表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/65

024 彼女たちの本気

 



「グルウゥゥゥアアアアァァッ!」




 もはや理性のかけらも感じられない咆哮をあげながら、グラードもまたこちらに突っ込んでくる。




「だらっしゃあぁぁぁぁァァァアッ!」




 キルリスは斧を振りかぶると、全力でその脳天に叩き込んだ。


 グラードも爪で薙ぎ払い、互いの刃は火花を散らしながらぶつかり合う。


 それはあまりにシンプルな力比べだった。


 互いのパワーは一瞬だけ拮抗したものの、すぐにキルリスの姿勢が崩れる。




「さスがに力はソッチが上かッ!」




 でなければ、わざわざ魔物になった意味がないというもの。


 キルリスはどこか楽しそうにそう言いながら、力任せに吹き飛ばされた。


 そして壁に叩きつけられた彼女を追おうとグラードの背後から僕は近づき、




風刃斬首ウインドエッジ・エスクキューション!」




 一撃必殺――首を狙う。


 まあ、これで倒せるとは思っていない。


 問題は、どう防ごうとするかだ――




「グルルウゥゥアアッ!」


「速い……ッ!」




 振り向いてからの、爪による迎撃。


 キルリスも吹き飛ばされるぐらいだ、まともに打ち合えば僕の腕がもたない。


 風刃痛打ウインドエッジ・バットスマッシュで爆発的な風を巻き起こし、距離を取る。


 同時に相手の体勢が崩れることを期待したけれど、風はわずかにグラードの肌を裂きながらも、それに動じる様子はない。


 タフだ、そして痛みにも強いらしい。


 個人的には、竜巻でも纏ってガードしてくれたほうが都合がよかった。


 そうか、今のに反応できてしまうってことは――なるほど確かに、新型らしく、ディヴィーナやリジーナよりもさらに完成度(・・・)の高い存在のようだ。




「キルリス、そっち行くよ!」




 グラードは一瞬だけ僕を見ると、すぐさま壁際に立つキルリスにターゲットを変えた。


 今なら僕の方が不安定だったはず。


 その上で彼女を選ぶってことは、人間だった頃の“執着”が残ってるってことか。




「ガアァァァアアッ!」




 グラードが拳を振るう。


 竜巻が放たれる。


 キルリスは斧の頭で“トン”と床を突くと、現れた石の壁が彼女を守った。


 壁の破壊に躍起になり、さらに魔力を高めるグラード。


 するとその足元の床を突き破り、石柱がその下顎を狙う。




「グガッ!?」


「続けてモウ一発、ストーンピラー、ダ!」




 キルリスの言葉通り、よろめいた先――今度はその背後の壁から、石柱が後頭部に迫る。


 気配で気づいたか、体をひねって回避しようとするグラードに、僕は風刃針鼠ウインドエッジ・ヘッジホッグを放つ。


 さながら散弾銃のように、前方にばらまかれたナイフは、その大半が魔力障壁に弾かれ落ちたが、それでも少なくない数が突き刺さる。




「ナイスアシストだ、クリスッ!」




 そしてストーンピラーはグラードの後頭部に直撃。


 強い衝撃を与え、意識を朦朧とさせると同時に、キルリスに向かってその体を打ち出した。


 彼女は斧を振りかぶり、自らの前方に尖った岩の塊――[ストーンランス]を浮かべる。


 そしてグラードの額がその鋭利な部分に触れると同時に、まるで杭を叩き込むように、斧を振るった。




「そォりゃあぁぁぁああッ!」




 ストーンランスは魔力障壁を突き破り、ズドンッ! と額に食い込んだ。




「ぐげぁっ!?」




 その端を斧が叩くことで、岩は完全にグラードの頭蓋を貫通する。


 彼の瞳はぐるんと上を向き、たったまま、涎を垂れ流しにしてガクガクと震えはじめた。




「ぐぎゃっ、ぎゃ、ぎゃえ、が、ぐる、るぅがああっ……!」




 ここまで脳を破壊されてしまえば、もはや動くこともできまい。




「思ったヨリあっさりだったナ。クリス、お前が首を落とシテいいゾ。この見た目ダシ、案外冒険者ギルドから金もモラえるかもナ。キシシシッ」




