アウローラとリンデさんの会話
アウローラが僕を振り向き、止まっている。
「やあ、ちょっと用事があって結局こっちから来てしまったね……久しぶり、アウローラ……うわっ!」
アウローラは、ずいっと僕の目の前に来て……近い……!
「ほ、本当にライなんだね! 久しぶり!」
「えっ」
親しく声をかけるアウローラの姿を見て、隣から声が……!
「ら、ライさんっ!? この方どなたさんなんですかっ!?」
「違いますよ!? アウローラとは別にそういうその、えーっと、せ、世話になった人です!」
「お世話にっ!? 具体的に、どんなお世話になったんですかっ!? どのあたりをお世話になったんですかっ!?」
「なんか質問おかしくないですか!?」
ううっ、リンデさんが攻め攻めムードに入ってしまった! 普段が相手を立ててくれるだけに、この勢いの時のリンデさんはそう話を聞いてくれないので非常にやりづらい……! ああ、マーレさんが以前攻められていた時にすっかり参ってたけどこういう気持ちかあ……!
「うふふ……二人の修羅場、ライ様を取り合う二人はやがて籠絡戦争へと発展し……」
「ユーリア戻ってきて!」
「————はっ!? し、失礼しました!」
この状況で速攻妄想に入れるユーリアはなかなか凄いと思うよ! 人選間違えたかなあ!?
「みんなたのしそうだねー! こんにちは!」
「えっ!? えっ、え、どなたですか? この見た目……まさか、娘……!?」
「違うって! とにかく話を聞いて!」
とほほ、てんやわんやの大騒ぎになってしまった……!
ようやくアウローラも落ち着いて。
「……な、なるほど……故郷の村にいる、姉の友人が誘拐されて、手がかりを探している最中と……」
「そういう……こと……」
なんで事情を説明しているだけなのに、こんなに息切れしてるんだろ……。
「……ええっと……失礼しました……。そちらの方々が、魔人王国の女王の護衛、なのですね」
「えとえと、はい。ライさんと一緒に住んでいるジークリンデと申します。あ、リンデでいいですよ」
「わかりました、リンデさん。よろしくお願いしますね」
う……ううん、大丈夫かな?
「あなたも、ライと一緒に住んでいるのですか?」
「いえ! 私はライ様の部下であり、リンデ様とは階級の違う身分であります故、あくまで一兵卒と思っていただければと思います!」
「お、おお……わかりました……」
ユーリア、普段は気さくに話しかけられる感じだけど、リンデさんと同等扱いみたいな言われ方をすると急にかしこまってしまうのは相変わらずである。
でもこの生真面目さが信頼できるところかな? さっき思いっきり妄想世界に潜り込んだけど。
「最後のあなたは……?」
「アンだよ! アンでいいよ、長いから」
「フルネーム言ってくれてもいいよ?」
「そうなの? ライさん覚えてる?」
「アンダリヤエフヴェフ、ツィリーヤクセナズダ=ズィヤヴォルだよね」
「すごーい! まだ覚えてるなんて! 悪鬼王国では誰も覚えてなかったよ!」
アンに笑いかけながら頭を撫でると、アウローラが「……今の、名前?」と聞いてきたので頷いた。
アウローラは、やっぱり略称で呼ぶことに決めた。
「とりあえず、立ち話も何ですから……家の中へ」
「三人は大丈夫かな?」
「以前遠くから魔人族を見たから、大丈夫だと思うわ」
「わかった。それじゃお邪魔するよ」
アウローラがちらちらこちらを振り返りながらも、孤児院の中へと僕たちを導いてくれた。
リンデさんは……僕の腕に腕を絡ませて、明らかに密着してきている。
ちょっと先導したアンが、僕とリンデさんを見ながらにーっと笑っている……うん、自分でも相当恥ずかしい入り方だとは思ってます。
「はぁ……そういうことなのね……」
小さくアウローラの溜息が聞こえてきた。
部屋の奥に行くと、ちょうど三人が部屋に集まっていたところだった。
「……あれ? あっ! ライ兄ちゃんだ!」
「えっ……!」
「まあ! ほんとですわ!」
「カルロ! リコ! ロザリンダ! 久しぶり……ってほどでもないかな! でも久しぶりだな!」
僕は三人の近くに行き、カルロの頭をくしゃくしゃと撫でる。
撫でられつつもカルロがじっと僕の方を……いや、三人が揃って隣を見ている。
そりゃそうだ、魔人族を間近で見るのは初めてだろう。
「紹介するよ、リンデさん。魔人族の剣士だ」
「ど、どーもどーも、リンデです」
リンデさんが頭を掻きつつぺこぺこおじぎをする。小さな孤児に頭を下げるその姿はマクシミリアン様に挨拶した時と全く同じで、相手を見て態度を変えないリンデさんの良さを表しているようでなんとも微笑ましい。
そんなリンデさんに真っ先に近づいたのは、ロザリンダだ。
「リンデ様ですね?」
「はいっ」
「あなたがライムント様の奥様なのですね」
「はいっ……はいっ!?」
な、なんてこというんだロザリンダ!? カルロもリコも驚いてるぞ! あとアン、笑いすぎ! こ、これは訂正するべきか……!?
