第十六話 上空からの偵察
阿形さんが行使する『飛翔の術』は、それほど速く飛べるわけでではない。
以前測ってみたときは、確か最高速度が二百キロ程度。
その速度域からいえば飛行機というよりもヘリコプターに近い感じだった。
『飛翔の術』は、世間一般のドローンやヘリコプターのように、常に周りへ影響を与えるほどの風圧は発生しない。
そのため、飛んでいる間も音もあまり感じられない。
おそらく、僕と姉さんが『タコ魔法』と呼んでいた、阿形さんたちの使う異星人のテクノロジーを利用して飛んでいるからなのだろう。
僕はこの飛び方が、映画に出てくるスーパーヒーローのようで大好きだった。
僕たちは『飛翔の術』でファルブレスト側を目指して飛んでいた。
時計がないからどれくらい経ったかわからないが、暗くなる前よりも早く王都らしき場所に到着した。
なぜ『王都らしき』なのか、それは僕が上空から見たことがないことと、僕が馬車で搬出されて始末されていたこと。
ただ、同じ街道沿いにいかにも、という場所があったから、ほぼ間違いなくファルブレストの王都だろうと判断できたわけだった。
上空から見た感じでは、街道左側に大きな町がある。
その向こう側に、河川のようなものに挟まれて、長い橋に繋がった区画が見えた。
おそらくそこが、王族や貴族が住む場所となっているのだろう。
ファルブレスト王国を構成している、大きな町とその先の区画の先には海がある。
王族や貴族が住むのではないかと思われる区画は、水の張られた、四方に広く、水底が見えないほどに深いと思われる、堀のようなものに囲まれてる。
王都と思われる町の横幅を百とするなら、堀が五十くらいだろうか。
王城らしき建物がある区画も同じ五十くらいだろう。
『一八くん』
「はい」
『おそらくだが、この国は空を飛ぶ技術を持っていないかもしれないな。実にわかりやすい、造りをしているからね』
「そうなんですか?」
『よく見てみなさい。地面と水面の位置を』
目を凝らしてよく見ると、その点は僕にもなんとなく理解できる。
阿形さんが言いたいのはおそらく『この堀は、人が渡るのだけを避けるためのもの』にしか見えないということなのだろう。
(上空からの何かに対するものじゃないんだよね。確かに)
『その通りだな』
僕がそう思ったことへすぐに返事をする阿形さん。
「あ、やっぱりそうでしたか。それにあそこは、『隷属の魔道具』を使うんです。もしかしたら、魔法も使うかもしれないですよね?」
『あぁそうだな。手薄に見えるからといって、情報収集なしで直接乗り込むのは、愚策ともいえるだろう。あの堀に見える場所にだな、地対空ミサイルのような魔法や魔術がないとは言い切れない』
ゼロから宇宙船を作り上げてしまう阿形さん。
阿形さんと僕をあちらの世界から連れ去ったファルブレスト王国。
どちらが強いかなど僕には予想はできない。
だが、こちらへ連れてこられたあのときよりも、阿形さんがついていてくれる今なら、比べものにならないほどに心強いのは事実だった。
そんな阿形さんはある意味、千年以上生きているとはいえ僕と同じ現代人。
あちらの世界では普通にある防衛技術などの知識も持ち合わせている。
だからこのような懸念を抱くこともあるのだろう。
「……あそこに、僕たちを地球から連れてきた『召喚術式』があるんですよね? ですが、阿形さんの言うことはもっともです。ここは無理をしないのが――」
『まぁとはいえだ』
「はい」
『『隠形の術』使っていないオレたちがここまで近寄っておきながら、警報すら鳴っていない。あちらの世界では、こんな状態ならばレーダーに検知されてしまうと思うのだが。この状況はあまりにも間抜けだと思わないかな?』
「確かにそうかもしれません」
『少々慎重だと思うかもしれないが、オレはこのまま、あの城下町と思われる側から侵入を試みようと思っている。一八くん的にはどうだろう?』
「はい。いいと思います」
『そうして、町から入ってきた侵入者にだな、誰かが途中で気づいたとしてだ。オレたちより背後にいるだろう民と一緒に攻撃する愚か者はいないはずだ。なぁに、万が一撃たれたとしても当たらなければいいだけの話だ。オレは弾丸くらいであれば、避けきる自信はある。一八くんも知っているだろう?』
「確かにそうでしたね」




