皆の力で今後の対策を立てます
グリフォン。その魔物は上半身とか下半身が別の動物になっている魔物だ。キマイラと近い特殊な形をした魔物である。
そして……かなり強い魔物であるはずだ。僕の知識の中にもあるぐらいだから、当然のことながら街の人では対抗できるはずもないだろう。
しかしグリフォンか。こんな魔物が出て来たら、シンクレアの人間どころかギャレット領の討伐隊でも手に余るんじゃないのか?
ギャレット領の人間がどれぐらいの能力なのか、平均水準はどのあたりかは全く知らないけど、それでもあれは簡単に相手できないはずだ。
……ん? それじゃあもしかして……。
「ユーリア、グリフォンの進行方向は分かるか?」
「はい。先ほどまであの魔物が、屋敷の、人間の……二人、ですね。二人が魔物の近くにいまして、その大きな屋敷から魔物……グリフォンが動き出して、シンクレアへの街道に沿って動いていると思われます」
シンクレアか。もしもシンクレアに行ったら大変なことになるな。
街の建物はそれなりに堅牢そうではあるけど、魔物の襲撃に耐えられるかというと答えは否だ。壁でも蹴破ってしまうだろうし、宝飾品の店を含めて窓の多い建物も多数あったので、そこから破られると悲惨だ。
「ら、ライさん、大変です、倒さないと……!」
「いえ、後ろから追いかけても間に合う速度なら、相手の動向を見ます」
「えっえっ大丈夫なんですか……!?」
「多分ですが……ユーリア、どうだ?」
僕は、相手の動きをユーリアに確認させる。
しばらく余裕の無さそうな顔をしていたユーリアだったが、やがて驚きに目を見開いた。
「う、うそ……えっ、シンクレア領の門の灯りを目指すのかと思いきや、途中で進行方向を変更しました。進路は……」
「山じゃないか?」
「……えっ、あ、あの、はい……」
やはり、そうだ。
「これにて全てが繋がった。それじゃ、そうですね……僕とリンデさんは夜のうちにシンクレア領に戻ります。ビルギットさんとユーリアは、明日一日ここで待機。一応食事は事前に作ってあるので、二人には渡しておきます」
「なんと、既に用意いただいているのですね……ありがとうございます。待機とのことですが、ここにいなければならない理由があるのですよね。私たちは明日、どのような場合に動けばよろしいでしょうか」
ビルギットさん、さすがよく察してくれている。
そう、ビルギットさん達はこちらでもしもの時のために動いてもらう人達だ。
「多分ないとは思いますが、念のためにギャレット領から夜中もしくは早朝にもう一体以上の強い魔物が出た場合は、二人で分からないように討伐してほしいと思います」
「強い魔物が出た場合、ですね。となると平地にいた魔物などは放置していいと。分かりました」
「ユーリアにはまた負担を強いてしまうけど、再び完徹で監視をしてほしい。ビルギットさんはそのまま就寝していただければと思います。僕の見立てでは追加の強い魔物が出る確率は低いので、ユーリアさえ起きていればビルギットさんは体力を温存してください。夜中に相手が動いた以上、昼間はユーリアは監視をしてもらう必要はないので、昼は寝ていてくれ」
二人が頷いたのを見届けると、僕とリンデさんはシンクレア領に走って帰った。
-
エドナさんの屋敷の裏に家を出してもらって、僕は家に帰る。
魔石の灯りを付け、食卓のテーブルに座った。
「忙しくて申し訳ないです」
「いえいえ、村でのパトロールに比べたら大した距離じゃありませんのでっ!」
……そういえばそうだった、ずっと周りの村を偵察してもらっていたし、実際はビスマルク城下街の周りもぐるっと見て回ってくれていたんだった。
僕一人ではとてもカバーできなかった範囲、やっぱりリンデさんは頼りになる。
「村では随分と負担してもらっていたというか、あの頃の僕は決して強くなかったので本当に助かりました。ありがとうございます」
「むしろこちらこそ、毎日料理を用意してもらってありがとうございましたっ! 魔人族じゃあ代わりに魔物をとうばつするなんて誰でも出来ることですが、毎日三食料理を作ってくれる人は誰もいませんでしたし、そりゃもー陛下もみんなも私に絡みに来るわけですよっ」
村での、すっかりもう一年近く前になりそうな頃の話を思い出しながら——僕自身はシレア帝国で何ヶ月も寝ていたけど——せっかくなのでルイボスティーを淹れる。
お湯を注いで、リンデさんが色の変わる様子を至近距離でじ〜っと見つめている姿を僕は横で微笑ましく見ていると……家のドアがノックされた。
その瞬間リンデさんが振り向いてこちらと目が合う。
「不審者さん……?」
「いえ、不審者ならわざわざノックしたりはしないでしょうし、それにアンだとむしろ静かに入ってくるか窓から入ってくるだろうから……」
可能性としては、二人しかいない。そしてこの時間帯なら恐らく……。
僕は家のドアを開けると、そこには予想通りの人がいた。
「どうしたんですか、クラリスさん」
「いえ、見知った家があったからちょっと顔を見にね、というのがひとつ。入っていいかしら」
「もちろん、どうぞ」
僕はクラリスさんを招き入れて、リンデさんのいる食卓に通す。
コップは一つ追加しよう。
リンデさんは入ってきた人がクラリスさんだと分かると、安心した顔で座り直した。
「あ、どーもどーも」
「今日はお二人?」
「ですです。ビルギットさんとユーリアちゃんは、ライさんがえっとギャレット領でしたっけ、そっちで待機って指示を出してました」
クラリスさんが注いだルイボスティーを手に「あ、おいし」と呟きながら僕の方へ向く。
「二人だけ帰ってきたということは、戻ってこなければならなかった事情と、あちらに人を残さなければならなかった事情があるのよね?」
「はい。簡潔に言うと、ギャレット領が魔物騒動の犯人だと突き止めました」
「……冗談、でしょう?」
「出てくる瞬間まで目撃しましたからね。二人は魔物が溢れた時の抑え役です」
クラリスさんは眉間に皺を寄せながら目を両手で押さえ、頭痛が出たかのように頭を振った。
「やってくれたわねあいつ……。しかし、そういうことなら、解決の算段も君は立てているのよね?」
「もちろんです」
ここシンクレア領の人々を長年苦しめ続けてきた、魔物騒動。
ようやく掴んだ相手の尻尾だ。しっかり狙いをつけて、ここで一気に片を付けて皆の平穏を取り戻したい。
「この件に関しては、クラリスさんの協力が不可欠です。僕と一緒に、この街のために協力していただけますか?」
僕の要請にクラリスさんは、力強く頷いた。




