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僕は、リリーを救いたい

 クラーラさんの発言を頭の中で反芻する。

 最初から、悪鬼王がリリーを狙っていた……?

 言われても、まるでピンとこない。だってリリーだぞ? あのド普通とはいわなくとも、本当に村の標準的な女性のリリーだ。

 それを、悪鬼王が選んで狙う必要があるのか……?


「ところで、さっきから気になってるんだけど」


 僕たちがすっかり考え込んで誰も言葉を発さなかった中で、リーザさんの声がよく通った。

 リーザさんはちらちらと、僕というより横を見て……ああ、そうか。


「知らない人がいるんだけど……あなたはこの辺りの人ではないわよね? ライ君と一緒に来ているから何か事情があるとは思うのだけれど」

「ゼルマさんのことですね」


 僕の言った名前に、


「ゼルマ?」


 と、真っ先に姉貴が反応した。

 そりゃそうだ、ゼルマさんのことは姉貴から聞いたんだから。


「そうだよ姉貴。ゼルマさんは、夢の中で見た時空塔螺旋書庫にずっと住んでた人だよ」

「……人? その人が、あそこに住んでいた……?」

「うん。言っちゃうと女神様だね」


 姉貴が驚いて目を見開き、ゼルマさんを見る。

 おお、姉貴が珍しく驚愕で固まっている。


「いやいや、女神って……」

「紛う事なき女神だよ。数百年とか生きてるらしいし」

「……マジすか?」


 少し時間が経過して、ある程度落ち着いて話が出来るようになった姉貴がゼルマさんに質問する。


「……ええ。あなたは?」

「あー、私はそこの子産んだばかりの元妊婦で、えーっと勇者ってやつですね」


 ゼルマさんは、姉貴の自己紹介にようやく納得がいったようだった。


「あなたが、ラムツァイトの戦士だったのですね。さぞ苦労したでしょう……ありがとうございました」

「えっと、まあ、別に苦労してはないですよ、強いのってそれだけで楽ですし。……って、ラムツァイトの戦士って何です?」


 疑問に思ったであろう姉貴に対して、僕は魔人王国で起こったことを話した。

 時空塔螺旋書庫に行ったこと。

 螺旋階段の下にゼルマさんがいたこと。


 魔人王国が、元々人類のいた場所だったこと。

 ゼルマさんが、人類と魔人王国の友好のために頑張っていたこと。

 ゼルマさんが『魔導適合』という勇者の力を発現させた張本人だということ。


 そして……アルマという女性のこと。


 アルマ。

 ハイリアルマ教を恐らく作ったであろう人物。

 明確に、魔人王国の排除のために動いた人物。


 姉貴は一通り聞いて……いつかのように、天井を向いて放心していた。


「ライ。もしかして、あたしってアホなのかな?」

「姉貴がアホなら、ハイリアルマ教の人類全員アホだと思うよ」

「……慰めではなく、本気でそうだと思うわ……」


 姉貴は頭の中の考えを振り払うように頭を振りながら、ゼルマさんと視線を交わす。


「で、ええと、ゼルマさんね。あなたがここにいるってことは、えーっと向こうからこっちに移住するってことでいいのかしら?」

「場所があるのだったら、こちらに移らせてもらいたいわ。どうかしら?」

「ライはそのつもりなのよね?」

「もちろん。マーレさんもそれでいいですよね?」

「はい。ハイリアルマ教の教皇と聖女の二人とも、話を合わせておきたいところです。なかなか長年そうであったことを修正するのは難しいかと思いますが、恐らく事情を話せば納得していただけるかと」


 この村は、元々ビスマルク王国に付属しつつも姉貴が代表を務めていた。

 そして今は、ビスマルク王国から魔人王国に主導権が移ったことにより、この村を中心としてマーレさんが代表を務めている。

 そのマーレさんがいいというのなら、それは村の意思だ。


 マーレさんが今住んでいるこの人間と魔人族の友好を示した村で、ラムツァイトゼルマ教は新たなスタートを迎える。




 ふと気がつくと、ゼルマさんがリーザさんをじーっと見ている。


「どうしたんですか?」


 その視線が気になって聞いてみると、ゼルマさんは驚くべきことを言った。


「あの人、ちょっと年齢は高いけど、生前のアルマに似ているのですよ」


 ……リーザさんが?


 リーザさんが、アルマ……つまり、女神ハイリアルマに似ている。

 僕の母マリアが、ゼルマさんに似ている。


 ……何か、今、一瞬で話が繋がった。

 しかしこれが正解なら、なんて残酷な話なんだ。


「ゼルマさん」

「何ですか?」

「アルマって、自分の子孫をこの村に送って、呪いで記憶を飛ばした後にハイリアルマ教を布教させたと考えるのが自然ですよね?」

「……ええ、そう、ね……」

「リーザさんやリリーって、もしかして、ハイリアルマ教をこの村に布教させたアルマの血縁者なのでは? だから、アルマは悪鬼王に指示を出し、悪鬼王はリリーを……」


 その推論は、あまりに残酷なものだった。

 リリーが狙われた理由。

 そして、悪鬼王と女神ハイリアルマは繋がっている。

 多くの情報に整合性を持たせることができるが、すんなり納得できるものではない。


 姉貴の勇者の血の因縁が、リリーの先祖によるものだというのなら。

 だったら、姉貴とリリーの関係は、あまりにも途方もない時間の末の、因果の鎖に縛られている。

 こんなことがあっていいのか。


「……ライさん」

「はい」

「ちょっと洞観士のレベルを超えてるっていうか、あなた本当に凄いですね……」

「たまたまですよ、姉貴の役に立ちたかったから、多少頑張ろうと思った部分はあります」


 確かにゼルマさんの言うとおり、結論までが我ながら早いなと思う。

 しかしそういうことなら、その能力は存分に使わせてもらおうじゃないか。


 リリーは、アルマの子孫。

 人類を窮地に陥れた謎の女神の子孫。

 ……だけど、リリーは。


 正面を見る。

 姉貴は真剣な顔で僕を見ている。

 そうだ、リリーを取り巻く理由など、どうでもいい。

 リリー本人がどういう人生を歩み、今どう感じているかが一番重要だ。


 剛胆だけど、心配性。

 僕の帰りを気にかけてくれた、姉貴の友人。

 そして……両親を亡くした僕を支えてくれた、近所のお姉さん。


 僕は自分を奮い立たせるためにも、はっきりと皆に宣言した。


「リリーを、悪鬼王……いや、アルマから救いに行こう」

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