第十八話 王都へ入り込んで。
僕たちが潜入した場所は、城門にいた者の言っていることを察するに、間違いなくファルブレストの王都だった。
僕たちは、その城下町と思われるところへ潜入した後、色々な人とすれ違いながら先へと進んでいく。
そんな人々の流れを見ながら、上空から見ていたある場所を目指した。
そこは、王城があると思われる区画へと繋がっている、橋の手前にある関所のようなところである。
そこにたどり着くまでに、あちらこちらで見かける不思議なもの。
特に僕の目を引いたものは、電線が通っていないのに明るく灯る、店先に吊してある明かりがある。
それに似たものは店舗の中からも明かりが確認できている。
(あれもらももしかして、魔道具なんでしょうか?)
『おそらくそうだろう。オレとしてはその動力源気になるところだ。バッテリーのようなものだろう。そう思うと、実に興味深い』
『隠形の術』で姿を消したまましばらく進むと、目的の場所が見えてくる。
そこは、槍を持った人二人、行く手を阻むかのよう、橋の入り口の両側に立っている。
その先は上空から見た通り橋が続いている。ここから手前の町と、その奥にある区画を隔てるための、おそらくは関所のような働きをしているものと思われた。
阿形さんたちの眷属になった僕の身体は、再生の能力で身体の回復が早いだけではない。
例えば、薄暗い場所でも、それなりに辺りを見通すことができる。
関所らしき場所には馬車が停車しているのが見えた。
ここから見た感じは、何やら許可のある馬車だけが通行を許されているようだ。
『なるほどな、許可証を確認しているんだろう』
(はい、そのようですね)
『一八くん、ここは何事もなく通れると思うぞ』
(え? そうなんですか?)
『あぁ。荷の確認を口頭でやりとりしているようだからな』
(僕にはそこまで聞き取れませんでした)
『オレはそれなりに耳はいいほうだから、一八くんに聞こえなくとも仕方はない』
なるほど。
僕が阿形さんたちから引き継いでいるものと、そうでないものもあるようだ。
(阿形さんが言うならそうなんですね。では、行かせてもらい、ましょう)
先ほどは少し離れた場所を通らせてもらった。
だが今回はかなり近いところを通らなければならない。
僕は改めて恐る恐る、槍を持った衛兵の間を通らせてもらった。
一歩、また一歩、……じわりじわりと僕は、今まさに衛兵の間を通ろうとしてる。
だが目の前にいる二人は、まったく気づかれていないようだ。
(あれれ?)
『だから言っただろう? そもそもオレたちの『隠形の術』は完璧だ。それにオレが見た限り、ここは思ったよりもアナログのようだ。さっきここを通った馬車がいただろう?』
(はい、いましたね)
『荷の確認をする際にな、外から確認するような魔道具、例えるなら金属探知機のようなものを使っているような仕草がなかった。だからこいつらは、オレたち今ここにいることを気づいてはいない。まぁ、一八くんが声を出したなら違う反応を見せはするんだろうがな』
(確かに、そうかもしれませんね)
確かに僕は、阿形さんの言うように慎重すぎたのかもしれない。
そういえば地球でも、『隠形の術』を見破られたことはなかった。
それでもただ一人見破った人がいる。
それは僕の姉さんだった。
『隠形の術』は、僕の身体の外側を阿形さんたちのタコマテリアルで包み、周りの環境に合わせて限りなく透明にする技術。
僕が出した声までは消すことはできないが、その代わりに気配を消し、足音も消してくれるという、実にチートな術である。
誰に見破られることもなかった『隠形の術』。
だが、姉さんだけはこれを見破った。
見破ることとなったその原因は、僕の匂いだった。
『隠形の術』は、匂いまでは消してくれないことがわかったのである。
阿形さんは包み込むマテリアルを厳選、調整してその弱点を克服すると言っていた。
彼も案外負けず嫌いなのだろう。
関所を抜けて僕たちは、気にせず橋を進んでいく。
馬車だけがすれ違える幅とその両側に、一応人が歩けるくらいの幅が確保されていた。
頻繁に馬車が通ることはないのか、僕が橋を渡りきるまでに追い抜かれることはなかった。
(なるほどなるほど。ここは高級住宅地みたいになっているんですね)
『おそらくは、貴族とそれに準ずる者が住む場所なんだろう』
時間が時間なだけに、あまり人は歩いていない。
たまに見かけるのは使用人さんみたいな姿の人だけだった。




