030 破綻境界
キャミィはとっさにミーシャを突き飛ばした。
それは本能に基づく、体の“反射”である。
“考えて”から“動いて”いたら、間に合わずにミーシャの体は真っ二つになっていただろう。
そしてキルリスの斧は床を叩き壊し、一階が見えるほどの穴をあけた。
キャミィはすぐさま叫ぶ。
「ミーシャ、逃げてくださぁいっ!」
どうしてキルリスさんが――なんでミーシャさんを――そんな疑問がキャミィの頭を埋め尽くしていたが、それらを“命を守ろうと”する情動が上回る。
ミーシャも同様であった。
事情を知るより、キルリスからの逃走を最優先し、転げそうになりながらも部屋からの脱出を試みる。
「逃がすワケがねえェェだろうガァァァァァアアアアッ!」
嗤っていたキルリスは、いつの間にか憤怒を隠さぬ鬼の形相となり、容赦なくミーシャに凶刃を振り下ろす。
斬撃は素人相手に繰り出すにはあまりに容赦のないものだった。
「ひっ、いやあぁぁあああッ!」
巨大な斧を握っているとは思えない、素早い身のこなし。
キルリスは一瞬でミーシャに接近すると、刃を薙ぎ払い、彼女の腕を飛ばした。
まだ幼い少女の目は見開き、飛び散る血、そしてじわりと脳に侵食する熱い感覚に恐怖する。
「あ……あぁっ、腕っ……あっ、ああぁぁぁあああああああッ!」
ミーシャは涙をボロボロと流し、頭を振り乱しながら絶叫した。
さらには失禁し、スカートが濡れる。
なおもキルリスは斧を振るう腕を止めない。
「やめてください、キルリスさぁんっ!」
「離セエぇぇッ! こイツがっ! こイツがみんなヲォオッ!」
「何を言ってるんですかッ! ミーシャさんはここにいましたっ、ずっと、私たちと一緒に!」
「テメえもこイツの仲間カァッ!」
「ひぐぅっ!?」
キルリスが足を振り払うと、キャミィの体は容易く飛んだ。
背中を壁に強打し、肺の空気が吐き出される。
意識がゆらぎ、一時的に体が言うことをきかなくなる。
「ひっ、ひっ、ひ、ヴァイオラっ……ヴァイオラあぁっ……!」
ミーシャは無意識にヴァイオラの名前を呼びながら、四つん這いで部屋から逃げようとしていた。
破壊された入り口を通り、壁の向こうに消えた彼女。
だがどこに行こうとも、絶望的なまでに身体能力の差がある以上、逃げ切ることはどう考えても不可能だった。
「殺ス……殺ス……あのガキだけハァ、絶対に許さネエェッ!」
下位魔法[アースランス]を発動、空中に浮かぶ石槍を、キルリスはフルスイングした斧で吹き飛ばす。
狙うは――壁を隔てた先にいるミーシャだ。
「はっ、ぎゃああぁぁああっ!」
破砕音の後、苦しげな叫び声が聞こえた。
キルリスは狂的な笑みを浮かべると、壁の向こうで悶ているであろうミーシャの元へ、大股で近寄る。
「どウダ、痛いカ? デモよぉ、人間の形デ死ねるダケ、あイツらよりマシだロウよ!」
ミーシャは瓦礫を背中に乗せながら、地面を這って逃走する。
キルリスは続けざまに[ストーンランス]を放つ。
感情の高ぶり故か狙いは乱れ、壁を破壊した。
崩れた木材がミーシャの背中を強打する。
それでも少女は、体を血で汚しながら前に進み続けた。
「あイツら、泣いてタヨ。『お頭に殺さレルなら本望ダ』ってイイながら、泣きナガら死んでったんだヨ! どうシテ! なあ、ミーシャァ! どうシテあイツらは、あんな死に方をしなくちゃナラなかったンダ!?」
放った石片はミーシャの背中を掠め、肉をえぐる。
しかし彼女は転がるように階段から落下したため、致命打には至らなかった。
一階に降りたミーシャを追うキルリス。
だが――そこに少女の姿はなかった。
(さっきから……何ダ? 手足を切ラレたガキが、あんな速サで動けるモンか?)
