みんなでハンバーグを食べます
紆余曲折あったけど、討伐任務を終えてオーガキングの部位をギルドに納品すると、体の部分をこちらで処理したと連絡して無事四人の功績となった。
せっかくなので皆も食べてもらおうと、四人で孤児院に帰ってきた。
子供達の楽しげな歓待を受けながら、アウローラはみんなの頭を撫でて部屋に戻る。
こうやって見ると優しい美人のシスターさんって感じなのに、力も技も一流だったなあ。
「ライ君、もしかしてアウローラの実力のこと、驚いた?」
「驚いたよ。ほんと、素直にすごいね。あれほど見事に全ての攻撃を受けてしまえるとは思わなかった」
「そりゃあ、こういう孤児院やってるからね」
……ん? こういう孤児院をやっているから、強い?
「やっぱさ、ガラの悪い連中とか、下心満載の奴とかた〜っくさんいるわけよ。やんなっちゃうわよね。でもそういう時こそアウローラの出番」
「もしかして、ゴロツキみたいなのを追い払うのって」
「全部アウローラがやってるわ。時々ならダニオも私も手伝うけど、正直あの子一人でどうにかなっちゃうってぐらい強いし、強いことが広く知られているし、何より孤児院襲ったら体裁がもう完全に終わっちゃうからね。アウローラの存在があの子たちを守ってるのよ」
な、なるほど……思った以上にアウローラって逞しいんだな。
……僕を受け入れてくれた時も、単純に僕のことを『この人ぐらいなら一人で抑え込める』って思ったとか……?
うーむ、人は見た目によらない。誠実に生きよう。
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台所で、オーガキングの肉を解体したものを持ってきた。
いくつかはその場で解体して、他のみんなと手分けして持ってもらった。
僕が『非常においしい肉なんですよ、母直伝の料理の必須材料なので子供達も喜ぶと思います』と言ったためか、ここでもアウローラが物凄い怪力を発揮して、ダニオ以上に持っていた。
すごい。僕との会話ではまずないと思うけど、絶対怒らせないようにしよう……。
さて、まずは肉をミンチにする。多少筋がある場所でも、挽肉にするとおいしいんだよね。豚の腕の辺りとかは、ミンチ専用肉だ。塊で食べようと思うと……かなり苦労するらしい。
根気よく、細かく………。………。
………………よし、いい感じだ。
玉ねぎを細かくみじん切りにして、そして……シレア帝国のチーズを入れよう。あまり個性の強いものではなく、標準的な……この三角に切り分けられた黄色いチーズを使おう。
あのゴルゴンゾーラを使って作るのもおいしいかもなあ、今度挑戦してみよう。一通り組み合わせてみたい。
肉と、塩胡椒と、更にここシレア帝国の柔らかいパセリを細かくしたものを一緒にしっかり混ぜ合わせる。このパセリいいな、付け合わせにそのまま乗せてもいいぐらいだ。家で栽培できないかな?
しっかり緑が混ざっていい色になったところで……焼く!
