024 彼女たちの本気
「グルウゥゥゥアアアアァァッ!」
もはや理性のかけらも感じられない咆哮をあげながら、グラードもまたこちらに突っ込んでくる。
「だらっしゃあぁぁぁぁァァァアッ!」
キルリスは斧を振りかぶると、全力でその脳天に叩き込んだ。
グラードも爪で薙ぎ払い、互いの刃は火花を散らしながらぶつかり合う。
それはあまりにシンプルな力比べだった。
互いのパワーは一瞬だけ拮抗したものの、すぐにキルリスの姿勢が崩れる。
「さスがに力はソッチが上かッ!」
でなければ、わざわざ魔物になった意味がないというもの。
キルリスはどこか楽しそうにそう言いながら、力任せに吹き飛ばされた。
そして壁に叩きつけられた彼女を追おうとグラードの背後から僕は近づき、
「風刃斬首!」
一撃必殺――首を狙う。
まあ、これで倒せるとは思っていない。
問題は、どう防ごうとするかだ――
「グルルウゥゥアアッ!」
「速い……ッ!」
振り向いてからの、爪による迎撃。
キルリスも吹き飛ばされるぐらいだ、まともに打ち合えば僕の腕がもたない。
風刃痛打で爆発的な風を巻き起こし、距離を取る。
同時に相手の体勢が崩れることを期待したけれど、風はわずかにグラードの肌を裂きながらも、それに動じる様子はない。
タフだ、そして痛みにも強いらしい。
個人的には、竜巻でも纏ってガードしてくれたほうが都合がよかった。
そうか、今のに反応できてしまうってことは――なるほど確かに、新型らしく、ディヴィーナやリジーナよりもさらに完成度の高い存在のようだ。
「キルリス、そっち行くよ!」
グラードは一瞬だけ僕を見ると、すぐさま壁際に立つキルリスにターゲットを変えた。
今なら僕の方が不安定だったはず。
その上で彼女を選ぶってことは、人間だった頃の“執着”が残ってるってことか。
「ガアァァァアアッ!」
グラードが拳を振るう。
竜巻が放たれる。
キルリスは斧の頭で“トン”と床を突くと、現れた石の壁が彼女を守った。
壁の破壊に躍起になり、さらに魔力を高めるグラード。
するとその足元の床を突き破り、石柱がその下顎を狙う。
「グガッ!?」
「続けてモウ一発、ストーンピラー、ダ!」
キルリスの言葉通り、よろめいた先――今度はその背後の壁から、石柱が後頭部に迫る。
気配で気づいたか、体をひねって回避しようとするグラードに、僕は風刃針鼠を放つ。
さながら散弾銃のように、前方にばらまかれたナイフは、その大半が魔力障壁に弾かれ落ちたが、それでも少なくない数が突き刺さる。
「ナイスアシストだ、クリスッ!」
そしてストーンピラーはグラードの後頭部に直撃。
強い衝撃を与え、意識を朦朧とさせると同時に、キルリスに向かってその体を打ち出した。
彼女は斧を振りかぶり、自らの前方に尖った岩の塊――[ストーンランス]を浮かべる。
そしてグラードの額がその鋭利な部分に触れると同時に、まるで杭を叩き込むように、斧を振るった。
「そォりゃあぁぁぁああッ!」
ストーンランスは魔力障壁を突き破り、ズドンッ! と額に食い込んだ。
「ぐげぁっ!?」
その端を斧が叩くことで、岩は完全にグラードの頭蓋を貫通する。
彼の瞳はぐるんと上を向き、たったまま、涎を垂れ流しにしてガクガクと震えはじめた。
「ぐぎゃっ、ぎゃ、ぎゃえ、が、ぐる、るぅがああっ……!」
ここまで脳を破壊されてしまえば、もはや動くこともできまい。
「思ったヨリあっさりだったナ。クリス、お前が首を落とシテいいゾ。この見た目ダシ、案外冒険者ギルドから金もモラえるかもナ。キシシシッ」
ディヴィーナたちのときもそうだったんだ。
ここまで完全に魔物化したグラードなら、大金がもらえることだろう。
