ファジル様の話を聞きます
さて、出発する前に……やっておかなければならないことがある。
ファジル様は、倒れた冒険者達の元へと跪く。
「我が国の中でも手練れのあなた達を雇い、何気なく談笑していた時に……まさかドラゴンが相手だなんて、本当に……」
倒れていた男の懐から証明になるものをいくつか取り外すと、馬車の中で血を吐いて倒れていた他の者も集めた。
四人の男女の亡骸が横に並ぶ。そしてファジル様は僕たちの方へ……正確には、ユーリアへと向き直った。
「あなた、先ほど魔法を使っていたわね」
「はい」
「私たちの国では、王族は復活を願って地下に保存する以外は、民は全て燃やして天に還すのが葬儀の基本なの。あなたにこんなことを急に頼むのは申し訳ないのだけれど、彼らのためだと思って死体を燃やしてくれないかしら」
「……わかりました」
ユーリアは四人の前に立つと、火の魔法を放つ。
四人の死体は大きく燃え上がる……。
「うっ、ううっ……ごめんなさい……もうちょっと早く気付いていれば、みんな死なずに済んだのに……」
隣を見ると、リンデさんが泣いていた。
リンデさんのそんな様子を見てファジル様が驚く。
「他人のあなたが悲しむ必要はないでしょうに」
「リンデさんは、悲しいことがあるとすぐに感化してしまう子なんですよ」
「……そう」
ファジル様がリンデさんの近くまで行き、話しかける。
「普通なら、ドラゴンに襲われたら私を含めて皆死んでいただけだもの。四人を救えなかったと思わずに、一人を救ったと思いなさい。一番近くで私を車の外に突き飛ばしてまで護った彼にとって、あなたたちの行動が何より報われたと思ってくれていると思うから」
「ううっ……はいぃ〜……」
二人が会話する中で、燃え盛る火が少しずつ小さくなっていき……そこには骨と、武具だけが残った。
ファジル様は、四人の骨から喉の骨を取り、一つずつ袋に分けてそれぞれを証明する登録証とともに仕舞った。
車の中にファジル様を招き入れ、リンデさん達と乗り込んで出発する。
四人の死を見届けたからか、リンデさんは先ほどよりかなり真面目な顔をしていた。すぐ近くにお姫様がいるという状況も影響しているかもしれない。
「行き先は、エルダクガ王国でよろしいですか? ファジル様には引き返すことになるかと思いますが……」
「構わないわ。元々大した用事ではなかったし、どちらかというと魔人族を見て感想をお父様に報告するのが目的だったから。それはこの場である程度済んでしまったもの」
ファジル様は、魔族というものに対しての認識がまだ曖昧なところ、魔人族が実際にどういった種族であるかを確認したかったようだ。
その用事は、先ほどドラゴンを倒したリンデさんとユーリアを見て終わった。だからわざわざシレア帝国まで出向く必要はないとのこと。
……それにきっと、自分の国民の亡骸を見て泣いたリンデさんに対して、悪い印象は持っていないはずだと思う。
「それよりも気になることが出来たから」
「……ドラゴンの出没ですね」
「ええ」
ファジル様はドラゴンの単語を出すと、憂鬱そうに目を伏せた。……少し無神経だったかもしれない。
「いえ、気に病まないで。避けて通るわけにはいかないし……それに、確かに不可解であることは間違いないから」
「この辺りでドラゴンの出没報告は」
「まさか。十年遡っても、ただの一体も出てこないはずよ」
それはそうだろう、仮にこの辺りで出ていたとしても、噂がシレアからビスマルクまでやってくるのは間違いない。
ドラゴンとはそれぐらいの相手なのだ、災害として討伐よりも先に避難指示が出る。
もちろん近年そんな報告はなく、ドラゴンに関しては……そういえば、姉貴が一度倒したと言っていたな。
しかしそれも山奥のほうだったと思う。
