明日の予定を決めます
二人との食事を終えて、二人は何をしていたか聞いた。
ギルドマスターと話している間、当然二人はギルドに貼られていた依頼を一通り見ていた。
何かめぼしいものはないかと聞いてみたところ、何件か紹介されたもののうちの一つに、少し興味を惹かれるものがあった。
「ダンジョンか……」
ビスマルク王国にはなかったけど、洞窟の中への探索任務が常設であるとのこと。
文献で知っているだけだったので、少し興味はある。
何の文献に載っていたんだったか……でも確かに、ダンジョンの本は多かったように思う。
常にその威力を削いでおかなければならない危険なもの。
この世界の魔物発祥の地と呼ばれているもの。
そして……。
「……一攫千金をもたらすもの」
「おっ、分かってるじゃないかライ」
ダニオは乗り気で、オフェーリアもこちらを見て頷いている。
試しに、受けるだけ受けてみようか。
「その任務にしてみたいと思う、紹介ありがとう」
「……? ちょっと、ライ君?」
「ん、どうしたんだ?」
紹介したばかりというのに、引き受ける気満々の僕をオフェーリアが慌てて引き留める。
何かおかしかったのだろうか?
「まさか一人で行くつもりじゃないでしょうね!?」
「そうだぞ、お前さん弓と魔法だろう、前衛なしでダンジョンの壁だらけの中を進むつもりじゃないだろうな」
ああ、そうか……草原で戦うのとはわけが違うんだ。
そもそも僕は、そんなに単独で戦える方じゃないしなあ。
ダンジョンで後衛職が一人で潜るというのはかなり危険で、二人にとって経験則上有り得ないということなのだろう。
「確かにそうだ、すっかり失念していたよ。しかしそうなると前衛がいないと潜りづらいけど……」
「おいおい、前衛なら目の前にいるだろ?」
ダニオが足を組んで、椅子にもたれかかりながらこちらを見る。
堂々とした表情で首を揺らし、自身を指す。
「……いいのか? ダニオもダニオでやりたい任務でもあると思うけど」
「むしろそのダンジョン任務が、俺の受けたい任務だ。だけど後衛はもちろん前衛一人でも簡単にできるような任務じゃない。特にここらじゃ後衛なんてオフェーリアとあと数人、それに教会のアウローラぐらいじゃないのか? そうそう組める相手がいないんだよ」
ダニオの話を聞きながら、オフェーリアが隣で頷いている。
「そういうことよ。だからもしライ君さえよければ、三人で行けたらいいわねって話してたところよ」
「そうなのか、それは願ってもない。よろしく頼むよ」
「よっしゃ決まりだな! そうと決まれば記念に飲むぜ!」
そんなダニオに「相変わらずねえ」なんて笑っていたオフェーリアも、ダニオの頭を笑って叩きつつも追加でチーズを注文していた。
最初の印象とは違って、二人は軽く手が出るほどに仲がいい、って感じだなー。
-
「ダンジョンへ潜る……の?」
「うおーっライ兄ちゃんダンジョン潜るんだ、すげー!」
アウローラと、明日の予定を話した。カルロは元気がいいから、そのうち潜るタイプになりそうだ。
あれから今日の午後を使って、明日のダンジョン探索に備えての準備をした。
ちなみに準備の残りの時間に買っていたものが今食べている夕食。
でもオフェーリアが随分買ってくれたから、その残りで大分食材がある。ありがたい。
「ダンジョンは確かに稼げるけど、危険も多いのよ?」
「ええ。でも二人が組んでくれるということなので、安心して進めそうで」
「ダニオとオフェーリアね。確かに二人とも悪くない腕をしているけど……」
まだアウローラの顔は晴れないようだ。
子供達三人は、僕たちの話を興味深そうに聞いている。
「どうしたんだ? 相談なく決めてしまったけど、何かアウローラに都合が悪かったかな……」
「あっ、いえ! その、任務自体に私が口を挟むなんてこと、本来ライは聞かなくても勝手にやってくれてもちろんいいのだけれど……」
「そう?」
拒否しているわけではないようだけど、どこか煮え切らない様子だ。
「あ、私もう戻らなくちゃ、ごちそうさま。今日もおいしかったです」
「はい、お粗末さま」
僕が何か聞き出す前に、アウローラは部屋へと戻っていってしまった。その背中を見送っていると、隣から呆れ顔のロザリンダがこちらの顔を覗き込んだ。
「まったく、ライお兄様も女心が分かりませんこと。明日は覚悟することですわね」
「ロザリンダ? それってどういう……」
「……頭の良い方に限って、皆無自覚なのはそういう法則でもあるのかしら……?」
ロザリンダに何か聞こうとしたけど、僕の質問を無視してロザリンダも部屋に戻ってしまった。
「カルロは分かる?」
「アウローラ姉ちゃんって怒ると怖いんだぜ!」
なんだか質問する相手を間違えたかもしれない。
リコは……。
「ちゃんとお留守番、してるから……」
なんだかわからないけど……明日に備えて寝よう。
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結論から言うと、ロザリンダの言った意味はすぐに分かった。
そしてカルロも、あながち間違ったことを言ってなかった。
なんとリコに至ってはほぼ答えだったのだ。
「それじゃ、ライ。行こっか」
そこには、ガッチリ着込んだアウローラの姿があった。
手にはメイス、腕にはバックラー。
アウローラは神官戦士。紛うことなき前衛職だった。