普通、四肢を失った人間は痛みや恐怖で動けなくなる。
よしんば動けたとしても、四つん這いで移動することもままならぬほど、足がもつれ、呼吸が乱れるはずだ。
しかしミーシャの行動は、その兆候を見せながらも、同じ状況に追い込まれた過去の敵に比べて、いささか冷静であった。
(マア、考エテみりゃソレもそうダ。あイツは普通の人間ジャないンダ。あたシラを始末する刺客の可能性ガ高イ。なら――雑魚と断ジテ油断スルのは早計ダナ)
キャミィの言っていた、『ミーシャはずっと一緒にいた』という言葉など、キルリスはこれっぽっちも信じていなかった。
仲間たちにケーキを渡したのは間違いなく彼女だ。
さっきまで一緒にいた彼らが、その顔を見間違えるはずはないのだから。
仲間は嘘をついていない。
だからキャミィが嘘をついている。
非常にシンプルな答えの導き方である。
しかしキャミィやミーシャにしてみれば、寝耳に水としか言いようがない。
なぜキルリスが急に自分たちを殺そうとしているのか。
なぜそのような憎しみを向けられなければならないのか。
つい数時間前まで、それこそ本当の友達のように過ごしていたというのに。
まだ、まったく関係のない他人が襲ってきたほうが、よっぽど納得できたかもしれない。
(どうしてヴァイオラが? どうしてキルリスさんが? わかんないよぉ……私、なんにもわかんないよおぉ……っ!)
ヴァイオラのことも、キルリスのことも――ミーシャにはまったく心当たりがなかった。
彼女は今日も、昨日までと同じように、同じ自分として過ごしてきただけだ。
それが悪かったのだろうか。何が悪かったのだろうか。
せめて、それだけでも誰か教えてはくれないものだろうか――
「ドコに逃げてもヨオォ! テメーみてぇな素人ハ! 気配でドコにイルかわかんだヨオォオ!」
倉庫らしき部屋に逃げ込んだミーシャだったが、すぐにキルリスが追ってくる。
「ひぅっ!?」
とっさに頭を下げて床に伏せると、石の弾丸がギリギリを掠めていった。
よく避けれたものだ。
気づけば体からは痛覚も失われている、おかげで手足が一本ないことに目をつぶれば、動きに問題はない。
ミーシャはただただ生き延びたい一心で、倉庫の奥へと逃げる。
しかしここに出口はない。
やがて見つかり、殺されるだろう。
誰かが助けてくれない限りは。
真っ先に思い浮かべた名前は、当然ヴァイオラだった。
ミーシャが幼い頃からずっとそばにいてくれた、大好きな人。
誰よりも愛している人。
家を出たのも、彼女さえいてくれれば、どんな場所でも幸せに生きられると思ったからこそだ。
けれど彼女はミーシャを殺そうとした。
夜、寝付いたミーシャに馬乗りになって、首を絞めたのだ。
たぶん、父親の……ジョシュア・マリストールの命令によって。
ミーシャにだってそれぐらいはわかる。
だって見えていたから。
自分の首を締めるヴァイオラが、誰よりも苦しそうな顔をしていたことを。
彼女がそれを命じられて、逆らえない相手なんて、ジョシュアぐらいしかないのである。
思えば――本気で殺そうと思えば、ヴァイオラならばあの糸で簡単に首を落とせたはずだ。
そうしなかったのは、ミーシャの死をより身近で感じ、自らを罰するためだったのだろうか。
だが、その分を差し引いたって――大好きな人に、大好きだと言ってくれた人に、殺されかけた――その事実は強く強く、握りつぶすほど強く、胸を締め付ける。
キルリスの存在も、ミーシャの苦しみを加速させていた。
クリスはヴァイオラを止めるために外に出て、キャミィはキルリスに敵いっこない。
故郷の父に祈ってみても、自分を殺すよう命じたのはその父自身。
