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街を見つつ作戦を立てます

 思いがけない発見もあったけど、それ以外は本来の目的通りに装飾品を見て回った。


「うえぇ〜っ、いいはなしですねえ〜……」


 ちなみにリンデさん、話を横で聞いてて既に号泣。そんな姿にみんな温かい微笑みを向けていたけど、僕にしがみつきながらなので当然注目を浴びるわけでして……さすがに恥ずかしい。

 そんなリンデさんの頭を撫でつつも、店内を優しい気持ちで見て回る。


 この店の商品にも、それぞれ制作者がいて、それぞれ宝飾品作りを目指すようになった一人一人の物語があるのだろう。

 そう思うと、ただの商品のように見ていた宝飾品の一つ一つが、特別な輝きを持って目の前に現れてくる。


 この形にしようと思ったきっかけはあったのだろうか。どうやってこの形を思いついたのだろうか。

 ここまでの完成系に仕上げるまでに、どれだけの時間がかかったのだろうか。それは指輪一つの製作時間だけではなく、この技術を磨いてきた年数もある。

 一つの指輪から、様々な想像を膨らませる。


 ……僕の指輪も、そうやって見る人がいるのかもしれない。

 だとしたら……そいつとは、話でもしてみたいな。




 世界共通硬貨は不思議とこちらの大陸にも伝わっており、有難いことに自分の手持ちの金貨を使えた。

 僕は店の中でも興味のあった装飾品をいくつか買う。気に入った物に関して、妥協することはない。

 まずは真似から、そして創意工夫をしつつ、自分だけの形に仕上げてみよう。


 他を知り、己を知り、数を重ねる。

 そして昨日の自分より、銅貨一枚でも高く自分を積み上げていく。

 その感覚を思い出してきた、いい収穫だった。この店に寄れたのは、いろいろな意味で良かったな。


 -


 昼は大通りで魚の串焼きだ。他にも魚の切り身や、一部高価な野菜など。


「野菜は最近採れてなかったそうですが、店にはあるってことは育てている場所はあるんですね」

「んー、それがそうでもないのよ」


 話を聞くに、どうやら家の屋根や庭などを利用して栽培しているとのことだ。街中に畑を作るという話もあったけど、どうしても城壁を作った後に誰かに立ち退きしてもらいながら野菜を作るという選択肢はなかった。

 あと野菜や小麦粉は、ほとんどが輸入のもの。つまり遙か遠く、マナエデンから大量に積んで、数日かけてやってきたもの。


「いい取引先だったけど、さすがにこうも長いとね。うちの出不精も解決してくれなかったし……だから本当に助かったわ。君もミア様に負けないなかなかの救世主よ」

「そう言われると……なんだか照れますね」

「傍から見てると、君が照れるとか緊張するっていうの、そんなにないんじゃないかと思うんだけど」

「ええ? 勇者ミアの弟だからですか?」

「それもあるけど、それだけじゃないというか……」

「?」


 最後の方は、ちょっと言葉を濁されてしまった。

 ……いや、普通に照れたり緊張したりしまくりますって、普通なんですから僕。


 この街は、海に面した街だ。塩の原料も目の前にふんだんにある。魔物がいない海で魚を捕って食べるのが主流になるのは当然といえた。


 同時に、海賊が海を荒らすことが懸念材料となっていた。おまけに陸地は畑が育たない魔物の氾濫。

 ようやく数年来の魔物の脅威から解き放たれ、畑を耕す算段がついたばかり。

 ここからが、カヴァナー連合国シンクレア領の再スタートだ。


 ————何も起こらなければ、ね。


 ……それから時間も経過し、すっかり辺りは夜になった。

 今日は、いろいろな場所でお店を見たり食べたり、十二分にシンクレア領を堪能した。

 別れ際に、クラリスさんに明日の約束を取り付ける。


「クラリスさん、また明日も会ってくれますか?」

「もちろんいいわよ、君の言ったことも気になるし」


 僕はその夜、一人に声をかけると、街の外にテントを張ってゆっくり休んだ。

 この日、目立った動きはなかった。


 -


「シンクレア領を出たと、噂話を流してほしい?」


 翌朝、僕はクラリスさんとエドナさんの二人に、とある相談をした。

 それが、『シンクレア領に、クラリスと魔人族はいない』という噂話を流すことだ。


「いろいろと、分からないことはあると思います。エドナさんには何も言っていない以上、怪しいのは分かるのですが……少し家の裏の空き地を貸していただけませんか?」

「……何か、悪いことが起こるのね?」

「まだわかりませんが、可能性は高いです」


 僕の要求に、エドナさんは数秒悩むとすぐに頷いた。


「出会ったばかりだけど、あなたのやったことに対する礼になるのなら協力するのはやぶさかではないし、それで他にも助けてもらえるのなら断る理由はないわ」

「ありがとうございます」

「ただし」


 エドナさんは、年齢を重ねた柔和な目を、大きく開いて僕を正面から見る。


「ここの領民に手を出す必要があるのなら、手を出す前に必ず私に声をかけること。どんな犯罪者だったとしても、ね」

「……領民を信用しているのですね、わかりました。ちなみにここの領民じゃなかった場合は?」

「今の領民の行動は私の責でもあるから。ですが他の領民は拘束しても構いません。ぱっと見て差は分からないでしょうけれど……でも拘束できた場合もこちらに引き渡すこと。いいですね」

「そちらも了承しました」


 僕はその条件を聞き、やっぱり優しい領主様だな、と思った。

 まあ、エドナさんがここまで言い切る以上、領民が何かを起こすということはないはずだと思う。

 もしかしたら僕の知らない警備体制があるのかもしれないし、罰則があるのかもしれない。

 それに……領民同士となると、あまり僕が出しゃばって解決するのもよくないのかもね。


「それではクラリスさん。まず、港に行きましょう。あの船はありますよね?」

「乗ってきた船は、もちろんそのまま繋いでいるわよ。港も大きいから、普段はいない船が臨時で何隻か泊まっても大丈夫なようにできているもの。泊めっぱなしでも大丈夫だけど……何しに行くの? 出て行ったフリするのよね?」

「はい」


 疑問に思うクラリスさんを伴って、港に着く。

 そして僕は、リンデさんの能力を信じているからこそ、ひとつとんでもないお願いをする。


「リンデさん、この船って『アイテムボックス』に入りますか?」

「あ、入れた方がいいです?」

「はい、お願いします」

「わかりましたーっ、おまかせくださいっ!」


 リンデさんが手を船体に触れさせる。

 隣でクラリスさんが「え?」と呟くけど、その間の一瞬に、リンデさんは終わらせた。


「え、ええええええええ〜〜〜〜〜〜〜っ!?」


 クラリスさんの大きな声が響くも、周りで見ていた人たちも同等の声を上げていた。

 そりゃまあ、びっくりするよなあ。


「なくなってる!? まさか、あれだけのものを……」

「はい、それができるのがリンデさんです」

「えへん!」


 リンデさんが胸を張る。信じてなかったわけじゃないけど、本当にすごい能力だよなあ。

 もう家を一つ収納した程度で驚いていた頃が懐かしい。


 よし、これで下地はできた。

 あとは相手が行動を起こすまで、息を潜める。

 さて、何が起こるか————。




 ————この日から三日後、事態は急転する。

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