第二十四・二話 そのとき何があったのか?(Girl's Side)
千鶴と吽形は食べることが大好きな上に、且つ、かなりの大食漢。
買ってきた惣菜と、炊飯器にある焚いたばかりのごはんは二人で食べてしまった。
炊飯器の釜は千鶴が綺麗に洗って、残った惣菜の容器などは吽形がマテリアル化して綺麗になっている。
ちなみに、生ゴミなどもマテリアル化できるとのことで、とてもエコであった。
「吽形さんその、魔力エネルギー、でしたか? 補充しなくても大丈夫です?」
『今のところ大丈夫ですよ。必要なときはわけてもらいますので、そのときはお願いしますね』
「わかりました。さてこれからどうしましょう?」
『えぇ、そうですね……』
これまで何年もの間このマンションで、千鶴、吽形、一八、阿形の四人で生活をしてきた。
一八や阿形と吽形に関する秘密の共有も、千鶴の親友で同い年、漫画家の仲田原鈴子。
彼女の弟で大学生、千鶴と同じ事務所に所属している後輩モデルの仲田原文庫。
彼女らの間だけで行われていた。
現在はまだ、一八と阿形が行方不明になっていることを、鈴子と文庫には知らせてはいない。まずは千鶴と吽形である程度調べてから連絡することになるのだろう。
「やーくんは再来週末まで夏休みです。それまでに、やれることはやりたいと思っています」
『えぇ、わたくしもそう思っていますよ』
「協力者も必要なので、鈴子ちゃんたちには話しておくべきだとは思います。ですが、まだ」
『そうですね。まだ、右も左も分からないですから、まずは判断材料になり得るものを集めましょう』
「はい」
ちゃぶ台のかたちをした、この船メインシステム――金剛のコンソールパネルを操作する吽形。
「吽形さん、何をしているんです?」
『あの人の痕跡を、金剛に追わせようと思っているんです』
「そんなこともできるんですね」
『えぇ』
「わたし、思うんです。やーくんと阿形さん。何らかの事件に巻き込まれてただ、攫われたとしたら、……それでもおかしいですよね? 持っていたスマホだけでなく、服や下着まで置き去りになっていたなんて」
『えぇ、そうですね。あの場に置き去りになっていたのは、あの人が持っていたはずのマテリアルです』
「なるほど、あれがマテリアルだったんですね」
これまで吽形たちの眷属という繋がりを持つことができずに、少しだけ疎外感を感じていた千鶴。
だが今は、吽形の眷属としてののつながりを持つことができたことで、あの場で阿形が残したマテリアルを視認することができていた。
もちろん、同じ場所に落ちていた一八の服なども含め、どう考えてもあり得ない事態が起きているとしか思えないのである。
『あの人が購うことのできなかった何かに襲われた。けれどわざわざ、二人を丸裸にしてまで攫う必要があったのでしょうか?』
「それなんですが、吽形さん」
『なんでしょう?』
「以前なのですが、この世界には、阿形さんや吽形さんのような存在がいるかもしれない。……そう、話をしてくれましたよね?」
『えぇ。わたくしたちの足下を掬われてしまうと思えるほど、強力な存在でないことがわかっていましたので、それほど気にはしていなかったのですよね』
「そうだったんですね」
吽形たちのような、人間よりも高位の存在がいるのは間違いないのだろう。
『一八さんが何らかの手に落ちそうになったとして、あの人は持てる力の是全力で守るはずなのです』
「ですがもし、やーくんも阿形さんも、意表を突かれるような方法で捕らえられてしまったとしたら」
『そうですね。ですが最低限、あの人が生きていることだけはわかるのですよ』
「それってどういうことですか?」
『あのですね。あの人との間にある、血の絆はまだ切れていないのです』
「血の絆? ですか?」
『えぇ。わたくしとあの人は夫婦ですからね』
「それってあぁ、そういう意味なんですね。わたしはやーくんを感じられません。ちょっと残念です……」
『数日の内にある程度状況はわかると思います』
「そうなんですか?」
『えぇ。あの人が作った金剛はとても優秀な子ですからね』