 ディヴィーナたちのときもそうだったんだ。


 ここまで完全に魔物化したグラードなら、大金がもらえることだろう。


 まあ、この男を殺して得た金だったら……あの二人のときよりは、マシか。


 そして僕はグラードの背中に歩み寄ろうとした。


 ふと部屋の片隅を見ると、先ほどまで横たわっていたはずの町長の姿がなかった。


 途中で意識を取り戻して逃げたんだろう。


 するとそのとき――一瞬だけよそ見をした僕は、グラードの視線を感じた。


 瞳もわずかに動いた気がする。


 気のせいだろうか……少なくとも今は、そんな様子はないけれど。


 ここまで完全に頭を貫かれていて、そこまで思考する余力が残っているとは思えない。


 しかし仮に、これが僕たちを倒すための演技だとしたら――




「キルリス」


「ン? どシタ?」




 キルリスはまったく気づいていない。


 けれど、そうやって彼女に話しかける僕の表情で、どうやらグラードは勘づいてしまったようだ。


 すでにバレている、と。


 彼の瞳は明確に僕の姿を捉え、そして体の周辺にはわずかな空気の流れが生まれている。


 明確に何が起きるかはわからない。


 けれど僕の勘が、『ここにいてはまずい』と告げていた。


 話している暇はない。




「こっちに!」


「お、おおっ?」




 キルリスの手を握る。


 風が部屋全体で渦巻きだす。


 軽く引っ張ると、幸いなことに即座に彼女は事情を理解し、自らの足で走ってくれた。


 風の流れはやがて、壁や床を傷つけはじめる。


 手を離し、二人で窓に向かって全力で駆けた。


 ズザザザッ――と削れるような音も聞こえだし、棚や机も宙を舞う。


 僕とキルリスは同時に飛び、窓ガラスを割って外へ脱出する。


 直後、グラードを中心として生じた竜巻は、木材をへし折り、建物全てを巻き込んだ――




「づっ、う……ふぅ……はぁ……」




 町長の部屋は二階――僕らは地面に叩きつけられ、ゆっくりと立ち上がる。


 少し体は痛むけど、動くのに問題になりそうな怪我はない。




「あいタタた……シシシッ、サンキュな、クリス。今ノはさすがにヤバかったナー! 一瞬デモ遅れてタラ、あたしも今ゴロお星サマだ!」


「無事で何より」


「お頭っ! 大丈夫ですか!?」




 こちらに駆け寄ってくるテイリー。


 他のキルリスの仲間たちも一緒だった。


 例の少女たちや町長一家は、クラッツの両腕に抱えられている。


 どうやら、ちょうど外に出ようとしたときに、建物が崩壊したらしい。




「うっひゃー、とんでもねえ竜巻。あんなんに巻き込まれたら、おいら一瞬でミンチになっちゃうよ」


「ミンチ……ミンチにするのは楽しいけど……ミンチになるのは、嫌……」


「でもミンチはうまいぞ。ハンバーグが食いたい」


「シシシッ、無事に戻れタラ奢ってやるヨ、クラッツ。だカラ今は、そのコを連レテ離れナ。クリス以外は全員ナ」


「お頭、僕たちも戦います!」


「テイリー、別にあたしはハブっテルわけジャなイ。タダ、今はクリスと組んで試シテみたいだけダ」


「……そんなに気に入りましたか」


「アア、間違いナク、こいつは頭がおかシイ。あたしらの同類ダ」


「勝手に巻き込まないでよ」


「シシシ、自覚がないアタリが特にイイ!」


「ちぇっ、お頭がそういうんならしかたねーよ。ほらテイリー、いくぞ」


「エテルード……わかりました。ただし、後でしっかり奢ってもらいますからね?」


「この街で一番高いケーキが食べたい……」


「お、俺もとびきりおいしいステーキが食いてえなあ……」


「シシッ、ハンバーグじゃなかったノカ? まあイイヤ、わかったヨ、奢ってヤルから早く行キナ!」




 いやっほぉーう――と、小躍りしながら、少女を連れて離れていく仲間たち。


 クラッツに抱えられた少女は不安げだったけれど、別れ際に僕が目を合わせて頷くと、多少はそれも和らいだようだった。




