくて共犯がいる。それも、森と岩田だと言える理由だ。」


 サトルは情報を集めるのは得意だが、それをうまく使おうとする気概があまりない。だが、今回ばかりは点と点が繋がってくれたようだ。


「そうか、昨日の朝、僕がやった手を使ったのか」

「思い出したか。カードか何か厚紙で後ろ側のドア鍵を開けて侵入そして、盗んだのだろう。だが、後ろ側のドアを閉めるのには中から鍵を使用して閉めなければならない。」

「だから、みんが教室に戻ってきたときには鍵がすでに空いていたって訳か」


 動機と侵入方法がこれで判明した訳だが、まだこれでは犯人を特定したとは言えない。今更だが、特定した犯人はあとで岡本さんに何をされるのか僕には考えられない。


 手持ち無沙汰からか長く放置してしまい伸びてしまった前髪をいじりながら話す。

「佐藤さんはあの後、本当に告白を受けたのか?」

あまり大きな声で言う話ではないと思ったのか、サトルは座っている僕の耳元で囁く。


「うん、でも佐藤さんはあまり乗り気ではなさそうだったような。」


 サトルにしては歯切れが悪い言い方だが、こいつも僕と一緒で人の色恋沙汰には興味がないのだろう。ただ、こいつは人間が嫌いな訳ではないから面白半分に知っておこうと行った具合だろう。

「なら二人はまだお互いをそんなに知らないんだろうな」


サトルが僕から離れ、隣の自分の席の机に座りなおす。


「もう2学期も終わろうというのに知らないもんかな~?」

「確固たる証拠があるだろ。」

本当かい、と疑うような笑みを浮かばせてサトルが聞いてくる。


「なんだい、そんなものあったかな?」

「ああ、僕はお前の家すら知らない」


サトルは処置なしといったように額に手を当てた。

「それはヨシハルが人に興味ないだけだろう」

それはごもっともだ。


「だが、付き合ってもいない異性に自宅の住所を教えるやつは普通いないと思うが?」

「まだつきあい始めて二日か。そういえば、普通で思い出したけど、佐藤さんは普通の人じゃないみたいだよ」

「それはキャトルミューティレーションされた宇宙人だとかそういうことか?」

「冗談かい?珍しいね」

と、肩に手を置かれ心配までされてしまった。


「そうじゃなくて佐藤さんは別次元に生きる人なんだよ」

ふむ、何を言っているのだ。

「頭おかしいのか?」

「ヨシハル思っていることとセリフが逆になってるよ」


両手をあげやれやれといった感じのポーズをしていた。


「そうじゃなくていわゆるアニヲタ、二次元が大好きでしょうがない人種なんだ。」

「つまり三次元に興味がない、彼氏になった青木にもそれほど関心がない可能性が高い。そういうことか?」

「ありえなくもないね。ただ、本心はわからない」


  ああそれは一番の問題だが、致し方ないものだと割り切って考えるしかないのじゃないだろうか。しかし、僕は前から佐藤の趣味は知っていた。だから青木と佐藤さんは付き合っているが、どちらかというと青木の片思いに近いものがあるのでは、と考えていた。

 

 佐藤は二次元に恋をする、どちらかというと普通じゃないタイプの人間だ。決して陥れる意味ではなく、普通の感覚で物事をみているか怪しいといった程度の意味合いでしかない。

 だが、そこから考えられるのは今までに青木とそれほど話している様子もなかった。だから、青木は佐藤についてそれほど詳しいことを知らないと思う。

 さらに、付き合ってみても佐藤はあまり乗り気ではなさそうだ。ならば好きな女子のことを知ろうとするんじゃないか?決して褒められるようなことではない、というか犯罪ではあるが相手のことを知ろうとすることは普通のことなんじゃないか?といったようなことを言った。


「青木は恋愛が下手だったのかな」

サトルが笑いながらいった

「まあ、岡本が盗まれたのは佐藤さんだけ盗まれると彼氏である青木に角がたつと考えて盗ったか、仲間の森か岩田が家の場所とか知りたかったとかそんなとこじゃないか」

「えらい迷惑な話だね。それにしても佐藤さんの携帯は?」


さっき桜ヶ丘が騒いでいる時の話を思い出した。

「岡本はパスワードを設定していなかったからすぐに情報を取れたじゃないか。が、佐藤さんの携帯は、パスワードがあってそれが解けていなくてまだ犯人が持っている可能性が高い」