助けを求めることはできず、己を救えるのは己自身のみ。
そんなとき――ミーシャの脳裏に、ふと浮かんだ言葉があった。
『いいかしら、ミーシャ。よぉく聞いておくのよ』
ミーシャの母、ミレイユ――最近は常に不機嫌で、話しかけるたびにヒステリックに怒鳴られるので、まともに会話が成立することすらなかった。
それでも彼女は、ごくたまに、以前と同じ“母の顔”をして、ミーシャに優しくしてくれることがあった。
その、最後の記憶だ。
『これはマリストール家に代々伝わる大事なブローチなの。これを、あなたにあげるわ』
『いいのですか、お母様』
『ええ、だってあなたはもうとっくに、素敵な大人の女性なんだもの』
『お母様……えへへ』
『そのブローチの中には、とても大切なものが入っているわ』
『中に、ですか?』
『誰も頼れず、助けに来る見込みもない……そんな、どうしようもない状況に陥ったときにだけ、中を開きなさい。きっと、あなたを助けてくれる何かが入っているわ』
当時は、おそらく何らかのおまじないめいたものが入っているのだろうと考えていた。
しかし今は、それがこの状況を覆せる“何か”なのではないかと期待してしまう。
それぐらい追い詰められている。
だから、そう考えてしまうこの瞬間こそ、母の言っていた“どうしようもない状況”なのだろう。
ミーシャは胸に付けたブローチを外すと、埋め込まれた赤い宝石を強く押し込んだ。
すると蓋が開き、中から人差し指の爪ほどの大きさをした、小石のようなものが現れる。
「薬? これを飲めばいいのですか、お母様……」
それをつまみ上げるミーシャ。
「今度は仕留メル。死ねヨ、ミーシャアァァッ!」
キルリスはそんな彼女の背後に立つと、大きく斧を振り上げた――
◇◇◇
僕とヴァイオラの戦いは続く。
すでに腕の痺れは取れ、痛みに変わっていた。
苦痛なら我慢すれば動かすことはできる。
今のところ、負傷する前とそこまで大きな差はなく、腕を扱うことができていた。
戦いを続けるうちに、宿屋からはすっかり離れてしまったけど、それは僕にとってありがたいことだ。
今はとにかく、ヴァイオラを落ち着かせることが優先なのだから。
「ふっ! はあぁぁぁッ!」
「甘いよ、ヴァイオラッ!」
糸と、それを変形させた手甲剣をたくみに使い分けるヴァイオラ。
糸自体も、魔力を込めることで、予想だにしない軌道を描く。
こちらの執事服は破れ、傷も多く、一見して劣勢のようにも見えた。
けど――現在、ヴァイオラの放つ攻撃は一つも当たっていない。
糸による斬撃は、最初からある程度は見切っていた。
そこに魔力を込めて動きを変えても、魔石に性質上発光は避けられない。
つまり見てからの回避が可能。
手甲剣に関してはもっと対処は楽だ。
何せ、こちらは短剣のプロなのだから。
サブウェポンとして剣を扱うヴァイオラに負けるはずがないのだ。
「このおおぉぉおっ! ちょこまかとっ!」
ヴァイオラの動きは加速する。
だが同時に、雑さも増していた。
これなら間を抜けて避けるのは容易い。
また、動きが早まるほどに、ここまでの戦闘で負ったダメージが如実に現れる。
「右手の動きが鈍ってきたんじゃない?」
僕は挑発的にそう言った。
それはつい先程、僕が風刃痛打を直撃させた部位だった。
おそらくは軽く骨にヒビぐらいは入っていると思われる。
「舐めないでよね、これぐらいでェッ!」
「感情が乱れると、動きは大きくなる――」
僕は糸の間をかいくぐり、ヴァイオラの右腕を風刃速斬で斬りつけた。
そして脇を通り抜け、背後に迫る。
「っ、ぐうぅ! はあぁぁぁああああッ!」