「ユーリア、念のため索敵を」
「はい、既に行っております。周囲にはもう……そうですね、東の荒野二キロ以内にパープルホークが数体、森の動物を狙っているぐらいでしょうか。西の海にも魔物はいるようですが、こちらは問題ないかと。進行方向には、もう目立った魔物はいないようですね」
「分かった。何か気になることがあれば逐次報告してくれ」
「了解しました」
ユーリアの報告を聞いて、ファジル様が驚いていた。
「二キロ以内……って、そこまで索敵魔法で見られるというの?」
「はい。……ライ様、魔法に関して詳細に話してもよろしいでしょうか」
僕は頷くと、ユーリアは自分の能力をファジル様に話し始めた。……能力の開示の判断までこちらに確認してくれるのだから、ユーリアからの信頼の厚さは本当に嬉しい。
ファジル様はユーリアの話す魔法能力の数々に驚きつつも、その能力を認めるように真剣に頷いていた。
「なるほど、ドラゴンの鱗に傷を付ける魔法のことを考えると、索敵魔法もそれぐらいになるのね。……あの、もしかしてライも、それぐらい強かったり……」
「いやいや! 僕はそこまでではないですよ。強化魔法は魔人族と同じものを習いましたが、それ以外はとてもユーリアには敵いません」
「そ、そうなのね……ちょっと安心したわ」
さすがにユーリアの魔法を見た後だと、あのレベルを期待されるのは心苦しい。
「ねえ、相談なのだけれど」
「何でしょうか」
「私の護衛として雇われてくれないかしら? 報酬ははずむわ」
何と、これから向かう王国の、お姫様の護衛か。
しかもお姫様自らとあらば、相手国に対する印象もいい。
断る理由がなかった。
「ええ、もちろんです。報酬以上に、魔族のみんなを奇異の目から護っていただければ、どんな魔物や山賊からもお護りすると約束しますよ」
「もちろん。アブラハム・エルダクガが娘ファジル・エルダクガの名に誓って、約束は違えないわ」
良かった……彼女が味方になってくれるというのなら、非常に心強い。
「……少し、疲れたわ。あなたは信頼できそうだし、魔人族の方と仲が良さそうだし。奥で休ませてもらうわね」
「はい」
ファジル様はそう言って、車の扉奥にある先頭近くの布の上で横になり、すぐに寝息を立てた。
……気丈に振る舞っていたが、やはり精神的な疲労が大きかったのだろう。
小さく最初に『談笑していた』と言っていたことから、ただの腕の立つ冒険者ってわけではないのだろう。
リンデさんも緊張していたのか、うつらうつらとしていたので、隣で寝かせることにした。
アンは既に眠っているようで、むにゃむにゃと寝言を言いつつ寝息を立てている。
「ライ様もお疲れでしょう、お休みください」
「ユーリアはいいのか?」
「私も休みますが、魔物がいた場合にすぐに起き上がれるように既に魔法を使っております。ドラゴンでもない限りは対処できますし、仮にドラゴンが相手でも本気を出せば私一人でどうにでもなりますから」
「本当に頼りになるよ。ユーリア、ありがとう。君のお陰で僕は大分楽させてもらってるね」
「ふふっ、勿体ないお言葉です」
ユーリアは嬉しそうに頬を染めて笑うと、壁偽をも垂れかけさせて静かに寝息を立てた。
みんな眠ったか……僕も……。
……それにしても、ドラゴンか。
何か、違和感というか……どうしても気になるところがあるよな。
僕たちが通りかかっていなかったら、ファジル様もあの冒険者たちと同じように、死体になっていたわけだ。
それは、嫌だな。
……僕たちを狙って来たわけではないだろう。
どこまでかはわからないけど、ドラゴンはそれなりに頭のいい種族と聞いている。ドラゴンにとって、魔人族は間違いなく簡単に勝てる相手ではないはずだ。想定外だっただろう。
だとしたら、やはり最初から……。
…………。




