ついに、見つけました
さて、ひととおりの問題を終わらせた気がする。
やってきた直後にさくっと国の問題を解決ってあたり、なんだか僕も相当感覚狂ってきてるけど……まあこれに関しては、そっちで女神様に本気で祭り上げられそうな気がしてきたユーリアの功績が大きい。
本来僕一人じゃ絶対こんなに活躍できないもんな。ちゃんとそこはわきまえておこう。
「はー、それにしても」
クラリスさんがなんとも形容しがたい苦笑で綺麗なサラサラの金髪をガシガシと掻きむしる。
どうしたんだろう、何か忘れていることでも……。
「……いやさ、あまりにも討伐が早すぎて、まだケーキ屋寄ってないのよ」
「あ」
「門からココへの間とは別の道にあるからね。つーかマジで『ちょっとその辺で卵買ってきます』みたいな時間でドラゴン仕留めてきちゃうとか思わなかったわ、さすがミア様の弟様ね!」
「お、主にリンデさんなので、あまり過度に持ち上げないでいただけると……」
さすがにドラゴン討伐の功績は辞退したい。直接ドラゴンとやりあったけど、あれを一対一で仕留めるとかさすがにちょっと怖い。
……今更ながら、あの急降下の恐ろしさがじわじわとやってきた。だってあの巨体なのだ、本来ならば僕では対峙することすら敵わないような相手。
なんであの時、あんなに堂々としていられたかっていうと……やはりリンデさんである。
僕は、僕が思っている以上にリンデさんに対して全幅の信頼を置いていた。
だからリンデさんが隣にいると、地上最強の魔物の全力攻撃だろうと、全く怖くなくなってしまうのだ。絶対に防いでくれると、自然に思ってしまうので。
……前それで相手のデーモンにさらわれたことを考えると、ちょっと僕のリンデさんへの信頼具合は危険な領域にあるよーな気がしないでもないけど……。
「ま、いいんじゃないの? あなたもドラゴンスレイヤー名乗っちゃって」
「いいんですかね……?」
「世の中、パーティメンバーだっただけでその称号振り回すような奴たくさんいるものよ。その点保証するけど、あなたは十二分に強いと思うし、そういう称号を悪用したりしないでしょうね。さすがにそれぐらい、この短い付き合いで分かるわよ。それをこんなに遠慮しちゃって……ほんとにミア様とは似ても似つかないわね」
くすくすこちらを向きながら、おかしそうに笑うクラリスさんの笑顔に、その気は全くないはずなのに少し胸が躍ってしまう。
……うう、やっぱエルフみたいな美人の種族って得だよなあ。
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それからクラリスさんが、自らお礼を選別したいからと一人で街の中に入っていった。
きっと街の人に、自分の無事な姿を見せることも大事な仕事なのだろう。ずっと何気なく話していた人への、周りの人達の対応の違いに改めてあの人の存在感の大きさが分かる。
やはりクラリスさんは、ここカヴァナー連合国でも一目置く存在なのだ。
しばらくして、そのクラリスさんがこちらにやってきた。
手元には、綺麗な箱。四角くて、薄い素材の、だけどしっかりした紙箱を、綺麗に包み込むように折りたたまれたものだ。……よくよく見ると、結構大きいなあれ。
「それが、買ってきたケーキですか?」
「そうよー! 最近はマナエデンからの輸入品もそうそう無駄に使うことができないから、作ってないんじゃないかと心配しちゃった」
そう言いながら、嬉しそうにその包みの繋ぎを解くように外していく。
そして上側の合わさった厚紙を、左右に開くと……!
「わあ……っ!」
「すごいすごい! きれい〜!」
「……っ! これは……!」
真っ先に、リンデさんやアンの声。ビルギットの息を呑む音。
しかし僕は、それらにも反応することができなかった。
ケーキは、間違いなくこの香りから最近貴族の間でも流行していたチョコレートケーキだと思われる。その上で、精度がすごい。綺麗な円柱形のチョコレートに、大小様々な人形のような飾りがついてある。
……あれらも、全て、チョコレートで作られているようだ。食べるのが本当に勿体ない。
しかし、それだけではない。
僕はついに、見つけたのだ。
リンデさんと出会って間もない頃、果物をふんだんに乗せたチーズケーキの話をしたときに、自分にとっての百点の雪化粧の話をした。
ビスマルク王国での砂糖は、どうしても黒い。それは元々の植物の特性によるものだし、精製を何度調整しても、ついに真っ白い砂糖にはならなかったのだ。
それが常識だ。
しかし、食材の丸い島では白い砂糖が一般的だという。
その知識はいつどこでついたかわからないけど、僕の心の中には料理人・菓子職人としての自分と、宝飾品職人としての自分の間で、綺麗な見た目のお菓子に憧れたのだ。
目の前に、それがある。
チョコレートケーキには、一切の色がついていない、綺麗な白い粉がかかっていた。
小麦粉なわけがない。あれは間違いなく、砂糖だ。
僕が望んだ、百点のための材料だ。
「……どうしたの?」
「あっ、いえ、ちょっと粉砂糖に感動してしまって……」
「粉砂糖!? こんなもん、島に来ればいくらでも売ってるわよ」
これが何も珍しくないと、はっきりとクラリスさんは言ってのけた。
それは彼女にとっての常識で、当たり前で……そして僕にとっての非常識で、求めていたものだった。
マナエデンは……本当にあったのだ。
このケーキを食べて、マナエデンに行こう。
そして今まで貯めたお金、姉貴のお金、リンデさんのアイテムボックスの容量。
全てを駆使して、たくさん買おう。
今から楽しみだ。