ヴァイオラはやけくそ気味に、振り向きざまに糸を振るう。
避けるのは簡単だった。
簡単だったから――避けた上で、彼女の腕を掴むと、足をかけて転ばせ、地面に押し付ける。
なおも手甲剣で抵抗しようとする彼女の首に、僕は短剣を突きつけた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
僕を見上げ、胸を上下させるヴァイオラ。
右腕からは出血、体力消費も魔力消耗も激しい。
とはいえ、僕も人のことを言えるほど万全な状態じゃないんだけど。
ブラックホールを強引にそらしたことによる両腕のダメージは大きく、次第に握力が落ちているのを感じる。
血も減ってきてるし、糸で切り裂かれた部分も、じわじわと体力を奪っていた。
「ねえヴァイオラ、僕たちがこれ以上争うのは不毛だと思うんだけど」
「クリスがミーシャを見捨てるんなら、終わってもいいわよ」
「強情だなあ」
「どっちがよ。いいからとっとと殺しなさいよ。そのつもりが無いなら、逆にあんたの首を落とすわよ?」
まあ、その気になれば可能だろう。
けれどそんな見え透いた攻撃、避けられない僕じゃない。
しかしどうしたものか。
こうして首にナイフを突きつけて身動きを封じられたのはいいとしても、これがいつまでも続けられるはずがない。
でも僕にはヴァイオラを殺すつもりがない。
そしてさらに事態をややこしくしているのは、ヴァイオラの胸中だ。
雑になる攻撃、そして表に出てくる怒りの感情。
まるで、そうでもしないと戦意を維持するのが無理だとでもいうように、時間を経るごとにそれは露骨になっていった。
「ヴァイオラ、一つだけ確認」
「今?」
「もしかして、僕に殺されて楽になりたいとか思ってないよね?」
「……」
唇を噛んで、目をそらすヴァイオラ。
僕は大きくため息をついた。
「はぁ……図星かぁ」
「何よ、別に……いいじゃない。どうしようもないのよ。どうにもならないのよ! だったら、関係ないクリスに殺されたほうが楽だって、そう考えても仕方ないでしょう!」
「僕は殺さない」
「知ってるわ……知ってる……」
「ミーシャさんは、リーゼロットと違って話ができる。説得だってはずなんだ……なのに、諦めないでよ」
「何であんたがそんなに辛そうに話すのよ」
「僕だって、考えたことはある。リーゼロットはもう元に戻らないんじゃないか、って」
「……そう、だったの」
「どれだけ訓練を積んでも、僕には【賢者】であるリーゼロットを止めることはできない。このまま一生隷従し続けるんなら、死んだほうが楽なのは……たぶん、間違いなんかじゃないんだ。だから困るよ。同じ立場の執事に諦められたんじゃあ」
「心が折れそう?」
「折れやしない。ただ、心が……辛くて、痛い」
「ふふ、そう……やっぱりクリスはおかしいわ。執事って生き物はみんな困ったやつらだけど、その中でもとびきり」
ヴァイオラが両腕を地面に投げ出し、力を抜いた。
「ミーシャさんと話してくれる気になった?」
「ならないわよ。でも、もうあなたと戦うつもりはない」
どちらの負けだとか、勝ちだとか、そんな話じゃない。
たぶんまだ、何も解決はしてない。
ヴァイオラはミーシャさんと会おうとしないだろうし、ミーシャさんの心の傷も癒えないだろう。
けれど、ひとまず区切りはついた。
僕はヴァイオラの体の上から降りると、隣に腰掛けた。
「もし、元に戻す方法が見つかったとして……旦那様と奥様は、どうなるのかしら」
「優しい人だったんだよね」
「そうよ。だからこそ、娘を殺すよう命令したことや、自分の領地に薬を蔓延させたこと、多くの人を苦しめてきたことに、心を痛めると思うの。ひょっとすると、自分を罰するために命を捨てるかもしれない」
