第十九話 王城内への潜入。
橋を渡った先では城下町と違っていて、馬車が通る道はしっかり確保されてる。
道幅も広い。人があまり歩いていないからとても広く感じる。
建物は二階建てが多い。
立派で高そうな屋敷が多く感じる。
僕たちの進む道の先には、これまでとはまた別のかなり大きな建物。
僕がいたと思われる王城らしき建物が見えてくる。
ただ、城というより基地や工場、または倉庫みたいなイメージがあった。
『これはあれだ。城というより』
(基地、ですね)
『あぁ、そんな感じがするな』
僕と阿形さんは同じような認識をしていたようだ。
王城と思われる建物の外側には堀があった。
幅は十メートルくらい、深さはどれくらいあるのだろうか?
見ただけではよくわからないが、水面までは二・三メートルはありそうだ。
橋がかけられているが、いざというときは外すこともできそうな造りなのだろう。
王城と思われる建物の高さは四階か五階建てくらい。
それほど大きな感じはしないが、それでもここまで見て来たお屋敷が軽く十や二十は入りそうな規模に思える。
『一八くん』
(はい)
『ここは裏手に回ろう。このような場所には必ず、物資を搬入する場所があるはずだ。もしなければ、正面突破も致し方なしだがね』
(また冗談ですか? あははは)
『隠形の術』を使っている間は、声さえ出さなければ足音すらもかき消してくれる。
だから僕は気にせず走ることにした。
それでも裏手に回るまでそれなりの時間がかかった。
薄暗かった辺りは、真っ暗になっていた。
『日が落ちるのが早いな。もしかしたら、夏より秋に近いのかもしれないな』
(こっちにもそういうのがあるんでしょうか?)
『わからん。だが、ここが箱庭のような特殊な空間ではなく、ごく普通の惑星ならば、四季も存在するだろう』
(確かにそうですよね)
阿形さんは思ったよりも落ち着いている。
(あ、あそこ)
『そうだな。馬車もあるようだ』
裏手までにいく途中で、搬入口のような場所を発見した。
搬入作業はされてはいないが、馬車の荷室だけが置きっぱなしになっている。
馬が繋がれていないから、明るい時間帯に入れ替えでもするのだろうか?
それはまるで、トレーラーが置いてある倉庫そっくりである。
何やら明かりを灯すライトのようなものを持って、巡回してる人の姿が遠くに見える。
だが幸い、この区画に人の気配は感じられなかった。
シャッターが装着されていないからか、ただ大きく開け放たれている。
王城の倉庫ということもあって、ここから何かを盗み出す人もいないのだろう。
『一八くん。城へ入る前にこれをつけておきなさい』
右肩から現れた阿形さんが持っていたのは、軍手に似たものだった。
(ありがとうございます)
よく見ると、滑り止めのイボ付き。阿形さんがマテリアルから作ってくれたのだろう。
再現性が高くて少し感心した。
装着感も厚さも軍手みたいで、ごつごつふわっとしている。
『指紋という概念があるかはわからない。だがなるべく痕跡は残したくないからな。さぁ、行くとしよう』
(はい)
準備万端。
改めて奥へ行こうとしたときだった。
そこには城の中へ繋がるだろう、鉄製の大きな扉があった。
大きさは幅が二メートルくらい、高さが三メートルくらいはありそうだ。
(鍵がかかっているみたいですね。鍵穴はありますけど、どうしましょうか?)
『そんなものはこうしてだな』
いつもは僕の右肩あたりにいる阿形さん。
彼は、僕の腕に沿うようにして蛸腕を伸ばし、器用に鍵穴へ入っていった。
彼は元々タコに似た姿をした異星人。
擬態の術を使って身体の一部を変化させることなど朝飯前。
だから、どんな形にも変化でき、こんなことも可能なのだろう。
『一八くん。開けてみなさい』
(はい、……あれ? 開いた。鍵を開けてくれたんですね?)
スライドするようにして、扉が少し開いた。
僕は中に入ると、ゆっくり扉を閉めた。
『思ったよりも単純な機構だったからな。中から開けてしまえばこんなものだよ。マテリアルで包んでしまえば、音も出ないからな』
(思った寄りも力業だったんですね)
『まぁ、そうだな』
搬入口から入ったからなのか、城の中とは思えないほどに静かだった。
それはまるで、真夜中の病院にいるような感じだ。
夜明けまでは、まだ時間も余裕はある。
お腹も例のごとく満腹状態。
僕たちは、入れそうな部屋から探っていくことにした。