「サーテ、こっカラどうスル? あの竜巻、ドーモあたしらに近づイテ来てるらしイゾ」


「魔力消費量を考えれば、僕たちを確実に仕留めるため、一瞬だけ発動できる切り札みたいなもの……と思ってたんだけど」


「シシシ、さすがニそのママ近づいてクルのは予想外だなア」




 竜巻はじわじわとこちらに近づいてきている。


 中でグラードがどういう状態かはわからないけれど、おそらく歩いているんだろう。


 試しに僕とキルリスで攻撃してみたけれど、圧倒的な威力に阻まれ、貫くことはできなかった。




「魔力障壁ドコロじゃネーナ。試しに直接ブン殴ってみるカ?」


「試すにはリスクが高すぎるし……何より、頭を潰しても死ななかったのが気になるな」


「そういやソーだったナ。斬っテモ斬っテモ死なナイってノハ、あたし好みだけどナ! シシシッ!」


「そこ笑うところかなあ……」


「笑っトケ笑っトケ、落ち込んだってイイことナイからナ!」




 すごく前向きでいい言葉に聞こえる。


 その中身の是非はさておき――確かに立ち止まっていても、事は前に進まない。




「とりあえず、色々と試してみよっか」


「そダナ。[マウンテンブロー]!」


風刃針鼠ウインドエッジ・ヘッジホッグ!」




 地面から突き出す尖った巨大な岩。


 民家一つ分はあるそれを、しかし竜巻は触れるより前に粉々に切り刻む。


 僕が大量に投擲したナイフも当然、当たらずに弾かれた。


 一本ぐらい隙間を抜けて通ると思ったけど、それも期待できないか。




「キルリス、今度はタイミングを合わせてみよう」


「よしワカッタ! もうイッチョ[マウンテンブロー]ダ!」




 キルリスの使うそれは上位魔法。


 僕も威力の低い投げナイフを複数ぶつけるのではなく、相応に威力の高い一撃を放つ。


 使用するのは上位スキル[フェイタルエンド]、【暗殺者】の持つ“正面から使用可能”なスキルで最も威力が高い。


 本来は近距離の相手を切り裂くのに使う技だけれど、発動までに若干の隙ができるため、実際の近接戦では使いにくいという欠点がある。


 しかし、これと[ウインドエッジ]を合わせれば――威力を保ったまま、斬撃を飛翔させることも可能だろう。




風刃血鷲ウインドエッジ・フェイタルエンドッ!」




 両手に握ったナイフで、目の前に呼び出した風の刃を斬りつける。


 血の鷲――相手を切り裂き、生きたまま肺を引きずり出す処刑法だ。


 その名を冠する刃の軌道は、内臓をかっさばくように、[ウインドエッジ]の“魔力の流れ”とも呼ぶべき道をなぞる。


 これにより魔法は加速し、かつ終点にあるとある点(・・・・)を破壊することで――“形”を維持する力が崩れ、魔力は非常に不安定な状態となる。


 つまり、元々“定められた動き”とはことなる形を得るのだ。


 この作用を利用して、本来の魔法よりも、さらに高い威力を引き出すのが僕の技。


 竜巻に迫る風の刃は、見た目こそ三日月状の[ウインドエッジ]と同じに見えて、しかしその“殺傷能力”は段違いだ。


 そして竜巻の手前の地面が隆起し、せり出した尖った岩が風の壁に触れる。


 それとほぼ同時に、同じ場所に僕の放った風刃も命中し――先ほどと違い、ぶつかっても消滅はしない。


 競り合っている。これなら!




「行ケえぇぇぇぇっ!」




 吼え、己の魔法にさらなる魔力を投じるキルリス。


 僕もこのまま行けると思った。


 しかし――彼女の岩も、僕の風も、無残に竜巻にかき消される。


 まだ威力が足りないのだ。




「チィッ、予想以上ダナこれハ。クリス、ひとマズ逃げて距離を取ルぞ!」


「……」


「クリス、これ以上近づいたら危ナイ!」




 じりじりと迫るグラードの竜巻。


 この速度なら、確かに逃げるのは容易い。


 キルリスが僕の手を引き、走りだす。


 けれど、そんなのはわかりきったことだ。


 いくらグラードが魔物になって知能を失っていたとはいえ、こんなに簡単なことがあるだろうか?


