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僕の本当の力が、ようやく分かりました

 リンデさんの発言。

 その意味を考える前に、ゼルマさんが声を上げた。


「白の模様!? 『看破』ですか!?」

「えっ? えーっと、ライさんも肌白くて綺麗なのでうっすらだったんで気のせいカナーって思ってたんですけど、あのきらきらステンドグラスさんと同じ模様なので思い出しました!」

「やっぱり……なかなか出ないと思っていたのだけれど、ついに……」


 リンデさんの返信でようやく、リンデさんは別に姉貴の背中にある勇者の紋章自体を見たことがあるわけではないということに気付いた。

 そうだ、僕の背中に何かうっすらと浮かび上がっていても、気がつかない可能性がある。


 ああ、今になって思い出した。

 リンデさんに、背中を拭いてもらう時に、僕の背中を凝視して声をかけるまでしばらく止まっていたことがあった。

 あれは……そうだ。僕の背中を見ていたのではない。僕の背中の紋章を見ていたのだ。

 そして、姉貴が体を洗った時に一緒にいたのは……。


「確かに、あの模様はミア様の背中にあったものです。黒、でしたね」


 そうだ、ビルギットさんだ。

 姉貴がやたらとビルギットさんの胸について話していたから、あの時一緒に洗ったのだということを覚えている。

 そしてビルギットさん自身は、僕の背中を見てはいないのだ。


 もしもリンデさんが、姉貴の背中を拭くことがあったとしたら、気付いていた可能性が高い。

 しかし、お互いに見たのは、片方だけの背中だった。ほんのちょっとしたすれ違いだったのだろう。

 同時に、ゼルマさんの言った『看破』という単語が気になる。


「姉貴……えっと、勇者、つまり『ラムツァイトの戦士』と同様に、僕も『ラムツァイトの看破』みたいな名前があったりするのですか?」

「はい。『ラムツァイトの洞観士』ですね。他にも『召喚士』『魔獣士』『死霊術士』などがいますが……滅多に出ることはないですね。身体能力が上がるのは戦士だけで、それ以外の能力者はそれぞれの特殊能力を発揮しないと、人間と変わらないはずです」


 それで、か。

 戦士以外は、すぐには分からないのだ。


 死霊術士は、間違いなくハンナのことだろう。一見不気味というか怖いイメージがあるものの、死者の魂を呼べば肉体がなくとも様々なことを聞いたり交流することができるため、王国でも昔から勇者に並んで親しまれていた。

 魔獣士と召喚士は……いるかどうかもわからない。魔物を操るのも、魔物を召喚するのも、それこそハイリアルマ教の教えている魔族そのものだ。デーモンの行動とも一致するので危うい。リヒャルトは、そういえばやっていたけど、まさか……なあ。


 そして、その中でも初めて聞く、何ができるか予想のつかない名称。

 洞観士……それが僕のことなのだろう。


「洞観士とはどういうものなのか、教えてもらってもいいですか?」

「はい。理論ではなく、直感で物事を解決し、魔法による情報統制を暴く能力に長けた魔導適合された強化人間のうちの一つです。非常に強力な解呪の魔法を使えるのも納得しました……この扉も、この螺旋階段も、そして私に対する敵意も。全てあなたが呪いを解いてくださったのですね」

「ほとんど意識することなく、ですけどね」

「背中を見せていただいても?」


 その要求、確かに僕自身気になる部分である。


「わかりました。それでは……」


 皆の前で、上着を脱いでいく。

 ちょっと視線が集まるのが恥ずかしいけど……でも、確認してもらわないことには始まらない。

 僕は服を脱ぎ、背中を皆に見せた。


「やっぱりありますねー。前見たとおりです」

「ライ様の背中、確かにミア様と同じ模様です。でも確かに……分かりにくいですね……」


 魔人族の皆の視線が集中する中で、ゼルマさんも僕の背中を見る。

 すぐに納得するかと思いきや……逆に疑問を持ったような声が聞こえてきた。


「んん……? おかしいですね。触れただけで扉の呪いを開くような勇者なら、もっと真っ白かと思ったのですが……」

「そんなに、普通ですか?」

「正直、同じ形の泥を塗って背中を軽く焼けば、同じ日焼け跡になるかも? ってぐらいには地味な白ですね……個人的には、光っているぐらいでもおかしくないと思ったのですが」

