第三十一話 そういえばおかしくないかい?
『まぁ、どちらにしてもだな。以前、異世界についてオレが前に話したことがあったと思うが』
(はい。覚えています)
以前の話。
僕と姉さんが異世界漫画の話をしているときだった。
そのとき阿形さんは、
『一八くんたちの言うところの、異世界の存在は否定ができない。もしあるとするならそれは、外宇宙に存在する星系で、一八くんたちとは違う進化を遂げた惑星ならばあり得るだろう。オレたちがその証拠でもあるのだからな』
と話をしてくれたことがある。
『あの日、オレたちがビルから降りたあと、この世界へ例の転移術式とやらで連れてこられたわけじゃないか?』
(はい。おそらくあの瞬間だと思います)
あの日、買い物があったため、家へ戻る前にビルを降りたところで光に包まれた。そういう認識は、僕も阿形さんも同じだったということになる。
『「召喚術式」の副作用なのかはわからないが、一八くんに、「言語理解」という能力が現れたのは事実だ。だが、一八くんの身に起きたその現象を、オレは説明することができない。ただ、『召喚術式」を受けたことで、この世界の何かと交わった可能性もある。それによる何らかの副作用があったとしても不思議ではないだろう。ほら、一八くんのあの体質のようにな』
(あー、確かにそうかもしれませんね)
袖口あたりが気になってしまう。あれはここに出やすいものだったからだ。
『あははは。思い出させてすまないな。だが、おかしくはないか?』
(何がですか?)
『おそらく、「言語理解」というのは、発現する可能性のある、最低レベルの能力とも思えなくないか? それを見た者たちは、顔色一つ変えなかったわけだろう?』
(あ、確かにそうですね)
確かに侍女も、あのエレオノーラも、僕の言語理解を見て何も反応をしなかった。
それどころか『言語理解だけ』と言ってたのは覚えている。
そうすると、『言語理解』自体は珍しいものではなかったということになる。
『けれどな、オレにはその最低レベルの能力すら発現していない。事実、こちらの世界の文字は読めないからな。オレも一八くんと共に世界を渡ってったんだ。オレはこれでも一応、生きて存在する人のつもりだ。……おかしいとは思わないか?』
阿形さんの見た目は本来リアルなタコのような感じ。
それでも彼らは、異星人ではあるが僕たちと同じ人なのは間違いないのである。
なのに、僕だけ最低限である『言語理解』の力が備わるという現象が起きて、阿形さんには起きないのはおかしいとも言える。
(あ、……言われてみたらそうですね)
『あくまでもオレの予想でしかないんだが。転移術式とやらにだな、言語理解などを発現させる仕組みが組み込まれていた可能性があると思っている。例えばだな』
(はい)
『一八くんのように魔力の多い者を転移術式で呼び寄せることによって、何らかの力が発現する。みたいなものがあるのかもしれないな。だからそのため標的となった一八くんだけに影響を与え、言語理解が発生した、ということではないかとも思っている』
(な、なるほどです)
『オレは、たまたま一八くんの中にいたことにより、一八くんの召喚に巻き込まれた。そこでオレには、マテリアルを失った程度の影響しかなかったのではないか? オレはその可能性も否定できないでいるんだ』
(はい)
『平行世界を渡った者に不思議な力が出現するのであれば、オレの身体にもあっておかしくはないとは思わないかな?』
(た、確かにそうですね)
『だがオレにだけ何も影響がなかった。それだけの理由だがオレは、ここが平行世界ではなく、地球とは違う別の外宇宙である可能性を、排除できないでいる。なぜなら、ここへ連れてこられたのは、一八くんだけでなくオレも一緒だったからだ』
(はい)
『オレはな、物語に出てくるような、魔法や魔術の概念を知らないからなんとも言えない。だが少なくともここが、地球より何光年も離れた外宇宙にあって、似たような進化を遂げた星系だと仮定する。「召喚術式」がもし、オレたちの知る物理法則を無視して、距離だけをゼロにできる魔法だとするなら、ここまでの移動が可能になるだろう。あの短距離転移の魔道具を作ったときの元になった、オレの星に存在していた転移の概念がそれに近いな』
(……うん。こんがらがってしまって、よくわかりません)