でもなんで急に……ってそうか!
「指輪が一緒ですもの」
「あいかわらず目ざといというか、ロザリンダは一歩大人びてるなあ……!」
「当然ですわ。それに……」
ロザリンダが、アウローラの方をちらりと見て、僕の耳元まで近づいて……、
「ライムント様に本命の想い人がいることぐらい、最初からなんとなくおりましたから」
小声で囁いた。
……本当に、滅茶苦茶大人びてるなあ……オフェーリアさん、仕込み過ぎじゃないのか? アウローラより既に大人びてないかロザリンダ?
「どうしたの? ロザリンダ」
「アウローラは気にしなくてもいい話ですわ」
「むむ……」
なんだか本当に、アウローラよりロザリンダの方が上手って感じだなあ……。
「そうそう。今日は改めて、僕が村から離れることを伝えようと思って来たんだよ」
「あっ、約束覚えててくれたんだね」
「もちろん。現魔人王国にアウローラが来て、今や広くなったあの村を探してもらった上で『実は僕がいない』なんてことになったら申し訳ないからね」
「それでわざわざ? 律儀なんだから。でもありがとう、近くに行こうと思ってたからすれ違うところだったわね。会いに来てくれて嬉しいわ」
アウローラは子供達を両腕に抱えて笑った。
そして……リンデさんの方をじーっと見ている。
リンデさんも僕から離れて、アウローラさんを先ほどから無言で見ている。
やがて口を開いたのは、リンデさんの方だった。
「アウローラさん。ライさんを介抱してくれてありがとうございました」
「いえ、私自身もかなりお世話になりましたから」
「……元々ライさんがこっちの帝国に流れて来たのは、私が護れなかったせいですから……」
リンデさんは……やはりまだ、あの時のことを気にしていた。
「油断した隙にデーモンにさらわれて、ライさんは転移門からこの国に来たみたいで……。ビスマルク王国の外の人だと、私が一番最初にライさんと知り合って……たくさんお世話になって、本当にお世話してもらってばかりで……だから私が絶対にお守りするって決めたのに……」
「……リンデさん……あなたは……」
「それなのに……私は……私は、アウローラさん……あなたに申し訳なくて……」
リンデさんが俯いて意気消沈しているところで、アウローラはリンデさんを抱きしめた。
「ひゃう……!?」
「きっとあなたは、私より遥かに強い。だから今までたくさん、ライを護ってくれたんですよね。リンデさんがいないと、彼はここまで辿り着いてさえいないのだと思う。もしもの世界はないけれど、あるとすれば本当に……彼だけじゃなくて、私たちシレア帝国民も無事な未来なんてなかったかもしれない。誰も魔人王国との戦争を止められる人はいなかったから……」
「……アウローラさん……」
「でも、約束して」
アウローラさんは、リンデさんの両肩を押さえて、正面から目を合わせた。
「ライの隣は、リンデさんに任せるから……絶対に、二度と、私の見ていないところで負けたりしないで」
「アウローラさん……はいっ! もう私は、鍛えましたから。絶対に負けたくないって、失敗したくないって……失敗した時のあの恐怖を、覚えましたから。もう二度と負けませんから。ライさんを奪うっていうのなら、女神相手だって絶対負けるつもりありませんからっ!」
リンデさんが大声で言い切り、カルロの「すげー……」って呟きが部屋に妙に響き渡った。
その声を受けて、アウローラも首を上げて呟く。
「……うん、すごいなあ……女神相手でも絶対負けない、かあ……なるほど、こりゃ私じゃかなわないな……」
ぼんやり天井を見ると、頭のもやを振り払うように首を振って自分の両頬を叩いて……そしてアウローラは吹っ切ったのか、しっかりした顔つきになった。
「わかりました、リンデさんにお任せしますね」
「はいっ!」
……良かった……二人は仲良くなってくれたみたいだ。
「……ところでライ」
「何かな?」
「せっかく来たんだもん、何か食べてく? それとも作ってくれる?」
「……そうだな、作るのもいいかもしれない。リンデさんも、どうですか?」
「お食事さんですね! もちろん賛成しますっ!」
以前、ビスマルク王国の料理を振る舞うって約束したもんな。
僕もしばらく留守になるし……よし、今日はがんばりますか。