まあ、この男を殺して得た金だったら……あの二人のときよりは、マシか。
そして僕はグラードの背中に歩み寄ろうとした。
ふと部屋の片隅を見ると、先ほどまで横たわっていたはずの町長の姿がなかった。
途中で意識を取り戻して逃げたんだろう。
するとそのとき――一瞬だけよそ見をした僕は、グラードの視線を感じた。
瞳もわずかに動いた気がする。
気のせいだろうか……少なくとも今は、そんな様子はないけれど。
ここまで完全に頭を貫かれていて、そこまで思考する余力が残っているとは思えない。
しかし仮に、これが僕たちを倒すための演技だとしたら――
「キルリス」
「ン? どシタ?」
キルリスはまったく気づいていない。
けれど、そうやって彼女に話しかける僕の表情で、どうやらグラードは勘づいてしまったようだ。
すでにバレている、と。
彼の瞳は明確に僕の姿を捉え、そして体の周辺にはわずかな空気の流れが生まれている。
明確に何が起きるかはわからない。
けれど僕の勘が、『ここにいてはまずい』と告げていた。
話している暇はない。
「こっちに!」
「お、おおっ?」
キルリスの手を握る。
風が部屋全体で渦巻きだす。
軽く引っ張ると、幸いなことに即座に彼女は事情を理解し、自らの足で走ってくれた。
風の流れはやがて、壁や床を傷つけはじめる。
手を離し、二人で窓に向かって全力で駆けた。
ズザザザッ――と削れるような音も聞こえだし、棚や机も宙を舞う。
僕とキルリスは同時に飛び、窓ガラスを割って外へ脱出する。
直後、グラードを中心として生じた竜巻は、木材をへし折り、建物全てを巻き込んだ――
「づっ、う……ふぅ……はぁ……」
町長の部屋は二階――僕らは地面に叩きつけられ、ゆっくりと立ち上がる。
少し体は痛むけど、動くのに問題になりそうな怪我はない。
「あいタタた……シシシッ、サンキュな、クリス。今ノはさすがにヤバかったナー! 一瞬デモ遅れてタラ、あたしも今ゴロお星サマだ!」
「無事で何より」
「お頭っ! 大丈夫ですか!?」
こちらに駆け寄ってくるテイリー。
他のキルリスの仲間たちも一緒だった。
例の少女たちや町長一家は、クラッツの両腕に抱えられている。
どうやら、ちょうど外に出ようとしたときに、建物が崩壊したらしい。
「うっひゃー、とんでもねえ竜巻。あんなんに巻き込まれたら、おいら一瞬でミンチになっちゃうよ」
「ミンチ……ミンチにするのは楽しいけど……ミンチになるのは、嫌……」
「でもミンチはうまいぞ。ハンバーグが食いたい」
「シシシッ、無事に戻れタラ奢ってやるヨ、クラッツ。だカラ今は、そのコを連レテ離れナ。クリス以外は全員ナ」
「お頭、僕たちも戦います!」
「テイリー、別にあたしはハブっテルわけジャなイ。タダ、今はクリスと組んで試シテみたいだけダ」
「……そんなに気に入りましたか」
「アア、間違いナク、こいつは頭がおかシイ。あたしらの同類ダ」
「勝手に巻き込まないでよ」
「シシシ、自覚がないアタリが特にイイ!」
「ちぇっ、お頭がそういうんならしかたねーよ。ほらテイリー、いくぞ」
「エテルード……わかりました。ただし、後でしっかり奢ってもらいますからね?」
「この街で一番高いケーキが食べたい……」
「お、俺もとびきりおいしいステーキが食いてえなあ……」
「シシッ、ハンバーグじゃなかったノカ? まあイイヤ、わかったヨ、奢ってヤルから早く行キナ!」
いやっほぉーう――と、小躍りしながら、少女を連れて離れていく仲間たち。
クラッツに抱えられた少女は不安げだったけれど、別れ際に僕が目を合わせて頷くと、多少はそれも和らいだようだった。
「サーテ、こっカラどうスル? あの竜巻、ドーモあたしらに近づイテ来てるらしイゾ」
