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クラリスさんと、ギャレット領の動きを観測します

突然ですが、ちょっと長くなりすぎてたので砂漠の国エルダクガを越えたあたりで章を分けました!

 のんびりと会話も楽しみ、折角なのでとエドナさん達と屋敷の中にて食事も楽しんだところで……ようやく日が暮れてくる。


「それでは、そろそろ行きますか」


 英気を養ったところで、元気いっぱいのリンデさんが頷く。クラリスさんが立ち上がり、アンの頭を撫でる。


「頼りにしてるわ。エドナのこと、よろしくね」

「うん!」


 エドナさんに笑顔でしがみついたアンを見て、僕も嬉しくなる。

 ……もしかしたら、母親みたいな、そういった存在が恋しいのかもしれないな。


 -


 夜のシンクレア領の門を出て、西のギャレット領まで暗い道を進んでいく。

 軽く強化魔法を使って、そこまで急がずに走り出した。

 さすがに他の人が起きている間にあれをやるとは思えない、まだ時間に余裕はあるだろう。


 今回皆が別行動するにあたって、アンは役に立ってくれたなと思う。

 立場のある人が戦うことはもちろん、逃げることもできないような状況になった時に護衛が必要になる。

 その上に護衛は、相手の能力を大きく上回る必要があり、しかも護衛対象に嫌悪されないのも大事ときた。そんな条件を全部クリアしてくれるのが、明るく無邪気で、しかも滅茶苦茶強いアンという存在だ。


 本当に、これがデーモンの王の娘だというのだから、突然変異だよな……。いや、ゼルマさんの話によると、アンが標準的なデーモンの先祖返りなんだっけか。

 とにかくアンは、僕達にとって絶対に欠かせない人員だ。ついてきてくれてよかったし、もっと振り返ると偶然ながら助けられてよかったと思う。

 ……いや、なんというかあの頃は強化魔法をちょっと強めに使うだけでふらついていたんだから、あの時からずっとアンに助けられっぱなしとも言えるんだった……。

 僕の人生、女の子に助けられっぱなしか。いや、助けられっぱなしだったわ。


「……ライさん、どーしたんですか?」

「いえいえ、リンデさんにもいつも助けられてます」

「はあ……えっと、ありがとうございます? でもどっちかというと私がライさんに助けられっぱなしだと思いますよ?」


 ちょっと話が僕の頭の中だけで進行していて、リンデさんがついてこられてない顔で首をかしげるので笑ってしまった。


 でも……僕に助けられっぱなし、か。本気でそう思ってくれているんだろうな。

 大抵の人々は、お互いがお互いを助けているとは分かっているけど……どんなに能力が高くても、僕の評価の方が高いんだから、やっぱりリンデさんは素敵だ。

 この子に恋してよかったな。


「……絶対これ、のろけてる顔よね」

「心を読むのやめてもらっていいです?」

「無理。リンデちゃん好き好きーって頭に文字列が浮かんでるのが見えるし、なんかもっと深いところでベタ惚れしてる感じが分かるわ」


 マジですか……クラリスさんの発言を受けて、僕が否定しなかったためリンデさんが僕の顔を見てぴょんと跳ね上がる。

 目が合うと……下を見ながら手元で指先同士をつんつん合わせて照れるリンデさん。待ってそれ超可愛い。


「……ライ君、質問していい?」

「えっ? な、なんですか……?」

「多分ミア様がそのレオンって魔人族に対して出産まで突き抜けていったの、二人がそんななのが原因なんじゃない?」


 僕とリンデさんは、姉貴のあの濁った目から逃げるように、同時に目をそらせた。


 -


 人目を避けて森の中を移動したけど、よほど余裕があったのかギャレット領にはまだ明かりがともっているぐらいの時間に着くことが出来た。

 テントはどの辺だったか……と思っていると、僕の近くに見知ったシルエットが見えた。

 遠目にもはっきり分かるあの姿は、ビルギットさんだ。肩にユーリアが乗っている。


「ライ様、お待ちしておりました!」

「出迎えいただきありがとうございます。見つからない可能性も考えていたので正直助かりました……」

「そうかと思い、ユーリアが観測した時点で出迎えに誘いました。相手から視認される危険性があり少々身勝手な判断かと思いましたが、ライ様にそう言っていただけて嬉しいです」


 エネミーサーチが使えるとはいえ、結構な広範囲だし、魔人族は魔物と同様に魔力の豊富な存在。距離が離れると一気に分からなくなる。これはもっと練習して使い慣れた方がいいな……。


「どうですか、相手に動きはありましたか?」

「昨日のうちはなかったですね。ライ様はこの後、ギャレット領に動きがあると?」

「はい」


 二人にシンクレアの屋敷であった会話を話した。

 その内容を聞くと、普段は大人しい二人もさすがに眉間に皺を寄せている。


「……本当に、無礼な方なのですね。しかしそうなると、クレイグ殿はやはり今夜……」

「そうです、確実にあの人物なら、収まらない怒りを叩きつけるように魔物を召喚するでしょう。それも……必ずドラゴンを。まずは皆とテントに入り、時間を待とうと思います」

「わかりました」


 クラリスさんを誘い、昨日と同じように山に設置してあるテントに入り、ギャレット領の灯りが消えるまで待つ。

 まだまだ時間はあるので夜食を軽く食べて、テントの隙間からギャレット領を横目に見ていると……何だ? 違和感がある。

 ああ、そうか。空の星が妙に消えていて……。


「ライ様!」

「ユーリア、どうした?」

「あれは……!」


 そしてユーリアは、指を差して叫んだ。


「見えづらいですが、あそこにいるのはブラックドラゴンです!」

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