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みんなに指示を出すのは難しいです

久々にレビューをいただきました、ありがとうございますーっ!

 緑の血が身体にかかっている人に慌てて回復魔法をかける。しかしその人はふらつきつつも、僕を見ずにずっと動かなくなった魔物を見ている。

 そしてもう一度、小さく斧を持ち上げて、背中に落とす。少し血が跳ねたが、魔物の肉体は一切動かなかった。


「……本当に、やったのか?」

「ええ、見ての通りです。僕たちの勝ちですよ」

「本当に……はは、本当に……!」


 その男は周りを見渡して、片手を突き上げて叫んだ。


「やったぞおおお!」

「うおおおおお!」


 その声に引火するように、周りから勝利の雄叫びが引火して誘爆する。

 ここに来て一番の、大きな歓声だ。


 ……そうか、ここの人達は『魔物に勝った経験』が足らないのか。だからどうしても、いまひとつ勝った自信が持てなかった。

 それが今回の大型の魔物退治だ。一気に『自分たちでもできる』という実感を湧かせているのだろう。

 それまでギャレット領の冒険者に頼りっきりで、自分たちではできないと思っていた魔物討伐。それが可能であると理解した差は大きい。


 しかしここで油断するわけにはいかない、こういう時が一番危ないんだよな。


「みなさん一旦落ち着いてください! 落ち着いて!」

「おう、あんたのお陰でうまくいったな! 俺たちでもこの調子なら——」

「いけません! 今回はうまくいきましたが、過剰に出来ると思い込んでいる時が守りを疎かにしがちになります! 経験則上、こういう二回目の時に死ぬ確率が一気に上がります!」


 僕の声を聞いて、少しずつ静かになっていく人達。


「気分が乗っている時に水を差すようで申し訳なく思います。ですが、取り返しの付かない死者が出た場合は、その比ではありません。僕は……勇者ミアは、両親を魔物で失っています。まだ姉貴が十三歳の時です」

「……」

「油断は本当に恐ろしいです、その直前まで気づきもしないだけに。……ですが! 今回は街に空から入り込んでくる魔物を討伐できました、大金星です! ですから、最後の帰り、門を閉めるまで全員無事で帰りましょう。そうすれば、今日は紛う事なき大勝利です!」


 あまり下げ過ぎてもよくない。少し余裕の出て来た顔と、なんとも反応しづらそうな顔。どうしても全員を満足させるようにはいかないか……。

 なかなかこのバランスは難しいけど、うまく間を取っていこう。やっぱこういうリーダーシップというの、僕には向いてないと思うんだよなあ。


 改めて思うけど、姉貴の子供のおしめを楽しそうに換えてたマーレさん、あの性格様々な時空塔騎士団を全員絶対忠誠にまで仕上げているあたり、上司としての能力が遥か雲の上の人だと分かる。自分でやって、ようやくその難しさと凄さを実感する。


 こういう時は、ちょっと下品ではあるけど共通の敵から話を作っていこうか。


「今朝、実はこっそりエドナさんの屋敷で話を聞いていたんですが、クレイグ・ギャレットもギルド長サイラスも高圧的で腹が立ちましたね。倍以上を要求してきて、だからエドナさんは突っぱねました」


 皆、ギャレット領に対してはいい感情を持っていないのだろう。同時に突っぱねたエドナさんへの、信頼の厚さも感じる。

 絶対自分たちの領主なら、もう下手に出ないだろうと。ならば僕も、畳みかけよう。


「そしてギャレット領の冒険者を突っぱねた今ここに、肉も毒で食べられないでしょうから、この討伐した魔物を牙や爪などを剥ぎ取った後に堂々と放置しておくことにします。全身に矢が刺さって背中を斧で破られた姿、間違いなくギャレット領の偵察が報告に帰りますよ。それはもうギャレット領のクレイグもサイラスも相当慌てるでしょうね!」


 その姿を想像して、幾人かが口角を上げる。そうだ、これをギャレット領の冒険者に見せつけてやるのだ。お前達でも苦戦しそうな魔物を、俺たちだけで倒してしまったぞって。

 当然相手は、言ったとおり慌てるだろう。


 そして慌てた相手は……罠にかかる。


「それでは次は、更に向こう側からゴブリンがきます。そいつらを僕が動きを止めるので、皆で安全に討伐して終わりとしましょう。相手はリーチが短いですから、冷静に、同じように、相手の間合いの外から武器を振り下ろせば終わりです」

「おう、わかった! お前らもいいな!」

「っしゃあ! やってやろうじゃないか!」


 よしっ、士気がしっかり上がってくれた。有難い。

 それじゃあさくっとゴブリン討伐、やっていきますか!


 -


 あれからすぐに魔物の群れがやってきたけど、さすがにもうゴブリン程度に後れを取ることはない。試しに雷の魔法も混ぜながら相手してみたけど、全て足を狙って地面へ磔にすることができた。

 後はもう消化試合、自信を持ちつつも慎重さを忘れない皆は、すぐにゴブリンも倒してしまった。


「ゴブリンは肉がとてもまずいそうなので、これも見せびらかしていきましょう! こんな群れでも、我々は勝てるんだぞと!」

「おう!」


 皆も笑顔で同意してくれて、倒したゴブリンを耳だけ切って道の脇にそのままにすることにした。

 今日はこれで終了だ。


 帰ったら皆からエールの宴会に誘われてしまったけど、丁重に断った。

 なんといっても、ずっと待たせている人達がいるからね。


「海の料理もこちらの料理もおいしかったですが、なんだか無性に食べたくなってしまったので、今日はこっちにきて久々の、オーガロードのチーズ入りハンバーグです!」

「わーーーっ! やったーーーーっ!」


 リンデさんが飛び跳ねて喜びを露わにする姿を見て、僕も笑顔になる。うん、やっぱりこの時間を外すわけにはいかないね。

 あれだけいつも食べていたのに、ちょっと食べないとものすごく恋しくなってしまうんだから、育った味って大きいよなあ。


 エドナさんに魔物を討伐した旨を伝えて、今日はテントで寝た。

 その日の夜は何事もなく、翌日は平和な一日となった。


 そして僕は、この日の夜に行動を開始する。

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