第三十四話 身分証を作ろう その2
僕や姉さんと比べると、阿形さんと吽形さんは間違いなく人間よりも高位の生命体であるのは間違いがない。
なにせ僕が受け継いだ体質だけではなく、僕たちが知り得ないテクノロジーを持っているのだから。
饒舌やや暴走気味な阿形さんに、何らかの提案ができているのかどうか、僕には正直わからない。
『なるほどな。確かにそうとも言える。だが、加護を得るだけの目的であるなら、近距離で召喚し合えばいいという理屈にもなるだろう。それで、求める問題が解決していたのなら、そうしていただろうな。おそらくそれでは不都合があったのだろう。それ故に、外界から召喚することになったとも考えられるな。そうなると、召喚される側との距離にも何かあるんだろうか? それとも、ある一定の速度に達した時点で、脳などの器官に何かの影響を与える仕組みがあるとか? またはその、召喚術式によって転移のような状況下に置かれることが必要なのだろうか?』
阿形さんは再び饒舌モードに戻ってしまう。
もしかして火に油を注いだ状態になってしまったのだろうか?
(はい、またよくわからなくなってきました……)
『まぁどちらにしても、だ。実に興味深い』
そんな話をしながら待っていると、僕の順番が回ってきたようだ。
「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ。私は受付のシファリアと申します。お客様はどのようなご用件でしょうか?」
(ファミレスじゃないんですから)
『あ、あぁ。確かに似たようなノリだな……』
受付の担当のシファリアさんという女性に対して、僕も阿形さんも、同じイメージを抱いてしまったようだ。
シファリアさんがしている手の仕草、笑顔、挨拶の口調はまさにファミレスチック――ファミリーレストランの店員さんを彷彿させるもの――だった。
身につけている服装も、私服ではなくしっかりとした制服。
だから余計にそれはもう、僕も阿形さんも思わずツッコミを入れてしまいそうになるほどのものだ。
危うく当初の目的を忘れてしまいそうになるところだった。
「あ、はい。初めまして。僕の名前は一八です。……僕は昨日、この国へ来たばかりだったのですが、王都への出入りに必要な身分証を持っていなかったんです。色々とありまして、手持ちがほぼなくてですね、外門に勤めていらっしゃるソルダートさんに相談したところ、ここで作ってもらうといいと勧めらました。それでその……」
僕は『ソルダートさんの名前でわかってくれるかな?』と、ちょっと不安になりながら、待っていたらシファリアさんは笑顔でこう言ってくれる。
「ソルダートさんからのご紹介だったのですね。承知いたしました」
「はい、ありがとうございます」
シファリアさんはわかってくれたみたいで、僕は内心胸をなで下ろす。
「では、手続きに入らせていただきますので、こちらの必要事項にご記入をお願いできますでしょうか? 読み書きが苦手でしたら、代筆もいたしますので、遠慮なく言ってくださって構いませんからね」
身分証発行のための申込用紙、その記入欄には氏名、性別、年齢だけしか項目がなかった。
出身地などを聞かれるかと思っていたんのだが、やや肩透かしにあった感じがする。
僕は、この項目の文字に合わせて、自分の名前を書けるように思うだけで頭に文字が浮かんでくる。
『言語理解』はとんでもなくチートだ。
おかげですらすらと記入できている。
「……これでいいですか?」
僕は記入するべきところは書き終えたと思った。
用紙をくるりと百八十度回して受付のシファリアさんに向ける。
すると彼女は、ちらりと用紙を確認すると、笑顔を見せてくれる。
「あら、十八歳? 私の弟と同い年なんですね?」
「弟さんがいらっしゃるんですね」
「はい。商業ギルドで見習いをしているんです」
三つ年上。なるほど、そうなるとシファリアさんは、千鶴姉さんと同い年ということになる。
「すみません、話が逸れてしまいました。記入された内容に間違いはございません。それでは少々お待ちくださいませ」
すぐ裏にある何かの機械みたいなものに、何かを乗せる仕草をしている。
そのあと、何やら組み合わせるような作業のあと、すぐに『ガシャン、ガシャン』と何かを刻印するような少し大きな音が聞こえた。
(何の音でしょうね?)
『おそらくオレの知らない何かだろうな、実に興味深い』