「魔力消費量を考えれば、僕たちを確実に仕留めるため、一瞬だけ発動できる切り札みたいなもの……と思ってたんだけど」
「シシシ、さすがニそのママ近づいてクルのは予想外だなア」
竜巻はじわじわとこちらに近づいてきている。
中でグラードがどういう状態かはわからないけれど、おそらく歩いているんだろう。
試しに僕とキルリスで攻撃してみたけれど、圧倒的な威力に阻まれ、貫くことはできなかった。
「魔力障壁ドコロじゃネーナ。試しに直接ブン殴ってみるカ?」
「試すにはリスクが高すぎるし……何より、頭を潰しても死ななかったのが気になるな」
「そういやソーだったナ。斬っテモ斬っテモ死なナイってノハ、あたし好みだけどナ! シシシッ!」
「そこ笑うところかなあ……」
「笑っトケ笑っトケ、落ち込んだってイイことナイからナ!」
すごく前向きでいい言葉に聞こえる。
その中身の是非はさておき――確かに立ち止まっていても、事は前に進まない。
「とりあえず、色々と試してみよっか」
「そダナ。[マウンテンブロー]!」
「風刃針鼠!」
地面から突き出す尖った巨大な岩。
民家一つ分はあるそれを、しかし竜巻は触れるより前に粉々に切り刻む。
僕が大量に投擲したナイフも当然、当たらずに弾かれた。
一本ぐらい隙間を抜けて通ると思ったけど、それも期待できないか。
「キルリス、今度はタイミングを合わせてみよう」
「よしワカッタ! もうイッチョ[マウンテンブロー]ダ!」
キルリスの使うそれは上位魔法。
僕も威力の低い投げナイフを複数ぶつけるのではなく、相応に威力の高い一撃を放つ。
使用するのは上位スキル[フェイタルエンド]、【暗殺者】の持つ“正面から使用可能”なスキルで最も威力が高い。
本来は近距離の相手を切り裂くのに使う技だけれど、発動までに若干の隙ができるため、実際の近接戦では使いにくいという欠点がある。
しかし、これと[ウインドエッジ]を合わせれば――威力を保ったまま、斬撃を飛翔させることも可能だろう。
「風刃血鷲ッ!」
両手に握ったナイフで、目の前に呼び出した風の刃を斬りつける。
血の鷲――相手を切り裂き、生きたまま肺を引きずり出す処刑法だ。
その名を冠する刃の軌道は、内臓をかっさばくように、[ウインドエッジ]の“魔力の流れ”とも呼ぶべき道をなぞる。
これにより魔法は加速し、かつ終点にあるとある点を破壊することで――“形”を維持する力が崩れ、魔力は非常に不安定な状態となる。
つまり、元々“定められた動き”とはことなる形を得るのだ。
この作用を利用して、本来の魔法よりも、さらに高い威力を引き出すのが僕の技。
竜巻に迫る風の刃は、見た目こそ三日月状の[ウインドエッジ]と同じに見えて、しかしその“殺傷能力”は段違いだ。
そして竜巻の手前の地面が隆起し、せり出した尖った岩が風の壁に触れる。
それとほぼ同時に、同じ場所に僕の放った風刃も命中し――先ほどと違い、ぶつかっても消滅はしない。
競り合っている。これなら!
「行ケえぇぇぇぇっ!」
吼え、己の魔法にさらなる魔力を投じるキルリス。
僕もこのまま行けると思った。
しかし――彼女の岩も、僕の風も、無残に竜巻にかき消される。
まだ威力が足りないのだ。
「チィッ、予想以上ダナこれハ。クリス、ひとマズ逃げて距離を取ルぞ!」
「……」
「クリス、これ以上近づいたら危ナイ!」
じりじりと迫るグラードの竜巻。
この速度なら、確かに逃げるのは容易い。
キルリスが僕の手を引き、走りだす。
けれど、そんなのはわかりきったことだ。
いくらグラードが魔物になって知能を失っていたとはいえ、こんなに簡単なことがあるだろうか?
