第一五・一話 ふたりの残した痕跡(Girl's Side)
千鶴が吽形と血のつながりを持ったことにより、魔力エネルギーだけは確保することができた。
なぜなら今の千鶴には、吽形そのものが生命線だからである。
あとは、千鶴はまず自分に何ができるか?
阿形や吽形のような、人知を超えた存在がいるのだから、二人のような存在がいてもおかしくはない。
そしてその存在が善であるとも限らない。
そう考えると、吽形も予想できないようなトラブルに巻き込まれた可能性も高い。
そこで思いついたのが、一八のスマホが破損していないか、電源が切れていないか。
改めて一八のスマホに電話をかけたり、メッセーを送ることを試してみる。
それだけでも再確認しよう、そう思ったのだろう。
「……電話をかけましたがとってくれません。メッセージも送ることはできるんですが、既読にはなりません。阿形さんのほうはどうです?」
千鶴のスマホから一八のスマホへ、電話の呼び出しはできるが、留守番電話サービスへ移行してしまう。
SMSでメッセージを送ることは可能だが、どちらも一八の反応がないのである。
『そうですね。わたくしたちは一八さんの身体だけでなく、スマホにもマテリアルを埋め込みました。少なくとも存在しているのは間違いありません。ですがわたくしでは、GPSで位置の特定をするまでには至りません』
「あ、それならあそこだったらどうですか?」
『えぇ。そうですね。さっそく移動しましょう』
阿形が作った瞬間移動装置を使って、千鶴たちは阿形の造った宇宙船のコントロールルーム、『金剛』に来ていた。
「どうです? 使えそうですか?」
『大丈夫ですよ。わたくしはあの人みたいにマテリアルを使って、ここまでのものは作れはしません。わたくしにできるのはせいぜい、編み物程度なんですけどね』
吽形はそう言いながら、金剛のメインデッキともいえる、ちゃぶ台型メインコンソールを器用に操作をしている。
すると千鶴にも見覚えのある、パソコンのディスプレイに似た画面が表示される。
『残念ながら金剛からでも、あの人と一八さんの行方を追うには時間がかかるようです。ですが、一八さんが持っていたスマホのマーカーに反応がありました。産業センタービルの裏手にある公園。おそらくそこにあるようです』
「吽形さん、……とにかくその公園に行ってみましょう」
千鶴は画面に表示されている地図の位置を記憶させるために、スマホのカメラで撮しておいた。
千鶴たちは外へ出て、吽形の行使する『飛翔の術』で上空を移動している。万が一を考えて、『隠形の術』を使っているのはもちろんのことだ。
「おぉおおお、これがやーくんの見ていた景色なんですね」
吽形の力を借りてとはいえ、千鶴は生身で空を飛んだ数少ないうちのひとりとなったわけである。
『うふふ。こういうところは、姉弟なのですね』
「どちらかというと、わたしがやーくんを染めてしまった感じかしら?」
漫画やアニメ、特撮関係も大好きだった一八は、千鶴が毒していったようなものだった。
金剛の隠してある東の海上から那覇新都心まで、空を飛んだことであっという間に到着していた。
「吽形さん、あの公園だと思うのだけれど?」
『では、着陸しましょう』
公園の敷地で誰もいない場所を選んで、ホバリングするかのように華麗に着地してくれる吽形。
(吽形さん、どうですか?)
姿を消しているからといって、独り言になってしまうから、千鶴は頭の中で吽形に語りかける。
『えぇ。マーカーの反応はこちらですね』
『隠形の術』で姿を消しているが、千鶴の目にだけ見えている吽形の蛸腕が指し示している方角へ移動する。そこは、ビルとビルの間のため一日日の当たらない場所。雑草だけは刈ってあるが、あまり立ち入らない場所になっていた。
(……な、何これ?)
『……まさかとは思いましたが』
芝生の上に落ちていた、千鶴と同じモデルで色違いのスマホ。
その向かいには、スマホ同様に透明化されている物体。
ビルひとつ分ありそうな、巨大なキューブ状のものだった。
吽形が蛸腕を伸ばして、その物体に触れる。
するとあっという間に消えてなくなってしまう。
(今のはいったい?)
『あの人の残したマテリアルで間違いないでしょうね』
千鶴は落ちていたスマホを手に取る。
画面を表示させようとすると、パスワードを求められた。
何も考えずに入力すると、すぐにロックは解除される。
そのパスワードは、千鶴の誕生日だったからである。
(このスマホも、やーくんのだ。それにそこにある服……)
マテリアルを取り除いた場所にあったのは、一八が身につけていた服。
ズボンにシャツ、黒いインナー上下に、下着まで。
(これじゃ、もしかして)
『えぇ。地球にいない、可能性が高いですね……』