「光る、ですか……!?」

「はい。背中が、こう、夜でもぴかーって」


 それは遠慮願いたい……。地味な色でよかった。


「しかし形は全くの同じということで間違いないです。色に関係なく、ライさん……でいいですよね? あなたは間違いなく勇者の一人です」


 その言葉に……僕の心の中には、言い現れないような感情が流れた。


 姉貴が勇者になり、男で背の高い僕がずっと手も足も出なかったこと。

 世界を旅する姉を見送るしかなかったこと。

 弱い自分で、姉の帰る村を守るだけの五年間だったこと。


 リンデさんに出会って、魔人族を知ったこと。魔王を知ったこと。

 ハイリアルマ教の原典を看破したこと。

 姉貴には備わっていなかった、解呪の能力があったこと。


 本当に、一言では言い表せない。

 ただ、一つ言えることがある。

 姉貴が勇者になって、世界中で活躍して、見送るしかなかった五年前。

 自分が、この世界に必要のない人間になってしまったような錯覚を覚えた。

 その時の気持ちは、決しておかしいものではなかったように……思う。


 でも違った。一言で今の気持ちを表すのなら。

 そう、『僕が生まれてきた意味はあった』のだ。

 ようやく……ここまで自分の全てを認められる段階まで来られたのだ。


「リンデさん」

「はい?」

「ありがとうございます」

「……はい? えーっと、どういたしまして?」


 何もかも、リンデさんが村に来てから始まったことだった。

 停滞していた僕の時間を、魔人族のジークリンデという劇薬が一気に動かした。


 その結果が、遂に世界の秘密にまで踏み込んでいる。

 恐らく僕達には、悪鬼王国を滅ぼすだけでは終わらない、もっと違う難題が待ち構えているのだと思う。

 でも……僕はリンデさんが隣にいる限り、大丈夫だ。

 きっと、いい結末を迎えてみせる。




 上着を着て、少し肌寒かった感覚も落ち着いた。


「ところでゼルマさんに聞きたいことがあるのですが、いいですか?」

「はい、何なりと」


 まず、正面の謎の女性に関して、ちゃんと聞いておかないと行けない。


「こうやってお話していますし、普通の女性に見えますが……あなたはラムツァイトゼルマ教の……その、女神ということでいいのですか?」

「あー……あはは、まあ、やっぱりそうなるんですかね〜……?」

「曖昧な言い方ですね?」

「確かにラムツァイトゼルマ教としての体裁や教典を作ったり、自分の村の近い遺伝子の友人や親族に、時間をかけて魔導適合できる人が出るよう仕組んだりはしました。だから教祖というか、現人神というか、そんなかんじなんだろうなーとは思うんです」


 やはりこの人が、全てを作り出した人だ。

 魔導適合できる人って、間違いなく勇者のことだよな。

 この人が、勇者の村を作った人なんだ。


「……それが合ってるって理解はしているんですけど、自分で自分のことを『女神』って言うのって、ちょっとイタイかなーって。あはは……私、見た目も普通の村娘って分かってるんです。女神ってガラじゃないよなぁ〜って」


 なんとも恥ずかしそうに笑って頭を掻く、女神ラムツァイトゼルマ様。

 随分と気さくというか、距離の近い女神様だなあ……。


「なので、ゼルマさん、ぐらいでいいですよ。なんなら呼び捨てでも」

「わかりました、ゼルマさん」

「はい」


 マーレさんもこれにはびっくり。いえ、マーレさんも魔王にしてはめちゃくちゃ距離の近い気さくな魔王様ですからね?

 ああ、でも確かにマーレさんと似ていると考えると、自分で自分のことをそういう偉そうな名称で言うの、こういう性格の人だと嫌がるのもわかるかな?

 マーレさんも、そんなに積極的に魔王とか女王とかひけらかさないタイプだし。


 ……しかし、同時にいろいろな事象に関しての、現実との齟齬を考えなくてはいけない。

 この単語を出す事は、少し怖い。

 リンデさんの手を握る。リンデさんは少し驚きつつも、握り返してくれた。


 僕は、思い切ってゼルマさんに聞いた。


「ハイリアルマ教の『女神ハイリアルマ』について、教えていただけませんか」


 ————その単語を出した瞬間。

 ゼルマさんの眉間に、初めて深い溝が刻まれた。

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