置いてみると、これ結構大きかったかな? ま、みんな食べ盛りだからきっと大丈夫だろう。オフェーリアは勿論、アウローラもたくさん食べてたし。
強火で一気に焼いた後は、表面のいい色を確認して弱火でじっくり、蓋を閉めて出来上がりを待つ。
………………時間を見て、蓋を開けて……自分の分を皿に乗せて切り開く。
ちゃんと火が通っていて……チーズが溶け出してきた。完成だ。
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焼き上がって盛りつけていると、横から子供達が集まってきていたのに気付いた。
アウローラもすっかりいつもの服に着替えて、子供達の後ろから同じように興味津々といった様子で覗き込んできていた。
「これは、一体どのような料理なのかしら……!」
「僕の国の料理で、ハンバーグだよ。チーズ入りハンバーグ。シレアンパセリを細かくしたものを混ぜて、綺麗に整形して出来上がりのシンプルな料理だ。母直伝……と言いたいところなのだけど、結局レシピは手探りでね。全然分からなかったんだ」
「分からなかったのですか? 見たところ、そんなに特徴はなさそうですけど……」
「ええ、この肉に思い当たらなくてね」
その肉を見て、アウローラはすぐに思い当たった。
「オーガキング? もしかしてこれが……」
「そう。母はオーガをミンチにしていた。人型の魔物を食べるのは禁忌なんて言ってたけど、食べて見るとおいしいもんだったよ。その肉食べて姉貴は勇者になったんだから、禁忌とかなんだそりゃって感じだね」
僕は喋りながらも盛りつけ終わると、子供達に皿を渡して並べてもらう。ダニオとオフェーリアも休憩から戻ってきたようだ。
「おなかすいたね、それじゃいただきます」
僕は、未知の料理見て皆が僕に注目している中、様子見に切り分けたハンバーグを更に小さく切って、溶け出したチーズを上に乗せて食べる。
……うわっ! このチーズおいしいな……! 見た目は淡泊な感じかなと思ったけど、かなり濃厚だった。
レノヴァ公国のチーズも凄かったけど、シレア帝国のチーズもなかなかいい。
僕が自分の料理に満足している中、周りのみんなも食べ始めていた。
まずは真っ先に声を上げるのが、やっぱりこの子たち。
「すげーっ! ライ兄ちゃん、これめちゃくちゃおいしい!」
「……(こくこく)」
「おいしいですわ! ライ兄様はもういつでもお嫁に行けますわね!」
お嫁に行くのは違うと思うよ、と突っ込もうとして、もうほとんどそんなもんだったことを思い出した。
料理作って、剣士を送り出して、指輪交換してたんだもんな。お嫁さんだった、自分。
「これが、オーガキング……? こんなにおいしい肉だったのね、驚いちゃった」
「僕自身驚いたよ、最近まで知らなかったんだ。これを再現できなくて勇者の姉貴はそりゃもう不機嫌でね……」
「大変だったんだね……」
アウローラに頷きながら、僕はダニオに視線を向ける。
「ダニオは……あの時ルーベン様から僕を守ってくれたよな。ありがとう」
「よせやい、この料理で釣りがくるっての! それに、あれは……そう、あの時思ったんだけどよ」
ダニオはいつになく真剣な表情をして言った。
「やっぱ、俺が助けるって言ったから、あのすげえ矢を撃ったんだろ」
「魔矢だね。そう、僕はあの時助けた方がいいと判断したから助けた。ダニオがその部分をあまり気にしてくれなくても良いよ」
「気にするってーの、明らかに知られたく無さそうにしてたじゃねーか。ちょっとメルクリオに楯突くような形になっちまったけど、あれを後悔はしてねーよ。ばらしてくれた分を返した形だ」
「ダニオってこういう時、びしっと決まるよな。オフェーリアもそう思うだろ?」
せっかくなので、ここでオフェーリアに振ってみた。
オフェーリアはその色気ある視線をダニオに向けて「そうね、いつもああだと格好良いわよ」と言った。それは声かけても結構冷たくあしらわれるダニオにとって、やはり嬉しいものだったらしい。
「お、おう……素直に褒められるといざとなると照れるなおい……」
「それぐらいの方があんたはいいと思うわよ、あんまりがっついちゃうと女は離れちゃうの。男も女も、追いかけさせてこそよね」
「縁が遠そうな話だぜ」
「今日のあんたはそうでもなかったと思うわよ。ギルドのことも黙ってたなんて、ダニオのくせに生意気」
口ではそんなことを言いつつも、オフェーリアは楽しそうだ。
ダニオも意識してる相手のその意味が分からないわけではないから、満更でも無さそう。
アウローラは嬉しさ半分、からかい半分といった表情。
……うん、いい空間だ。
こういう空間にいられるということは、やっぱり僕自身嬉しいね。
僕は手元のハンバーグを見ながら、またみんなを繋いでくれた母さんの料理に感謝した。
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翌日、ギルドに出向いた僕を待ち受けていたのは……。
「あなたがライムント様ですね? 我が主、メルクリオ侯爵がお会いになりたいと」
ちょっと予想していたけれど、やっぱり面倒事っぽそうだ。
ま、自分の選択は後悔していない。覚悟して行こう。




