第156話 追放幼女、魔力制御の手ほどきを受ける
2025/10/20 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
「では、まずは魔力についてです。どの程度まで知っていますか?」
「え? 魔力? うーん……魔力は魔法を発動させるために必要な物で、使い切ると死んじゃうかもしれないものだよね」
「そうですね。他には?」
「他には……あまり意識したことないかも……あ! でも使い切ると死んじゃうってことは、実は命そのものとか?」
「いえ。ほとんどの平民は魔力を持っていません。もし魔力が命そのものであれば、平民は生きてはいられないでしょう」
「あ、そっか……」
「魔力とは体内にある器に溜められている特殊なエネルギーのようなものです。そして魔力を使い過ぎると命に係わるというのは、命そのものを消費して魔力に換えられるからだと考えられています」
なるほど……。
「その器の大きさは生まれながらに上限が決まっており、肉体の成長と訓練によって器を大きくすることができますが、上限を超えることはできません」
「じゃあ、平民が魔力を持っていないのって、器の上限が小さいから?」
「いえ、平民は器を持っていません」
「え? そうなんだ。なんで持ってないの?」
「分かりません。ただ、直接触れて魔力を少し流してやれば簡単に分かります。先ほど我が主の器が大きいと分かったのもそれが理由です」
そっか。鍛えてどうにかなるって問題じゃないんだね。
「続いて魔法についてです。魔法は器に溜まっている魔力を制御して精霊に、我が主の場合は神にでしょうかね。渡すことで発動します。これはよろしいですね?」
「うん」
神聖魔法は別に神様に魔力を渡しているわけじゃないけど、ややこしくなるしわざわざ訂正しなくてもいいよね?
「この渡す際に、自分が発動したい魔法を精霊ができる限り発動しやすいように魔力の量と質を無駄なく調整すること。これが魔力制御の本質です」
「魔力の質を調整ってどういうこと?」
「え?」
メレディスは意外そうな表情であたしの顔を見てきた。
「今まで意識していなかったのですか?」
「うん。気にしたことなかった」
「そうですか。神聖魔法ではどうなのかは分かりませんが、精霊にとって人の持つ魔力とは属性が合っていたとしても使いづらいもののようなんですよ。なので、使いやすいように調整するんですよ。例えば、こんな感じで火を点けるとしましょう」
そう言ってメレディスは人差し指を上に向け、ロウソクほどの小さな火を出した。
「特に大した調整をせずに魔力を渡せばこうなります。ですが、より高温の火を出そうとすればきちんと調整する必要があります。このように」
メレディスは再び人差し指の先に小さな青い火を点す。
「わっ! すごい!」
これ、たしかガスが完全燃焼すると温度が高くなるってやつじゃなかったっけ?
すごいなぁ。初めて見たよ。前世だとたしか、みんな理科の授業で見たことあるんだよね?
「ええ。このように、魔力の調整をするかどうかで発動できる魔法は大きく変わるのです」
「そうなんだね! すごい!」
「はい。神聖魔法もきっと同じでしょうから、まずはこのことを学んでもらいます」
「うん!」
「ええ、いい返事です。魔法が使えるということは、体内の魔力の存在は感じられていますね?」
「うん」
「では、器の存在は分かりますか?」
「え? うーん……意識したことないかも」
「そうですか。では魔力の器を感じるところから始めましょう」
「うん」
「まずはリラックスしてください。それから目をつぶって、息を大きく吐いて自分の体に集中して」
はぁぁぁぁ。
大きく息を吐き、体内の魔力に集中する。
「では、お腹のこのあたりに魔力を集めてみましょう」
そう言ってメレディスはあたしのおへその上あたりにそっと手を添えた。
うーん、こうかな?
「いいでしょう。次は頭に集めてみましょう」
頭ね。こんなところに集めたことないし、変な感じ。
「では今度は左の膝に移動させてみましょう」
ひ、膝!?
こ、こうかな……? ううん。なんだかやりにくい。それに胸のあたりで引っかかる感じが……えい。
ふう。集められた。
「今、大きな引っかかりを感じていましたね?」
「うん」
「そこが器の口です」
「ここが?」
「ええ。引っかかりを感じたのは、器から取り出した魔力と頭に集めたときに変質した魔力が混ざったせいです。同質でない魔力は混ざりにくいですから」
「えっ? 変質した? あたし、何もしてないよ」
「無意識に変質させていたのでしょう」
「そうなんだ……」
「ですので、まずは器の口をしっかりと感じること、そして変質させずに魔力を体内で循環させる訓練をしましょう」
「うん。わかった。よろしくね」
「ええ。では、膝に集めた魔力を放出してしまいましょう」
「うん」
あたしは魔力をそのまま放出した。
「さて、今度は先ほど引っかかりを感じた場所からできるだけ少ない量の魔力を取り出してください」
「うん……あ、あれ?」
「どうしましたか?」
「なんか、器の口が分からなくなっちゃって……」
「慣れないうちはよくあることです。先ほどと同じように魔力を移動させて、器の口を見つけてみましょう」
「うん」
こうしてあたしは魔力を移動させては放出するという作業を何度も繰り返す。そうしているうちに器の口の場所がはっきりと感じられるようになり、そして……。
「あっ! できた! 器から魔力を取り出すってこういうことだ!」
あたしは十数回目にしてようやく器の中から魔力を取り出すのに成功したのだった。
次回更新は通常どおり、2025/10/26 (日) 18:00 を予定しております。