彼は魔物になってもなお、キルリスに対する恨みは忘れずにいたというのに。
「ん? ナンダあいつ、あたしらに近づイテこナいぞ?」
物陰に隠れると、グラードの竜巻は僕らとは違う向きへと移動を始める。
見えてないのか? いや――
「民家のほうに……もしかしてあいつ、街の人たちを巻き添えにするつもりじゃ!」
「人質ってコトか? そんなコトして、何ノ意味があるンダ?」
あっけらかんと、キルリスは言った。
無関係な人間が死んでもどうでもいい――彼女はそう考えているようで。
「僕は止めたい」
「正義の味方ゴッコかヨ」
「そんなんじゃないよ。ただ、せっかく勝っても、誰かに恨まれたら気分が悪いでしょ?」
「……ソイツも殺せばいいダロ?」
反応は芳しくない。
気分が悪い、だけじゃ少し弱いか。
だったら――
「僕らを恨む人たちが、宴に乱入してきたら? せっかくの楽しい時間が台無しになるかもよ」
「ソレは嫌ダナ!」
「じゃあ阻止するしかないね」
宴が人質となると、キルリスも納得するしかないようで。
無関係な人間を壁に使うのはナシ。
僕とキルリスは、物陰から飛び出す。
するとグラードは再び、こちらに向かってきた。
「丸め込まレタ気がするケド、まあいいカ。デモどうスル? あたしたちの魔法ダケじゃ力が足りナイぞ」
「試してみたいことがある」
ナイフを握り、迫る旋風を見据えながら僕は言った。
キルリスは「シシシ!」と上機嫌に口元を歪める。
「どーヤラ、面白いコトを考えテルみたいダナ。何をやるツモリだ?」
「説明してなかったけど、僕はナイフを使い、魔法の“流れ”を裂いて“加速”させることで、【暗殺者】だけど魔力障壁を突破することができるんだ」
「ホウほう、そういう仕組ミだったノカ。よくわかんネーけどナ!」
「それを使って、キルリスの魔法を加速したい」
「あたしノ? んなコトできるのカァ?」
「僕も他人の魔法を加速したことなんてないからわからないけど――刻むべき軌跡は、薄っすらと見えてる」
それは経験や感覚で導き出すもの。
ゆえに慣れ親しんでいない、自分以外の魔法で、まったく同じようにうまくいくかはわからない。
仮に見えている通りになぞっても、まったく意味などないかもしれない。
だから試すしかないのだ。
もしこれがうまくいけば、僕は自分の可能性をさらに伸ばすこともできる。
「マ、やるダケやるカ。ヨースルに、“飛ばす”タイプの魔法を使えばイイんダナ?」
「そうしてもらえると助かる」
「ナラ、あたしにトッテも都合がイイ。あたし、魔法を“飛ばす”ノガ苦手デサ。あんまりデカいと、途中でボトっと落ちちマウんダ」
言われてみれば、さっきから“地面から突き出す”魔法ばかり使っている気がする。
下位魔法の[ストーンスピア]を使ったときも、飛ばさずにわざわざ斧でグラードの頭に叩き込んでいた。
見たところ、射程も威力も優秀な高位の【土使い】なのに、どうして斧なんて――と思っていたけど、そういうことか。
するとキルリスは、僕の視線が斧に向いていることを気づいたのか、自分でその理由を語りだした。
「アア、斧を使っテル理由ハ別ダ。人の頭をカチ割るノニ、魔法ダト味気ないダロ? 斧の方ガ、感覚がアッテ楽しいンだヨ」
「……そ、そうなんだ」
「シシシ、つまり趣味ダナ、趣味。ンマァ、どうでもイイじゃネエか。もう時間モナイんダ、早速やルゾ」
「わかった。じゃあキルリス、一番強烈なのでお願い」
「オーケイ――だっタラ、上位魔法[タイタンフィスト]ダ! はあぁぁぁあああッ!」
ひときわ気合を入れて作り出したのは、名前通り“巨神の腕”。
キルリスの体が隠れるほど大きなそれを、本来は相手に向けて飛ばすのが[タイタンフィスト]。
だが彼女の場合、それは相手まで飛ばずに、落ちてしまうのだという。
しかし見たところ、込められた魔力は十分すぎるほど。
軽く僕の[ウインドエッジ]の五倍……いや、十倍はあるかもしれない。
