クラリスさんは近しい感じかもしれません
タイトル名前おもいっきり間違ってましたすみません……
とりあえず、僕はリンデさんに頼んで食材をいくらか出してもらうことにした。
船の上に並ぶは、玉ねぎ、人参、じゃがいも。そして今回のメインは……、
「……これ、アクアドラゴンじゃないの……!? こいつを討伐したっていうの!?」
アクアドラゴンというのか、この海の竜。
驚きようから察するに、相当強そうな印象を受ける。
「はい。ビルギットさんが一瞬で討伐しましたよ」
「……………………」
クラリスさんが、唖然とした表情でビルギットさんを見上げる。
ビルギットさんはそんな視線を受けて、恥ずかしそうに頭を掻いた。
「きょ、恐縮です……。もしかして、強い魔物だったのでしょうか?」
「強いもなにも、東の海に船が入っていけない原因の一つと言われているほどの強力な魔物よ。船を見つけ次第首を出して、口から上級魔法を甲板に撃ち込みまくるから人間に対処はできないと言われていたわよ」
「なんと……そうだったのですね。視界に入った瞬間に首を捻って絞めたので、どんな行動を取るかは全く分かりませんでした。教えていただき有り難うございます」
「この流れで丁寧にお礼を言われるの、場違い感がすごい」
頭を掻きながらもクラリスさんは納得したようで、ビルギットさんならできるだろうと結論付けたようだ。
っと、そうだ、本題だ。
「クラリスさんは、エルフなんですよね。食べられない料理ってありますか?」
「ないわよ?」
なんと、別に肉が苦手ってわけじゃなかった。話に聞いていたのと、大分事情が違うんだなあ。
「エルフの肉嫌いってどこから出たのかしら……基本的に何でも食べるわよ。ああでも苦手な料理とかはあるわ」
「何でしょうか」
「貝類よ」
……貝類? 初日に食べた、あの巨大シャコガイみたいな魔物?
あれが苦手って、どうしてだろう。
「……若い頃、おいしい貝類が食べられるというのでごちそうになった牡蠣が美味しかったもので、もっとたくさん食べたいと思って自分で捕まえに行ったの」
そして、沢山の牡蠣を手に入れたクラリスは、それらをおいしいうちに一人で焼いて食べた。
牡蠣は身がしっかりしていておいしかったようだけど。
「それが思いっきり、食あたりをしちゃって……」
……エルフの美しき姫からどんな神秘的な理由があるかと思いきや、『食あたり』という実に生活感溢れる単語が出て来たことに面食らってしまった……。
と思ったけど、これリンデさんと出会った時と同じだな。
相手のイメージで考えてはいけない。種族というくくりで全員を同じように考えてはいけないし、その種族の中でも全ての人は個人であり、その人だけの特徴がある。
クラリスさんは、何でも食べる。そしてクラリスさんは、食あたりをしたことがある。それだけで十分だ。
まあ……一度当たったらそりゃ怖いもんな。
僕も「まだ大丈夫だろうか」と一人暮らしの頃は、あまり自分を大切にせずに古い食料をもったいないかなと全部自分で消費しようとしたこともあった。
結局はそんなだから、思いっきり当たっちゃったりしたんだけどね。
「だから、そういうのじゃなければ、肉はもちろん大丈夫よ」
「そうなのですね、わかりました。今日はこれを調理しようと思うんですが……おいしいかどうかはわからないですよね」
「めっちゃくちゃおいしいわよ、それ」
このアクアドラゴンを、おいしいと言い切った。……ということは……。
「クラリスさんは食べたことあるんですか? 討伐するのは大変というふうに言っていたと思うのですが」
「私はできないわよ。お姉ちゃ……姉がするのよ」
お姉ちゃんって言いかけた。っていうことは、クラリスさんにはお姉さんがいるのか。
「うん。あまり自分のことを語ってくれないけど、とても頼りになるよ」
そうなんだ。マナエデンに行った際には、是非ともご挨拶したいな。
船を鎖で繋いでいる以上、勝手に逃げるということはないだろう。ユーリアを呼んできて、こちらの揺れを再び抑えてもらう。ユーリアの魔法の精度には、魔法を得意としているクラリスさんも驚いていた。
アクアドラゴンは肉を一片切り出して、残りをリンデさんに仕舞ってもらい、船内の簡易キッチンで更にその一部を軽く焼いて食べてみる。
……! おいしいなこれは! オーガキングとはまた違って食べやすく、飽きの来ない味。似ているものは……魚だろうか、肉だろうか。とにかく特別なおいしさであり、どれにも似てない味だ。
これもいろいろな料理に試してみたいな。
さて、まずは玉ねぎを切って炒めて、そして人参も焼いておこう。
最初に調理して、弱火で置いておけばよかった。どうしても後からだと混雑するし、調理が追いつかなかった人参は時々青臭い。
肉は、塩胡椒を使って味付けし、更には玉ねぎを炒めたものとバルサミコ酢を合わせていこう。細かくした玉ねぎと絡ませて、ソースのようにかけていく。
焼き加減かなりレアだけど、魔人族と違って僕が未知の食材で食あたりはしないだろうか。
……と思ったけど、食あたりを気にせずに食あたりをしたクラリスさんがいるんだから、相当安全なんだろう。
大きめの肉は、なるべくしっかり火を通して。
……。
-
甲板のほうに出て来た。
パンで挟んだアクアドラゴンのサンドイッチ、間違いなくおいしいだろう。もうリンデさんは既に楽しみでたまらないといった様子で目を見開いて笑顔だ。
そんな姿に僕もすぐに食べさせたいけど、その前にちょっと話を聞いておきたい人がいる。
「……俺に何か用か?」
こちらの船の甲板に、海賊頭の人だけ来てもらっていた。




