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ミア:悪鬼王との戦いよ!

 言葉が分からない魔族……デーモンのアンダリヤの後ろ髪を見ながら、あたしも剣を構え直す。

 リンデちゃんも気合十分だ。ライの居所の手がかりが掴めたのだ、リンデちゃんだけじゃなくあたしだってかなり心理的な負担が減った。

 そしていざ心が軽くなってから、ああ、あたしも大丈夫なつもりが相当精神すり減らしてたんだなって気がついた。気付く余裕すらなかったというか。


 それにしても、この展開に驚きなのは悪鬼王の方だろう。

 なんといっても実の娘っぽい子がいきなり敵対する気満々なのだ、一対一で人数合わせたかと思ったら、いつの間にか三対一である。


「……アンダリヤ、お前は自分が今何をしているのかわかっているのか」

「…………」

「その声は封印の呪いだ、俺を倒したところで一生治るものではないことぐらい、わかっているだろう」

「いや治るんじゃないの?」


 あたしは後ろから茶々を入れる。

 悪鬼王は……あ、今のは表情分かりにくいデーモンでも分かるわよ、絶対嫌そうに顔を顰めているわね。


「魔人王国の回復術士であるエファちゃんも体の欠損治すぐらい凄いし、そのエファちゃんに魔法を教えたマグダレーナさんって人も村に来るんでしょ? 呪いぐらいなんとかなるわよ」

「……勇者……貴様……」

「あたし自身は大したことなくてもね、この勇者ミアちゃんには最強の人脈があるの。あたし一人だけで何でもできるなんて思っちゃいない。だけど、あたしの力で最高の結果を引き出せるなら何でも使うしみんな頼るし、とにかく出来る全力を賭けるわ」


 自分一人で解決できない宣言。決してかっこいいこと言ってるわけじゃないけど、でもあたしにとっての正解はそれだ。

 最高の結果を目指して選択する、それが今のあたしの役目。


 悪鬼王、もうここまできたら問答はお断りって感じで、剣を構えて歩いてくる。

 ビルギットさんは……まだかかりそうね。

 ま、相手が剣持ってるのに、拳で戦わせるのも悪い。

 むしろあのオリハルコンじゃなくて、えーっとなんとかゴーレムの相手をしてもらってるだけでも十分すぎるわ。あれって絶対、一体で人類滅ぼすための切り札とかそういうのでしょ。

 あれがビスマルク王国に来た時、あたしが王国民を護るという名目で、勇者としてあれを相手に戦うってことは考えたくない。


 ————ガキィン!

 正面で音が鳴る。リンデちゃんの剣が、悪鬼王の軽くて頑丈そうな剣を受け止めている。

 その瞬間にアンダリヤが突きを放つ。正確に、悪鬼王の胸の中心を狙っている。


「『ブレイブ・マジックアローレイン!』」


 その姿を見て、悪鬼王の後ろ一帯に魔法の矢を降らせる。

 当たらないと無駄撃ちだけど、あのアンダリヤの攻撃を避けるためには、その中に突っ込まざるを得ない。

 結果、悪鬼王は思いっきり頭からあたしの魔法に向かって飛び込んでいく羽目になった。


 自分から魔法の矢を浴びるという滑稽なことをやらされた悪鬼王はこちらを睨んで、再び剣を構えて突っ込んでくる。リンデちゃんが今度も受け止める——いや、突き飛ばされた!

 あのリンデちゃんが力負けしたという事実。やっぱ半端ねえわ、悪鬼王……。

 人間が悪の魔族と信じてきた元来の魔王がこちらだというのなら、間違いなく『一番強いから魔王』というのがこいつのことなのだろう。


 超高速でまっすぐ突きをしてくる悪鬼王の剣を、あたしはなんとかタイミングを合わせて下から両手持ちの大剣で打ち払う。

 力負けするなら、敵の攻撃を正面から受けるわけにはいかない。バランスをいかに崩すかを考えて戦う。

 しかし、当然力も速度も相手の方が速……速い! 想像以上に立て直しが上手かった。次の攻撃であたしの体は一刀両断……ってタイミングで、悪鬼王は引いた。見ると、アンダリヤが突きの構えをしていた。

 今のは命拾いした。見くびっていたわけじゃないけど、さっきの本気の片鱗は、予想よりもかなり速かった。アンダリヤがいなかったらと思うと、背筋に冷たいものが走る。


 ……やはり、魔王の娘アンダリヤの強さは格別ね。

 リンデちゃんに体格で劣りながらも、決着寸前まで持っていっただけある。


「アンダリヤ、いつの間にそんなに強く……。フン、実に惜しいな……」


 と思ったら、どうやら今のアンダリヤの強さは悪鬼王にとっても意外らしい。

 何か、強化魔法を受けて……と思っていると、アンダリヤは開いた方の手でもう片方の手の甲を撫でる。

 何やってんのかしらと思って見ていると……あたしは気がついた。




 ————指輪、嵌めてる!




