第149話 追放幼女、朝練を終える
2025/11/18 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
えいっ! (ブンッ!)
やー! (ブンッ!)
えいっ! (ブンッ!)
うん。大変だけど、剣を振るとなんだか気持ちいいね。
「おお、いいですよ。我が主は筋がいい」
「え? ホントに?」
「ええ。今日が初めてとは思えませんね。普通の子供なら、もっと剣に振り回されていますから」
「今はゆっくりやっているから大丈夫なんじゃない?」
するとメレディスはくしゃりと表情を崩した。
「それが難しいんですよ」
「そうなの?」
「はい。それより、休まないで続けてください」
「あ、うん」
メレディスに褒められてなんとなく嬉しくなったあたしは一生懸命に素振りを続ける。
「そんなに急がなくていいですよ。同じペースで、しっかりと動かし方を体に覚えさせるんです」
「う、うん……」
あたしはふうっっと大きく息を吐いて気持ちを切り替え、再び素振りを始める。
「いいですよ。その調子です」
「うん!」
そうして素振りをしばらく続けていると、空き地の入り口のほうからウィルたちの声が聞こえてきた。
「た、ただいま戻りやした……」
「戻りやした……」
「はぁっ、はぁっ、うぇー」
えっ?
「我が主! 続けてください!」
あたしは思わず振り向こうとしたのだが、すぐにメレディスに注意されてしまった。
「ちょっと様子を見てきますから、そのままゆっくり素振りを続けてください」
「うん、分かった」
あたしはそのまま無心で素振りを続ける。
ブン、ブン、ブンと重たい木剣が風を切る音が鳴り、それになんともいえない爽快感を覚える。
へへっ。やっぱりこれ、結構楽しいよね。
「――」
「「「へい!」」」
すると何を言っていたのかは聞き取れなかったがメレディスの声が聞こえ、続いてウィルたちの大きな声が聞こえてきた。
それからすぐにウィルたちがあたしの前を横切って、空き地の奥のほうへと向かって走っていく。
「お前ら! 敬礼はどうした!」
「へ、へい!」
「すいやせん!」
メレディスに怒鳴られたウィルたちは慌てて胸に手を当て、あたしに向かって頭を小さく下げてきた。
……うーん。あたし、やっぱりメレディスって優しいと思うんだけどなぁ。
あたしが初心者だからってことはあるかもしれないけど、でもトラウマになるほど厳しい訓練を強制されてるわけじゃないしね。
それにさ。ウィルたちにまでああやって礼儀をきちんと教えてあげてるんだもん。
もしかして、あたしってものすごくいい先生をスカウトしたんじゃない?
そんなことを考えながら素振りをしていると、メレディスが声を掛けてきた。
「我が主、そろそろ時間ですよ」
「え? もう?」
「はい。あまり遅くなると午前の授業に間に合わなくなってしまいます」
「そっかぁ」
いい汗はかけたけど……もう少しやりたいなぁ。
「どうですか? 明日以降も続けますか?」
「うん! やる! 楽しかった」
「それは良かったです。明日も同じ時間にお迎えに上がりますよ」
「うん。よろしくね」
「はい」
こうしてあたしは木剣をその場に置き、メレディスに護衛されながら自宅へと戻るのだった。
◆◇◆
戻って朝食を食べ、その後はローレッタの授業を受けた。そしてすぐに午後となり、執務の時間がやってきた。
レスリーに護衛されながら執務室に行くと、そこにはエプロンもホワイトブリムも身に着けていないマリーの姿があった。
「あれ? マリー、その服ってどうしたの?」
「政務官にしていただきましたので、いつものメイド服をそれらしく繕ってみました」
「そうなんだ。すごい。似合ってるね」
「ありがとうございます」
マリーはそう言うと少し照れたような表情で俯いたが、すぐに真顔になる。
「それでは、本日の執務ですが」
「うん」
「ジェイクさんから複数の提案事項があるそうです」
「ジェイクが?」
「はい。資料を揃えて隣の部屋で待機していますが、呼び出してもよろしいでしょうか?」
「うん」
「かしこまりました」
マリーはそう言って部屋を出て行くと、すぐにジェイクを連れて戻ってきた。
「男爵閣下、お目にかかれて光栄です」
ジェイクはそう言って礼を執った。
「うん。提案があるんだって?」
「はい。まず一点目はスカーレットフォード男爵の紋章についてです」
「紋章?」
「はい。スカーレットフォード男爵には、正式に登録された紋章がございません」
「えっ? あたしの封蝋のやつじゃないの?」
「え? 封蝋ですか?」
「うん。これだけど……」
あたしはそう言って引き出しからシグネットリングを取り出した。
「失礼します」
ジェイクはそれを恭しく受け取り、すぐにその紋章を確認する。
「閣下、これは紋章ではございません。王家より爵位を授与した際に仮に与えられる代用紋です」
「そうだったんだ……」
「はい。代用紋は共通で、同じシグネットリングがいくつも存在します。混同を避けるためにもすぐさま紋章をデザインし、王宮に届け出るべきです」
「そっかぁ。気付かなかったよ。うん。ジェイク、ありがとう。すぐにやろう」
「は。続いて領地の経済についての問題なのですが……」
「うん」
「『すけ』の活用を制限することはできませんか?」
「えっ!?」




