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領主同士の再交渉に、クラリスさんが加わりました

 クラリスさんと明日の予定を決めてお互いに別れた。といっても、隣に家を構えているんだけどね。

 翌日、僕とリンデさんはいつものように二人で横になって仰向けに寝て……起きた時にはお互いに抱き合っていた。

 それ自体は、なんだかすっかりいつものパターン……だけれど。


「くぅ……くぅ……」


 背中に……多分アンだよな? しっかり張り付いて寝ていた。

 僕がその無邪気な寝息に、どういう反応しようか困っていると、ふふっと笑い声が聞こえた。


「……あれ、リンデさん?」

「はい、おきてましたー。ライさんがアンちゃんにどういう対応すればいいか迷ってたのがちょっと面白くて」

「ははは、確かに困りましたね。小さい姪っ子みたいで嫌じゃないですけど、毎日こうなっちゃうかなー」


 僕とリンデさんが話していると、むにゃむにゃと小さく声が聞こえてくると、僕にしがみついていた片腕が離れる。顔でも擦っているのかな?


「ん……あ、ライさん、リンデさん、おはよーございますー……」

「うん、おはよう」

「おはよー」


 三人の目が覚めたところで、ベッドから起き上がる。


「アンはエドナさんの屋敷の方にいたんじゃないのかい?」

「んとね、侵入者かなって思って起き上がったんだけど、やってきたのがクラリスさんだったから、帰ってきたーって聞いて交代したんだよ。それでライさんのベッドにもぐりこもーって」

「なるほど……ん? そういえばアンは、どこから家に来たんだ?」

「窓から入ったよ?」


 何を当然のことを? みたいに首を傾げながら聞いてきたけど……窓から?


「もしかして、一階から?」

「そうだよ?」


 やっぱり当然のように答えられてしまった。うーん、でもリンデさんも余裕でできるだろうしなあ。

 なんだか段々、僕がおかしいのか? という気になってきたな……?


「そういえば、エドナさんのところにまた人が来るはずです。リンデさんとアンは、部屋で待機。僕は恐らく、昼頃に屋敷に入れば……」

「ライさんライさん」


 再びアンが、僕に向かって首を傾げる。何か変なことでも言っただろうか、でもアンの尺度で普通かどうかって言われてもちょっとなあ……。


「今度は何かな?」

「おひるって、今だよ?」

「……えっ!?」

「エッ!?」


 僕とリンデさんが、同時に飛び起きる。

 外を見ると……ああっ、確かに日がもう高い!


「だってだって、私が寝たのって朝だもん。朝におふとんにはいったから、ライさんが朝に起きるはずはないんだよ?」


 すみませんでした、完全にアンの尺度で僕が非常識でした。

 朝に寝たのなら、そりゃ昼に起きるよね。

 ……さすがにあれだけ夜中に動いたんだ、朝早く起床とはならなかったので急がなければいけない。


「馬車は……まだ来てないな?」


 僕は窓の外を窺うと、二人に断ってすぐに屋敷の方へ向かった。


 -


「遅い!」

「すみません!」


 開幕早々、クラリスさんに叱られてしまった……。そうだよな、自分から協力を取り付けておいて、これは失態だ。


「確かに昨日は遅かったけど、でも君が聞いていないと意味ないんだからね」

「はい、そのとおりです……」

「ま、私もそこまで大差ないから縮こまらなくてもいいわよ」


 クラリスさんは自分のこともあるからそこまで怒ってないようで、すぐにエドナさんがやってきた。


「ライさん。今ちょうど街が荒れているのですが……本当にこれで問題は解決するのですね?」

「はい。不安に思うかもしれませんが、僕が手に入れた情報をまとめあげると確実に相手を追い詰められます。それまでよろしくお願いします」

「そこまで断言されると、信じるしかありませんね。前回のこともありますし、私も余裕を持って構えていましょう」


 エドナさんが言い終わると、外の方で大きな音が響いた。

 もしかして……!


「ギリギリで大丈夫だったみたいね。どうやら奴らが来たわ。ライ君は奥の部屋へ」

「わかりました」


 僕は前回と同じ部屋に入ると、扉の前で待機をした。

 少し待つと……やってきたな。間違いなくあれは、クレイグの重い足音だ。

 そしてドアが開くと、先制でクラリスさんが声を発した。


「こんにちは、クレイグ」

「く、クラリス様……まさか戻ってきていらしたとは。……もしや、例の魔人族も……」

「いえ、彼らはそのままマナエデンに留まっているわ」


 その返事を受けて、露骨に安堵する様子がうかがえるクレイグ。やはり僕達のことを警戒しているらしい。


「それで、早速ですが私も暇ではない、本題に入りましょう。……再び魔物が溢れるようになりましたが、エドナ殿の返事は変わりませんかな?」


 返事、というのはもちろん、ギャレット領の冒険者を貸し出すということだ。

 それも、相当な高額で。


「ええ、それに関しては変更するつもりがありませんわ」

「……やはり、街の人間が戦えるようになったからですかな?」

「あら、よくご存じで」

「我々の情報網もそれなりにありますからな」


 クレイグは、やはり先日のポイズンイビルバットの討伐を認識しているようだ。そりゃそうだよな、誰かが毒による悲劇に遭うことを最初から考慮した選択だったんだから。

 しかしそれは、堂々と街の人によって討伐された魔物の死骸によって否定された。


「ええ、街の人達は本当に頑張ってくれました。領主として、私は彼ら彼女らの活躍に期待したいのです。もう一度、街の人達を信じてみよう、みんなの力を信じてみたいと」

「それは感動的ですな。しかし……いつまでも上手くいくとはいきません。現に魔物も多くなっておりますし、段々と強力な魔物も現れるでしょう」

「————それに関しては、私が対処するわ」

「……クラリス様が?」


 それまで傍観者だったクラリスさんが、街の事情に話を挟んできた。


「今回の件は、さすがに目に余るというか……魔物が多いし強いのよね。だからある程度は不可侵といっても、街の人を助けることが私たち『マナエデン』の経済活動の一助になるのなら、動くわ」

「クラリス様は……一体どれほどの魔物を倒せるのですか?」

「そうね。一応オーガロードやキマイラ、あとグリフォンやワイバーンもいけるわ。それ以上はちょっと無理ね」


 グリフォン。その単語は、クレイグにとって一番聞きたくなかったであろう。

 つまりクラリスさんが本気を出せば、今仕掛けたものが機能しなくなってしまう。

 クレイグとしてもどうしても避けたいが、もはやクラリスさんが動いた以上、恐らく立場が上のエルフであるクラリスさんに意見することはできないはず。

 つまり、今回の配置の失敗は、避けられないこととなった。


 ならば、次はどうするか。


「必ず、後悔することになりますよ……!」

「そういう相手が現れるのも面白いわね」

「……私は、確かに忠告しました」


 クレイグはそれだけ言うと、「失礼」と一言だけ告げて、足早に屋敷から出て行った。

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