と言い切ってから気づく。

「そして今、彼らは会議室に詰め込められている。さらに証拠をわざわざ取調室に持っていくとは思えない」

 サトルは察したようで容疑者の席を確認するため、授業をする先生用の教卓に置かれている座席表を取りに行く。それに気づいた桜ヶ丘が岡本との会話を切り上げこっちにくる


「何かわかったの??」


もう一度同じ話を最初からするのは面倒だ。百聞は一見にしかず。証拠探しと行こう。



「まさか本当に見つかるとはね」

「ああ、全くだ」


サトルの驚いた声に同意する。


「これ花華(はなか)ちゃんの携帯じゃん!」


佐藤さんの携帯は容疑者の...いや、彼氏であるはずの青木の鞄から無事発見された。

彼氏がいまでは犯人であるのはもはや明白になった。だが問題は。


「この携帯どうするよ?」


サトルが携帯を持ちながらいつもの微笑みで聞いてくる。


「事情の真偽は確認のしようがないが、青木が盗ったのは事実だ。だが、森たちの関与はわからん」

ならばすることは一つだ。サトルの手の平に乗っていた携帯をヒョイと、取る。

そしてパスワードの入力画面をつけた。


0を4回押す。


すると携帯はバイブレーションを揺らすことなくホーム画面を表示する。サトルと桜ヶ丘が目を見開き、驚いた声を上げた。

「ヨシハルどうしてパスワード知ってるの!?」

「なんでヨシハルが佐藤さんの携帯のパスワードを知っているんだい!?」


僕は少し照れ臭かったが、過去の事実は変えられない。この事態が起きた責任の一端は僕にもあるのかも知れないのだ。

「前に僕の前でロックを解除するのを見ていたんだ。

まあ青木より僕の方が佐藤さん...いや花華との付き合いが長かっただけだ・・・」


 秘密は誰にでもある。それは人によって大小様々、種類も様々だが、誰彼かまわず言いふらすモノでもない。

 花華の携帯からSNSアプリを起動させ、青木とのトーク画面にしてメッセージを送る。


『放課後一般棟5階視聴覚室前にて待つ』


視聴覚室は一般棟最上階の辺境。人気がない。隠れて合う場所としては適当だろう。そして既読がつくのを待ってからそのメッセージを消去することを忘れない。


 いつまでも生徒を教室に留まらせる訳には行かず、予定より遅くなってしまったが、HR(ホームルーム)が執り行われた。

 これによって無事冬休みに入ることが出来そうだ。しかし、僕の冬休みは事件を解決してからだ。解決しなければ部活動が終わらないからである。


 ホームルームが終わると花華はまだ残って、携帯を探すと聞いた。そこで一つ手助けする、とこっそりと言った。大々的に言うと青木に感づかれてしまうのと、青木の彼氏という面目を守るためである。

「僕も携帯を探すのを手伝うよ。人手が多い方が早いだろう。」

と、言うと花華は容易にうなずいてくれた。

「じゃ、僕は上から探してくる」



 結末から言うと、5F視聴覚室前には青木を含めて3人が現れた。想像通り、青木、森、岩田だった。しかし、その容疑者のしたことが日の光に触れることはなく携帯は真の持ち主に返された。

 だが、岡本の個人情報は一度渡ってしまった。盗品と違い、情報は一度渡ったら取り戻すことは出来ない。


 そこで、僕は取引を申し出たのだ。青木達は先生の取り調べにシラを切り通したそうだ。だから携帯、財布を盗ったことを言わない代わりに岡本に近づかないこと、花華と別れることを約束させた。破ったらそれなりの対応をすることを念押しした。


あとは明日から冬休みに入る。その間に反省してくれることを願うしかなかった。



 1Fから一人でしらみつぶしに携帯を探していた花華には携帯が5Fに落ちていた、そういうことにした。

「やった!(れい)さんが返ってきたっ!ありがとうヨシハル」

「零さん?」

花華はそんなことも知らないの?という顔をしながら自分の携帯のロック画面を突き出すように見せてきた。

「このお方がそうなのだ!」

そこには最近、流行のソーシャルゲームの男性キャラクターがいた。

幸せそうでなによりだ。

だからこそパスワードも零なのか。と、合点がついたのである。青木も二次元に少しは興味を持って寄り添っていれば簡単にパスワードを解くことが出来たのかもしれない。


「なんかまた裏で動いてくれていたんでしょ、どうせ」

 

 やれやれといった感じで、しかし優しい顔で立っていた。視聴覚室は、5階で特別棟の最上階にあるが、一般棟は4階建てで視聴覚室前の廊下は日が良く抜けて明るいのだ。一階にいたであろう花華が、もし見上げていたら人影くらいは見えたかもしれない。


こいつには敵わないな、と心から思った。

 寒い廊下に長いこといたせいで身体が冷えていた。昼をすぎて、傾き始めた太陽は一般棟に陽を当ててくれない。さて家に一刻も早く返って温泉に浸かることにしよう。



 夜ではあるが、この寂しい街をよく歩き回ってしまった。時刻は12時を指す所だった。芯から冷え切った身体を温泉に浸かって暖めているとこだ。こればかりは温泉宿の息子に産まれて良かったと思える瞬間だ。12時を過ぎればお客さんが温泉に来ることが珍しいので12時過ぎのみにしか楽しめないのだが。


 しかし、温泉から出ても僕の頭はまだ休まることなくあることを考え続けていた。

(やはりサトルは僕にアルバイトを始めることを言っていないのではないか。)

まだ冬休み初日の夜。ここ一週間のできごとを思い出し、その()()の答えへとたどり着いたのである。



今回で一応の一区切りです。

結局、サトルは誰にも何も言わずにアルバイトを始め、

岡本愛生と桜ヶ丘夏海は無事に放課後お出かけに行けたことでしょう。


ヨシハルと花華は今後どうなるか私にもわかりません。

来週からはまた別の事件が起きるようですが……

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