 彼は魔物になってもなお、キルリスに対する恨みは忘れずにいたというのに。




「ん? ナンダあいつ、あたしらに近づイテこナいぞ?」




 物陰に隠れると、グラードの竜巻は僕らとは違う向きへと移動を始める。


 見えてないのか? いや――




「民家のほうに……もしかしてあいつ、街の人たちを巻き添えにするつもりじゃ!」


「人質ってコトか? そんなコトして、何ノ意味があるンダ?」




 あっけらかんと、キルリスは言った。


 無関係な人間が死んでもどうでもいい――彼女はそう考えているようで。




「僕は止めたい」


「正義の味方ゴッコかヨ」


「そんなんじゃないよ。ただ、せっかく勝っても、誰かに恨まれたら気分が悪いでしょ?」


「……ソイツも殺せばいいダロ?」




 反応は芳しくない。


 気分が悪い、だけじゃ少し弱いか。


 だったら――




「僕らを恨む人たちが、宴に乱入してきたら? せっかくの楽しい時間が台無しになるかもよ」


「ソレは嫌ダナ!」


「じゃあ阻止するしかないね」




 宴が人質となると、キルリスも納得するしかないようで。


 無関係な人間を壁に使うのはナシ。


 僕とキルリスは、物陰から飛び出す。


 するとグラードは再び、こちらに向かってきた。





「丸め込まレタ気がするケド、まあいいカ。デモどうスル? あたしたちの魔法ダケじゃ力が足りナイぞ」


「試してみたいことがある」




 ナイフを握り、迫る旋風を見据えながら僕は言った。


 キルリスは「シシシ!」と上機嫌に口元を歪める。




「どーヤラ、面白いコトを考えテルみたいダナ。何をやるツモリだ?」


「説明してなかったけど、僕はナイフを使い、魔法の“流れ”を裂いて“加速”させることで、【暗殺者】だけど魔力障壁を突破することができるんだ」


「ホウほう、そういう仕組ミだったノカ。よくわかんネーけどナ!」


「それを使って、キルリスの魔法を加速したい」


「あたしノ? んなコトできるのカァ?」


「僕も他人の魔法を加速したことなんてないからわからないけど――刻むべき軌跡は、薄っすらと見えてる」




 それは経験や感覚で導き出すもの。


 ゆえに慣れ親しんでいない、自分以外の魔法で、まったく同じようにうまくいくかはわからない。


 仮に見えている通りになぞっても、まったく意味などないかもしれない。


 だから試すしかないのだ。


 もしこれがうまくいけば、僕は自分の可能性をさらに伸ばすこともできる。




「マ、やるダケやるカ。ヨースルに、“飛ばす”タイプの魔法を使えばイイんダナ?」


「そうしてもらえると助かる」


「ナラ、あたしにトッテも都合がイイ。あたし、魔法を“飛ばす”ノガ苦手デサ。あんまりデカいと、途中でボトっと落ちちマウんダ」




 言われてみれば、さっきから“地面から突き出す”魔法ばかり使っている気がする。


 下位魔法の[ストーンスピア]を使ったときも、飛ばさずにわざわざ斧でグラードの頭に叩き込んでいた。


 見たところ、射程も威力も優秀な高位の【土使い】なのに、どうして斧なんて――と思っていたけど、そういうことか。


 するとキルリスは、僕の視線が斧に向いていることを気づいたのか、自分でその理由を語りだした。




「アア、斧を使っテル理由ハ別ダ。人の頭をカチ割るノニ、魔法ダト味気ないダロ? 斧の方ガ、感覚がアッテ楽しいンだヨ」


「……そ、そうなんだ」


「シシシ、つまり趣味ダナ、趣味。ンマァ、どうでもイイじゃネエか。もう時間モナイんダ、早速やルゾ」


「わかった。じゃあキルリス、一番強烈なのでお願い」


「オーケイ――だっタラ、上位魔法[タイタンフィスト]ダ! はあぁぁぁあああッ!」




 ひときわ気合を入れて作り出したのは、名前通り“巨神の腕”。


 キルリスの体が隠れるほど大きなそれを、本来は相手に向けて飛ばすのが[タイタンフィスト]。


 だが彼女の場合、それは相手まで飛ばずに、落ちてしまうのだという。


 しかし見たところ、込められた魔力は十分すぎるほど。


 軽く僕の[ウインドエッジ]の五倍……いや、十倍はあるかもしれない。


 僕はキルリスの前に浮かぶそれに、ナイフを突き刺した。




「“魔力の流れ”なんてモン、あたしニャ見えねえケド……スゲーことが起きそうな気がするナ。シシッ」




 ビュオオォッ――吹き荒れる風は、その発生源が近づくにつれて、激しさを増していく。


