第三十八話 珍事発生。
ドブさらいの作業を終えて、僕たちは冒険者ギルドの裏手に戻ってきた。
依頼を終えたことを職員さんに伝えると、確認をしてくれるみたいだ。
ややあって職員さんが戻ってくると、『お疲れ様です』という言葉と共に、間違いなく達成したと言ってもらえた。
報酬をもらう前に、ギルドの建物にあるシャワーを使わせてもらった。
冒険者ギルド持ちで、お弁当をご馳走してもらう。
沢山食べると言ったら二人分もらえたから助かった。
パンにスライスした焼いた肉と、葉野菜が挟んであったんだけど、これが案外美味しかった。
報酬をもらいにいったとき、その珍事は起きてしまった。
「カズヤさんありがとうございます。本当に、ありがとうございます……」
(うわ、まさかと思ったんですがやっぱり出てしまいました。かゆい、すっごくかゆい……)
『あぁ、出てしまったのか……』
シファリアさんは感極まってか、僕の右手を両手で握って、僕を見つめて笑顔で目一杯感謝してくれてる。
けれどかゆくて、かゆくて、たまらない。
服の袖に隠れてはいるが、右腕の内側も外側も多分びっしりと蕁麻疹ができている。
それでも再生のおかげで出ては消えてを繰り返しているはず。
おそらく彼女が僕に触れている間は続いているだろう。
(あ、ちょっと鼻がツンとしてきた。まずい。このままだとまずいってば。鼻血出て倒れるかもしれない……)
『明日受ける予定の依頼に話を振ってみるんだ』
(あ、そうですね)
「あのっ、よかったら『白猪厩舎の掃除の手伝い』のこと、教えてもらえませんか?」
「あ、はい。わかりました。あ、その、私ったらその、すみません……」
シファリアさんは、僕の手を握りっぱなしだったことに気づいてくれた。
とにかく彼女が手を離してくれたから、徐々にかゆみもひいてきた。
危なかった、阿形さんの機転のおかげで本当に助かったかもしれない。
△△△△
あれは僕が学校の中等部を卒業し、高等部へ上がるくらいのころ。
春休みに起きた珍事としか思えない黒歴史の始まりだった。
腕を痒くてぽりぽり掻いていたとき、鈴子先輩がたまたま僕の蕁麻疹症状を指摘してくれた。
ハウスダストかそれとも食べ物か?
普通であればアレルギーは怖い物だ。
けれど彼女は、阿形さんと吽形さんのことを知っているのと同時に、僕の再生の体質も知っている。
だから原因を調べようということになった。
あれこれ検証した結果、僕の腕に起きた症状は、物語でネタとして使われる、いわゆる『都市伝説』だと思っていた『女性アレルギー』であった。
それはもう、鈴子先輩も文庫先輩も、千鶴姉さんも唖然としていた。
だが、阿形さんと吽形さんの体質を引き継いだ僕なら、科学的に証明できないアレルギーがあってもおかしくはない。
そう阿形さんも言ってくれた。
するとなぜか皆、納得してしまった。
僕の周りに女性は、姉さん、吽形さん、母さん、お婆さま。
母さんのお店でお世話になっているアシスタントチーフの京子さん。
あとは、僕も姉さんも学校では生徒会に属していた。
そこには、生徒会長で姉さんの親友でもある仲田原鈴子先輩がいた。
鈴子先輩の弟で僕のひとつ年上の文庫先輩。その四人だけだった。
千鶴姉さんや吽形さんからは出ずに、鈴子先輩と京子さんからは、アレルギー症状が出ていた。
もちろん、母さんからは出ていない。
おそらくは、家族の間では症状が出ないのかもしれない。
同時に、『偽装の術』を使ってオクターヴになっているときには、鈴子先輩が触れても触れても症状が出なかった。
そういう不思議なアレルギーだったことがわかったのだった。
ちなみに、目隠しした状態でも、千鶴姉さんと鈴子先輩とで症状の出る出ないがはっきりしていたこと。
それによって、僕が潜在的に女性が苦手で、それが要因になっているわけではないこともわかった。
『映画の中の英雄たちと同じようにさ、現実のヒーローにも弱点はあるんだね』
そう笑っていた鈴子先輩が印象的だった。
△△△△
(危なかったです)
『なんとか事なきを得た感じだな』
(はい。阿形さんの機転のおかげで助かりました。ありがとうございます)
『お、おう』
僕は危うく鼻血を出して倒れる寸前。
阿形さんのおかげでなんとかそれを回避できた。