僕はキルリスの前に浮かぶそれに、ナイフを突き刺した。
「“魔力の流れ”なんてモン、あたしニャ見えねえケド……スゲーことが起きそうな気がするナ。シシッ」
ビュオオォッ――吹き荒れる風は、その発生源が近づくにつれて、激しさを増していく。
草木や砂を巻き込んで、さらに破壊力を増したグラードの竜巻。
あれを突破するためには、わずかな“ズレ”も許されない。
集中する。
雑念が消え、音が消え、指先の感覚だけが全てになる。
迫る、迫る、しかし焦ってはならない、いいやそれ以前に“焦るな”と思うことも許されない。
今でこそ[ウインドエッジ]なら楽に扱えるようになったけれど、あれだって最初の頃は集中力を高めなければ使えなかった。
そのときと同じ感覚――いや、それ以上に研ぎ澄まして――
「……おイ、クリス? もう来テルぞ? あたしもこのママじゃ動けナイんだからナ!?」
僕自身も、握った刃の一部なのだ。
道具になれ。
『従え』
お前は物だ。
『従え』
聞こえる、僕の奥底から“声”が。
それに従うと、僕はいつだって、リーゼロットの“所有物”になれた。
『それがお前の幸せだ』
そう、それが僕にとっての、最上の幸せだから――
「クリスッ、さすがニもう限界ダッ! 早くしろオォッ!」
『私はリーゼロット』
『あなたは私の下僕』
『あなたはもう私に逆らわない』
『私のために生きるの。それが、一番の幸せだから』
「うおぉぉぉぉおおおおおおッ!」
精神がもっとも研ぎ澄まされるその瞬間、僕は[フェイタルエンド]を発動。
本来の腕力を超えた速度、力で[タイタンフィスト]の線と点を引き裂く。
歪み、破綻する魔力。
その破滅に“向き”を与え、眼前に迫る竜巻へと射出する――巨岩血鷲。
ズドォンッ!
巨腕が放たれたそのとき、空気が震え、僕は脳みそを揺るがす強い衝撃を感じた。
ぐらりとよろめいて、足に力をぐっと込め、どうにか踏ん張る。
爆音を至近距離で聞かされたせいか、耳鳴りがする。
「ヒュウ♪」
かすかに、キルリスのそんな声が聞こえた。
僕はまぶたをゆっくりと持ち上げると、グラードがどうなったのかを真っ先に確認した。
彼は、いない。
生きているとか、死んだとか、そういう話ではなく――いないのだ。
いや、よく見てみれば、わずかに足の下半分だけが残っている。
しかしそれ以外のグラードの体は、跡形もなく吹き飛んでいた。
そして彼の背後にあった町長の屋敷の残骸も消し飛び、さらに奥にある森林や小山も大きくえぐり取られている。
「シシッ、シシシシシッ! いいネエ! やっぱサイコーだ、クリス!」
「うわっ!?」
キルリスはまだ回復しきってない僕に、両手を広げてがばっと抱きついた。
「可能性を感ジル! お前はきっと、あたしをワクワクさせテクレル! だから欲シイ!」
「待って、まだ少しくらくらして……んぐぅっ!?」
そう言って、顔を近づけ、まるで食らうように乱暴に唇を重ねた。
何で? 何で僕、キスされてるの!?
必死に手足をばたつかせて逃げようとするけれど、今の僕じゃキルリスの腕力には敵わない。
そのまま二人でじたばたしていると、騒動を聞きつけて次第に人が集まってきた。
中には、キャミィとミーシャ、ヴァイオラの姿もある。
「あっ、いましたクリスさ――」
キャミィは唇を貪られる僕の姿を見て固まったかと思うと、顔を真赤にして憤る。
「き、きっ、ききっ、きっ、キスなんてしてっ――ずるいですぅぅううう! 私もしますううううううっ!」
そして僕の背後から抱きつき、キルリスに対抗して僕の唇を奪い取ろうとした。
「す、すごい……さすが冒険者さんは進んでるのね」
「……あれ進んでるって言うの?」
ヴァイオラもミーシャもそこはいいから……そろそろ、苦しいし……誰か僕のこと、助けてくれないかなぁ……。
面白かったよ、先が気になる! と思っていただけたら、下のボタンから星を入れてもらえると嬉しいです!




