第二十話 王城内への潜入 その2
最初に入った部屋は、物資の積まれた倉庫のよう。
その並びの部屋も同様である。
やはり僕たちが入ってきたところは、搬入口で間違いないだろう。
倉庫以外の部屋に最初に入ったと思えた部屋には、台帳らしきものがあっただけ。
読んでみると、搬入された品物がどこからどれだけあったかなどが書いてある。
やはり仕入れ台帳みたいだ。
薄暗いが僕の目にはしっかりと文字が見えている。
阿形さんたちから受け継いだこの身体は便利だと思った。
(ここにある書類は仕入れ台帳みたいなので、僕たちが入ってきた場所は、物資搬入口で間違いないみたいですね)
『なるほどな。だが、さっきの文字、よく読めたな?』
(はい。あ、僕に現れた例の『言語理解』のおかげだと思います。……そういえば阿形さん、ここにあるのはもしかして、ファルブレストの地図みたいですね?)
棚の横にある壁には、世界地図みたいなものが貼られていた。
中心に王城と城下町があって、東には海。城下町と王城などの位置関係がしっかりと書かれていて、それは僕たちが上空から見たのとほぼ同じ。
ここより南西には見覚えのある地名、ブルガニール男爵領の記述もあった。
『あぁ、確かに上空から見た形と似ているな。いただいておこう』
僕が指先で触れると、そのまま地図は消えてしまった。
阿形さんが『格納の術』を使ったのだろう。
(阿形さん、ここにある台帳、いくつか全部持っていきませんか? もしかしたら仕入れ先とかの情報が載っているかもしれませんから)
『あぁ、そうすることにしよう。そういう情報は使えるかもしれないからな』
すると次々と蛸腕が動いて、さささっと台帳が僕の目の前から間引かれるようにして数冊消えていった。
同時に阿形さんは、そっくりな外側だけの台帳そっくりのダミーを作ってくれた。
それを入れ替えるようにして差していく。
これなら、明日の業務開始になったとしても、すぐには発覚することはないだろう。
台帳と地図のあった部屋を出て、僕たちは奥へと進んでいく。
台帳があった部屋以外は、搬入された物資が積んであるだけ。
僕はそれを見ながらあることを思った。
(阿形さん、さっきの場所が搬入口で、ここにあるものは搬入された物資だとするとですよ?)
『一八くんが言いたいことはわかっている。この界隈に、オレたちが欲する「召喚術式」とやらに関するものは、ここにはないだろう』
歩いたり走ったり、外から見た感じも、王城はかなりの高さと幅があったと思う。
『だからといって無理をして、最悪一戦を交えるようになるのは避けたい』
(はい、そうですね)
この城の大きさからいって、それなりの物資も必要なのはわかる。
だから倉庫も多いのは納得する。
だが、僕は思った。
(この城の見取り図か、案内図みたいなのが出てくれたら楽なんですけどね)
『そうそう都合のよいものが出てくるわけがないだろう?』
(それはそうなんですけどね)
先ほど、兵士なのか衛士なのかわからないが、巡回する人とすれ違った。
それでも、『隠形の術』で姿を消している僕たちに気く人はいなかった。
(あ、これ、時計じゃないですか?)
この区画の職員が使う部屋みたいなところがあって、その机の上に手のひらに載るくらいの大きさはあるアナログ時計みたいなものがある。
目覚まし時計みたいな大きさで、時間は八時半を指しているみたいだ。
『確かに時計みたいだな』
(夜八時半。なるほど、それならこの辺の職員は業務時間外なんでしょうね)
不思議に思った。僕たちと同じ十二時間の文字盤なのだから。
(これ、もしかしてですよ?)
『あぁ。一八くんのように、他の世界から攫われた人が作ったのかもしれないな。あとでバラしてみたいから――いや、今日この場から使えるから、これはいただいておこう』
僕の手から時計が消える。
阿形さんはささっと『格納の術』を使ったようだ。
そういえば阿形さん、何気に『分解してみたい』みたいな、本音が出ていたような気がする。




