第二十四話 目的地に到着?
町までもう少しというあたりで僕は、地上へ降りてもらって『隠形の術』を使って姿を消した。
何度も繰り返したこともあって、阿形さんの力を借りずとも、この程度であれば僕にもできる。
入国手続きをしている門の前へ近づき、耳をすましてみた。
すると、聞こえてきたのはこのような内容だった。
「ソムルエール王国王都へようこそ。こちらの国へは観光かな? それとも就労かな? 身分証はお持ちかな? そうでなければ銀貨一枚を預かることになるが――」
一度門から離れて、遠目に見ながら阿形さんと話す。
(ソムルエール王国だそうです。ファルブレストとは違う国みたいで一安心、だったんですが、ひとつだけ問題がありますね)
『どうしたんだい?』
(身分証がない場合、銀貨一枚を預けることになるそうです)
『確かに、オレにもそう聞こえた。さて、どうしたものか……』
(僕にちょっと考えがあります。もし駄目でしたら、阿形さんの手を借りるかもしれませんが)
『あぁ、やってみるといい』
『隠形の術』をかけた状態で、僕は地面を二、三度転がったあと、軽く叩いて服が汚れた風にしておく。
顔も少し汚して準備完了。この段階で、『隠形の術』を解いておいた。
僕の着ている服は、阿形さんが汚れすら綺麗になるように再生している。
それ故に、見た目が綺麗すぎる。
姿を変えられる『偽装の術』を使って、汚れた僕になるのもできるが、どこかリアル感が欠けてしまうだろう。
だから少しだけ本当に汚しておいた。
阿形さんに作ってもらったリュックを背負い、水筒をかけて入国審査の列に並ぶ。
するとややあって僕の番がまわってきた。
「ソムルエール王国王都へようこそ。こちらの国へは観光かな? それとも就労かな?」
「はい、就労のつもりです」
「身分証はお持ちかな? お持ちでない場合は銀貨――もしや道中に、何かあったのかな?」
僕の頬の汚れに気づいたのだろう。
少々わざとらしい感もあるが、僕なりにあのときの悔しさ、絶望感を思い出して、必死さを出してみたのである。
「あのですね。ここに来るときに馬車に乗せてもらいました。ですがその道中、薄暗くなったときにナイフを突きつけられてしまったのです。僕はなんとか抵抗してその場から逃げることができました。幸い無事だったのですが、荷物もお金も持ち去られてしまって……」
「あ、あぁ。それは大変だったね……。なるべく早く、身分証を作ってくれると助かるよ。簡単に作れるとするなら、冒険者ギルドか商業ギルドかな? 商売をする予定がないのであれば、冒険者ギルドがいいかもしれない。それとね、私がいい宿屋を紹介してあげよう。そこなら簡単な労働もさせてくれるからね」
何やら紙に書いてくれているようだ。
騙すようで心苦しいが、銀貨一枚どころか無一文の僕たちには預託金なしで通れるのは助かった。
「はい、助かります」
「ここをまっすぐ行くと宿屋街が見えてくる。一番手前の右側に、赤い屋根で一階が酒場になっている、道標亭という名の宿屋がああるんだ。その女将さんに、ソルダートの紹介だと言ってこれを見せたら、よくしてくれると思うよ。頑張ってね」
僕は手紙のようなものをソルダートさんから受け取った。
だから今できる精一杯の感謝を込めて、僕はお礼をすることにした。
「助かります。ありがとうございました」
こうして無事に、門を通過することができたわけだ。
『なかなか良い切り抜け方だと思ったよ、一八くん』
(はい。宿屋も紹介してもらえました。情に訴えた形になってしまいましたけれど、嘘は言っていません。実際にお金もなにもなくなって、殺されそうになりましたからね)
『あぁそうだな、実に誠実だったと思う。だが最低限、服の汚れは落としておこう』
相も変わらずどういう理屈かわからない。
鏡を見たわけではないからなんとも言えない。
だが、阿形さんは事もなくあっさりと、僕の頬と服から汚れを落としてしまったんだろう。
(ありがとうございます。それでは宿屋に向かいましょうか)
『あぁそうしよう』