旦那様と奥様――リーゼロットのご両親も似たようなものだ。
もっとも、僕の場合は、あの二人が今どうなっているのかすら知らないのだけれど。
「そんな結末に、意味はあるのかしら。“救い”なんて考え方はただのエゴで、主をより残酷な方法で殺すだけなんじゃないかしら」
少なくとも、元通りなんてありえない。
楽観視する僕と、悲観視するヴァイオラ。
未来のことなんてわからないから、どちらが正しいかもわからない。
ただ、僕らは互いに、互いの言葉を理解できた。
傷の舐め合いという言葉が一番しっくり来るのかもしれない。
「ねえ、クリス。助ける、って何? ただの自己満足じゃないの?」
「自分が満足できるんなら、何もせずに死ぬよりマシだよ」
「自己満足が後悔に……いえ、これ以上話しても平行線ね。私、もう疲れたわ」
そう言って、目を閉じるヴァイオラ。
僕も大きく息を吐き出して、目を細め、地面を見つめた。
静かだ。
だからこそ、近づいてくるその足音にすぐ気づいた。
ふと僕が顔をあげると、ヴァイオラも反応して体を起こす。
「誰か来たの?」
「この音は……リザードだ」
正面から、リザード――確かにリー君だったか――に乗ったキャミィがやってきた。
彼女は顔を真っ青にして、リザードから降りると、こちらに駆け寄ってくる。
「た、大変ですっ! 大変なんですうぅっ!」
「何か起きたの?」
「キ、キルリスさんがやってきて、すっごい形相で、体も、斧も血まみれで、それでっ、あのっ」
「落ち着きなさいよ。キルリスがどうしたの?」
「ミーシャを殺そうとしてるんですっ!」
ヴァイオラは目を見開き、キャミィの両肩を掴んだ。
「どういうことよっ! どうしてキルリスがミーシャを!?」
「わかりませんよぉっ! 仲間を殺されたとか言ってましたけど、止めようとしても全然聞いてくれなくて、本当に、本当に怖くって……私、私ぃっ……」
キャミィの体はガタガタと震えている。
落ち着かせるため、僕は彼女を抱き寄せると、軽く背中を撫でた。
キャミィはふざけることもなく、僕の胸元をキュッと掴み、体を寄せる。
「ヴァイオラ、キルリスを止めるの?」
「当たり前じゃないっ! 確かに……私はミーシャを殺そうとしたわ。でも、それは私じゃなくちゃダメなの。死ぬんなら、私が罪を背負わないといけないのっ!」
何て面倒な理屈だろうか。
けれど理解できるから、僕はキャミィをその場に置いて、ヴァイオラを追って宿に戻ろうとした。
そのときだった。
まるで巨大な魔物が建物を踏み潰すように、木材がひしゃげ、へし折れる音が聞こえてきたのは。
そして夜の街に、ぬるりと大きな影が現れ、ゆっくりと立ち上がる。
そいつは一階建ての建物の五倍……いや、十倍の大きさはある“巨人”だった。
体は浅黒く、痩せこけており、外から骨が浮き出ているほどだ。
顔つきも、まるで骸骨のようで不気味である。
また、体にはディヴィーナが見せたような赤い筋が浮かび上がり、瞳も同様に紅の光を放っていた。
「な、何なんですか、あの化物は……」
「魔物……それも、薬で生み出された……でもグラードのときと全然違うっ!」
怪物の視線が――ヴァイオラを捉える。
「ウオォォォォォォォオオオン――」
そいつは、どこか悲しげな声を、街中に響かせた。
立ち尽くすヴァイオラは、その怪物の顔を見上げながら、小さくつぶやいた。
「……ミーシャ」
彼女の両足から力が抜け、膝をついた。
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