海賊達を圧倒します
うわああすみません最初間違って別の方の小説に投稿していました!
こちらから乗り込んだのを切っ掛けに、リンデさんが甲板に海賊たちの腕から剣を一気にはじき飛ばした。
海賊達はその握りしめていた曲刀を弾き飛ばされた衝撃に連動される形で、急に大きな力が加わって腕をとられて、その場に座り込む。
こちらからみたら、それは甲板全ての海賊に同時に起こり、まるで海賊達が一斉に曲刀を放り出して座り込んだようにさえ見える。
……強い!
もう誰が見ても圧倒的すぎる実力差だった。リンデさんと海賊では、最早勝負にすらなっていない。
リンデさんは一瞬で全ての海賊の手から武器を奪うと、次はまだ武器を構えていない海賊の腰にかけた曲刀も奪い取ってしまった。一瞬で近づいて、一瞬でアイテムボックスに仕舞っておしまいである。
そして本当に、甲板の上から武器という武器がなくなったのを見届けると、リンデさんは次に相手の船の船内の方を見た。
「……中にも人がいそうですね」
ぽつりと呟いたと思ったら、一瞬で姿が消えた、と思ったと同時に大きな音とともに何かがふっとぶ。
それが、リンデさんが無理矢理引きちぎった船の扉が空高く投げ飛ばされたものだと気付くのに時間を要した。
「……相も変わらず、リンデさんってデタラメに強いですよね……」
隣で呟くビルギットさんに、アンとユーリアが何度も首肯する。
「ビルギットさんから見ても、そう思いますか?」
「はい。時空塔騎士団の間でもリンデさんの異様な強さは話題に上がりました。私は見ての通りの怪力女ですし、カールは私の幼なじみにして男のプライド持ち、意地でも私に勝てるだけの剣技と怪力と魔法を身につけてきました。クラーラさんは実際かなり年上でずっと鍛えていた人だから分かるんですが……リンデさんだけはそういう強さのバックボーンが全くないんですよ」
そういえば以前、まだ悪鬼王国に連行される前に聞いたことがある。
努力をするタイプではなかったと。天賦の才だけであの剣技を身につけていたと。
そもそもこのビルギットさんが、あの天才魔術師マグダレーナさんをして「自分が魔法を発動するより速く殴られる」と言い切り、戦ったら負けると判断したほどの怪力なだけでなく瞬速の拳闘士なのだ。
それを含めた上でも、魔法を全く使えないのに剣技と魔法を努力していたカールさんを剣技だけで上回る実力を身につけている。
「クラーラさんならともかく、カールなんて負けると思っていなかったから最初は思いっきり凹んじゃってましたね。……ある意味では、間違いなく魔人王国最強ですよ。リンデさんは本当に、自然体で強いのです。特にここ一ヶ月でどれほど強くなったか私でも把握しきれないぐらいです。……あら」
ビルギットさんが話している途中で、素手の状態のまま海賊がこちらの船に乗り込もうとしてきた。
橋を渡ってくるのだけど、見ていて少し危なっかしいし、乗り込んできた後はどうにでもなると思っているんだろうか。
「一応僕も交渉に出ますが、お願いできますか?」
「はい」
ビルギットさんが頷くと、船の端から一緒に甲板の中心部へと足を進めた。
海賊達はこちらにどれだけの人員がいるかは分かっていないまま乗り込んだんだろう。当然ビルギットさんの姿を見て固まる。
「な、なんだこいつは!」
「ちくしょう、魔族だらけじゃねえかこの船!」
「ありえねえ……こんなの勝てねえよ……」
次々に愚痴をこぼす海賊達の近くにビルギットさんが歩み寄り、その大きな手の平を見せつける。
何もない宙空を握りしめるように拳を作ると、その右腕の筋肉が大きく膨らみ、二の腕が大きな山を作る。
……下手したら僕の胴体よりビルギットさんの力こぶの方が太い。
もちろんそんなものを見せられたら、いくら考えなしな海賊といえども襲いかかれるわけがない。
こういう卑怯な手段で稼いできた連中は、自分より弱い相手にしか威張れないのだ。船に武器を積んで、武器のない船に金属の弾を叩き込み、剣があるから武器がない者を襲い、武器がなければ拳で自分より弱い者を襲う。そして集団で一個人を襲う。
だから想定していないのだろう、その全てが全く通用しない相手というのは。
「……まずは一つ、言っておきます。私はあなたたちを殺すつもりはありません。しかし……余計なことをしたら、手加減は出来ないかもしれませんよ。見ての通り、私は『ほどほどに痛めつける』ということが非常に苦手ですので」
そして近くにあった空の樽を片手で握ると——樽を片手で握るという時点で、とてつもない大きさだよな——その樽を軽く空中に投げ、手の平でビンタをする要領で叩いた。
大きな音と共に遙か彼方へ樽が吹き飛ぶ……かと思いきや、あまりの強さにそれだけで樽が破壊され、甲板に一部の木くずが落ちてくる。
「……もしも他の船員に手を出したら、こんなに手加減した攻撃じゃ済みませんから。私もあまり、この船を破壊するほど暴れたくはありません」
ビルギットさんが僕の方をちらりと見た後に、そう宣告する。男達は尻餅をついて、首をがくがくと壊れたおもちゃのように縦に揺らした。
次から次へと武器を失った海賊がこちらの船に乗り込んでくるけど、その度に先に乗り込んできた海賊達がやってきた海賊に、今のビルギットさんの行動を逐一説明する。その内容を聞きながらビルギットさんを見る海賊達に恐怖の表情が浮かぶ。
……これで終わりだろう。
そして同時に、僕は少し思うことがあって、ビルギットさんの隣に行った。
後ろから、ビルギットさんの左手の平の小指に手を置く。
一瞬びくっと震えると、ビルギットさんはこちらに振り向いた。先ほどまで少し寂しそうだった表情が驚きに変わる。
「ありがとうございました」
そう短く告げると、彼女はようやく柔らかく微笑んだ。
……そうだ、もう慣れているとはいえ、元々人間との交流が少なくて、同時に憧れていた期間が長かった淑女の彼女が、これだけの人間の男に恐怖の対象のように見られて嫌な気分にならないわけがない。
だけどビルギットさんは、僕達のためにわざと自分の力を見せつけたのだ。
そのことが分かっているから、僕は手の平の側からビルギットさんの指を握る。
この手に握りしめられたら、僕の手は激痛と共に骨が粉々に砕かれるだろう。そういう想像をしてしまうほどの紫の巨大な手。
だけど、この手が本当は破壊を一番嫌う手だというのは、僕が誰よりも知っている。
何も言わずとも、これでそのことが伝わるはずだ。だってビルギットさんは本当に察しの良い方だから。
ビルギットさんの親指が、恐る恐る僕の手の甲を撫でる。……うん、伝わったようだ。ビルギットさんに微笑むと、手を離して次は向こうの船を見る。
そろそろ、終わるだろうというタイミングで声が聞こえてきた。
「ライさーん! ちょっと困ったことになりました!」
リンデさんが相手の船内から出て来て、こちらに飛び乗ってきた。
「どうしたんですか?」
「なんだか、捕まってる海賊じゃないっぽい人もいました!」