 見たら分かる。あたしがテストした冒険者用の魔石の指輪だあれ。

 間違いない、ライが彫ったヤツ。

 ってことは、ライが脱出するために、彼女の能力上昇のために嵌めたわね。

 

 オッケーオッケー、そういうことなら強いのも納得。

 この子がライに無事に出会ったことも間違いなさそうだ。

 しかし……同時にあたしは、もう一つの懸念事項に思い当たった。

 こんな迷いなく父親に反抗することを選択したアンダリヤの理由だ。


 ……あンの天然タラシ! 絶対この子も惚れてるんじゃないの!?

 あーもーしらねーーー!


 それにしても、その能力上昇があってなお、アンダリヤの方が上とは言い難いわけね。

 むしろ悪鬼王は、まだまだ全然力を隠しているような気がする。

 果たしてこのまま、勝てるのか————。




 ————と思ったんだけど。

 目の前に、巨大な影が瞬間的に出現した。


 よく見てみると、それはあのゴーレム。

 ただし、手足がない。


「なに……アダマンタイトゴーレムが負けたのか! いや、負けるにしても破壊できるはずが……!」


 悪鬼王も驚いているようだ。

 しかしあたしは、驚かない。

 リンデちゃんだって、驚くはずがない。


 ゴーレムを握りしめたその影は。

 片手で、その頭を粉々に潰した。


「……脆いね、期待はずれ……」


 そして、体格に似合わぬ特大剣を両手で構える。

 悪鬼王に対して、余裕の言葉を放つ姿は、紛う事なき最強の魔人族の一角。

 その目は、未だかつて見たこともないほど細く、そして冷たかった。


「『時空塔強化』……お前は、簡単に壊れるなよ……?」


 マジギレ中の、クラーラちゃん登場である。


 -


 一瞬で視界から消えた悪鬼王と、一瞬で視界から消えたクラーラちゃん。

 その直後、ドッゴォォン! という城壁でも破壊してんのかというような音が遥か遠くから聞こえてきて、赤い魔石がこっちにふっとんできた。

 かと思いきや、後ろから爆発音が聞こえてきて、再び砂がぱらぱらと降ってくる。いや、今の移動したの!?

 今度は天井から破壊音。今の衝撃でこの悪鬼王国全体が揺れている。……この国壊れないわよね、あたしら生き埋めにならないわよね?

 と思っていると、目の前にクラーラちゃんと、悪鬼王が出現。したと思ったら次の瞬間にはもう視界の外。


 ……これが最強対最強ってやつね。

 なんというか、こんな状況だけどさ。

 やっぱすげー心沸き立つわ、強いヤツ同士の戦い。

 負けるな、クラーラちゃん。


 あたしが観客モードになっていると、アンダリヤって子がこっちを見ている。

 あたしはその子を手招きする。


「頷いてくれたらいいわ! 指輪はライにもらったのね!」

「……!」


 やっぱり。

 そして口をぱくぱくとさせている。何か伝えたいようだけど、口パクだけだとさっぱりわからない。

 ……もっと意思疎通ができればいいんだけれど、難しいわね。


 何か喋ろうにも、まるで軍と軍がぶつかる戦場の中央にいるように前後左右からドッカンドッカン爆発音が鳴ってて、大声じゃないとアンダリヤに声が届かない。

 これが一対一の戦いだってんだから、もうほんと笑うしかねーわ……。


「さて、治せるとはいったものの、わざわざエファちゃんのためだけに村まで戻って、再びここに来てライを探すってのもね。でもそれ以外方法はないか……場所だけ教えてもらうことはできる?」

「……」

「否定、か。ってことは多少説明が必要な場所にいるのね」


 頷く。

 ……声を出せるようにすることが最優先。それじゃ、一旦退却して————。


「あ……あ……」


 ————と思ったら、リンデちゃんが何やら目を見開いて震えている。

 いやいやリンデちゃん、ビビリすぎでしょ。

 一体どうしたって……。


「……」


 ……後ろに、魔人族の女がいた。

 ただし、すげー大きい。さすがにビルギットさんほどじゃないけど、あたしから頭二つぐらい高い。マックスぐらいあるんじゃない?

 大きいといっても、スレンダーでクールな感じの美人だ。


 ……そして、リンデちゃんがびびる女っての、この状況だともう一人しか連想できない。

 この人がきっと、魔法の先生のマグダレーナさんだ。


 ちょっと怖いけど、本当にいいタイミングだわ!

 これで今すぐこの子を治せるはず、そうすれば……!


 ……ライの居場所まで、もうすぐだ!

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