 草木や砂を巻き込んで、さらに破壊力を増したグラードの竜巻。


 あれを突破するためには、わずかな“ズレ”も許されない。


 集中する。


 雑念が消え、音が消え、指先の感覚だけが全てになる。


 迫る、迫る、しかし焦ってはならない、いいやそれ以前に“焦るな”と思うことも許されない。


 今でこそ[ウインドエッジ]なら楽に扱えるようになったけれど、あれだって最初の頃は集中力を高めなければ使えなかった。


 そのときと同じ感覚――いや、それ以上に研ぎ澄まして――




「……おイ、クリス? もう来テルぞ? あたしもこのママじゃ動けナイんだからナ!?」




 僕自身も、握った刃の一部なのだ。


 道具になれ。


『従え』


 お前は物だ。


『従え』


 聞こえる、僕の奥底から“声”が。


 それに従うと、僕はいつだって、リーゼロットの“所有物”になれた。


『それがお前の幸せだ』


 そう、それが僕にとっての、最上の幸せだから――




「クリスッ、さすがニもう限界ダッ! 早くしろオォッ!」




『私はリーゼロット』


『あなたは私の下僕』


『あなたはもう私に逆らわない』


『私のために生きるの。それが、一番の幸せだから』




「うおぉぉぉぉおおおおおおッ!」




 精神がもっとも研ぎ澄まされるその瞬間、僕は[フェイタルエンド]を発動。


 本来の腕力を超えた速度、力で[タイタンフィスト]の線と点を引き裂く。


 歪み、破綻する魔力。


 その破滅に“向き”を与え、眼前に迫る竜巻へと射出する――巨岩血鷲タイタンフィスト・フェイタルエンド




 ズドォンッ!




 巨腕が放たれたそのとき、空気が震え、僕は脳みそを揺るがす強い衝撃を感じた。


 ぐらりとよろめいて、足に力をぐっと込め、どうにか踏ん張る。


 爆音を至近距離で聞かされたせいか、耳鳴りがする。




「ヒュウ♪」




 かすかに、キルリスのそんな声が聞こえた。


 僕はまぶたをゆっくりと持ち上げると、グラードがどうなったのかを真っ先に確認した。


 彼は、いない。


 生きているとか、死んだとか、そういう話ではなく――いない(・・・)のだ。


 いや、よく見てみれば、わずかに足の下半分(・・・)だけが残っている。


 しかしそれ以外のグラードの体は、跡形もなく吹き飛んでいた。


 そして彼の背後にあった町長の屋敷の残骸も消し飛び、さらに奥にある森林や小山も大きくえぐり取られている。




「シシッ、シシシシシッ! いいネエ! やっぱサイコーだ、クリス!」


「うわっ!?」




 キルリスはまだ回復しきってない僕に、両手を広げてがばっと抱きついた。




「可能性を感ジル! お前はきっと、あたしをワクワクさせテクレル! だから欲シイ!」


「待って、まだ少しくらくらして……んぐぅっ!?」




 そう言って、顔を近づけ、まるで食らうように乱暴に唇を重ねた。


 何で? 何で僕、キスされてるの!?


 必死に手足をばたつかせて逃げようとするけれど、今の僕じゃキルリスの腕力には敵わない。


 そのまま二人でじたばたしていると、騒動を聞きつけて次第に人が集まってきた。


 中には、キャミィとミーシャ、ヴァイオラの姿もある。




「あっ、いましたクリスさ――」




 キャミィは唇を貪られる僕の姿を見て固まったかと思うと、顔を真赤にして憤る。




「き、きっ、ききっ、きっ、キスなんてしてっ――ずるいですぅぅううう! 私もしますううううううっ!」




 そして僕の背後から抱きつき、キルリスに対抗して僕の唇を奪い取ろうとした。




「す、すごい……さすが冒険者さんは進んでるのね」


「……あれ進んでるって言うの?」





 ヴァイオラもミーシャもそこはいいから……そろそろ、苦しいし……誰か僕のこと、助けてくれないかなぁ……。




面白かったよ、先が気になる! と思っていただけたら、下のボタンから星を入れてもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 24/24 ・道具になるのが幸せ……なるほど。すごい。 [気になる点] 『キルリスに対抗して僕の唇を奪い取ろうとした。』 ↑できたとは言ってない [一言] グラードさんスタンダード悪役…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