第二十四・一話 どこへ行ってしまったの?(Girl's Side)
千鶴と吽形は那覇新都心にある公園の敷地内にいた。
そこで、一八の残した服やスマホと、阿形の残したマテリアルを回収した。
吽形の『隠形の術』で姿を消すと、そのまま『飛翔の術』を使って空へ飛び立つ。
その間ずっと、千鶴は手に持った自分と同じモデルで色違いのスマホを見ていた。
ついさっきまで、いつまで経っても既読のつかない、自分の送ったメッセージを見続けていた。
今までこんなことはなかった。
どんなに長くとも、授業が終われば既読がついたのだから。
『千鶴さん、こうなってしまってはですね、焦ってもどうにもなりません』
(あ、すみません。確かにそうですね)
すると思い出したかのように、千鶴のお腹が『くぅ』と鳴った。
(吽形さん、あそこ、寄ってもらえますか?)
『えぇ、いいですよ』
千鶴は一八のスマホをポケットにしまうと、ある場所を指差した。
そこは、那覇新都心でも一番大きなデパートの建物。
吽形は搬入口のある裏手に着地。
そこから千鶴はぐるりと反時計回りで建物に入っていく。
じつはこの道順が一番食品売り場に近いからだ。
西側の入り口から入ると、ぐるりと回って惣菜コーナーへ。
(昨日は天ぷらだったから、エビチリがいいですよね?)
『そうですね。あと、アジフライもいいですか?』
(はいはい。そうしたらタルタルソースも忘れないように、あとでごはんと一緒に持ってきましょーねー)
買い物かごに今晩のおかずになりそうなお惣菜を選んでいく。
千鶴たちが生活するマンションでは、朝晩の食事は一八が作っている。
彼は料理だけでなく、洗濯や掃除までプロフェッショナルなみの腕前を持っていた。
なぜなら一八は、二人が生まれ育った地元で喫茶店を経営する父の料理を小さなころから見て育ってきた。
見よう見まねで料理をするようになり、小学校低学年のころには父と並んで家の料理をするようになっていたからだった。
そのため、千鶴だけでなく、吽形も阿形もしっかりと一八に胃袋を捕まれてしまっていたのである。
惣菜などの買い物を終えると、吽形は冷めてしまわないように『格納の術』を使って保存しておく。
吽形も阿形も、どちらが使っても宇宙船のコントロールルームである、金剛の倉庫へ転送されるように調整がなされていた。
あとは一度部屋へ戻って、炊飯器や食器などを持ってきたらいいだけ。
部屋に入り、ささっと吽形に格納してもらったら、急がず騒がず『転移の魔道具』を使って金剛の中へ。
「あ、これ。コンセントボックスですよね?」
実は金剛では、ちゃぶ台の中央付近に、電気のコンセントボックスが用意されていた。
これでいちいち格納することなく、温かい炊きたてごはんを食べることができるというわけだ。
『えぇ。あの人が作ったんですよ。いつか使う日がくるだろう、とね……』
吽形はコンセントボックスを見ながら少し遠い目をしていた。
少しでも気落ちする空間を作りたくなかったからか、千鶴は遠慮せずにコンセントを差した。
すると、保温を意味するオレンジ色のLEDが点灯する。
「あら。本当に使えました。これでごはんが冷めないですし、なくなっても炊けますね。あ、もちろんわたしこう見えても、ごはんくらいは炊けるんですよ」
えっへんと偉そうな仕草をする千鶴。
確かにお米を研いでごはんを炊くことはできる。
前に一八たちから教わったことがあるからだ。
だが、それ以上はできない。
そのためこうして、お惣菜を買ってくるという手段に出たのだから。
千鶴と同化していた吽形は、まるでプライズゲームの景品にありそうなピンク色のタコさんぬいぐるみを模したデフォルメチックな姿を現す。
『そうしていただけると助かります。わたくしはこの姿になっても、お米を研いだりするのは苦手ですからね』
「あ、でも、吽形さんならわたしや一八の姿になることも可能なのでは?」
『どうでしょうね。何分試したことがありませんからね』
確かに吽形たちは、『偽装の術』を使って千鶴たちの前で人間の姿になってみせたことはなかった。
『あの人たちが見つからなければ、いずれそうする必要性も出てくるでしょう。明日から練習してみましょうかね』
「やーくんの写真は沢山あるから、いくらでも見せられますよ」
すると同時に、『くぅっ』っという音をたてて、千鶴と吽形の空腹のサインを示すようにお腹が鳴った。
『助かります。それでは、夕食にしませんか?』
「そうですね」




