爆砕と蛮雷、そして三の解⑤~60秒、私は【生きている】・前~
ひと月サボってごめんなさい
ヴィオラートとかウマ娘とか始めちゃいまして……
にんじんを錬金術する傍ら、にんじんを福引で祈る……なんてこったにんじんかぶりだ。
秘策はある。
そのために必要な情報も、スキルもある。
たとえプロでもいち個人、これだけそろえばおそるるに足りない!
……んだけど。
「そんな心配しなくていいってば!」
「だって……」
どうにもおぼろちゃんはうつむき加減。
うーん、これまでの行いがばっちり尾を引いちゃってる。
いくら言ったところでさんざんしでかしてきたのは変わらないもの、そりゃ信用ならないか。
やっぱり大成功をおさめて見返してやる以外になさそうだ。
うんうん、やる気出てきた!
「……もういいんだな?」
「うん!」
顔だけこっちに向けたロックと対峙する。
返事に口の端っこを吊り上げた彼は、私たちから少し距離をとってから向き直って構えた。
両腕を横に広げ、鎌首をもたげたヘビみたく手首を下に向けてそろえてから片足で立つ。
大きく翼を広げた鳥の姿をまねる──中国拳法でいうところの鶴拳に似たそれは、このゲーム世界において、本当に飛べる空中殺法として伝えられている。
とんだサギもあったもんだ。
間合いなんてあってないようなものじゃん。
「今度こそ覚悟しなさいよプロ様、始めて1週間の初心者が顔に泥塗ったげる」
「大きく出たな……やってみろ、ひと泡吹かせれば本物だよ」
距離の利なんてないから、どうしても分の悪い賭けになる場面だって絶対ある。
……けど、成功するか?って疑問は1ミリも出てこない。
だって考えるだけ無駄なんですもの。
私は前しか向かないし進まないもん。
「【スーサイド】オン!」
だから──こんなところでつまづいてやれない。
「──ええっ!?」
まあそうなるよねえおぼろちゃん。
いつものスキルを言い放つと同時、私はロックに背を向けてそのまま草むらに踏み入った。
「【火翔】!」
対【紅演武】第1陣は空中からの肉薄をどうさばくかがカギを握る。
傾きだした太陽に重なりつつ急降下でぐんぐん大きくなる影は、眼下の獲物に飛び掛かる鳥そのもの。
下手に魔法を撃っても簡単にかわされる。
乱射は乱戦向け、どこでどう使うかはしっかり考えなきゃ。
じゃあ杖なんて掲げてないでさっさと逃げろ?
いやよ、だって私はあわれなネズミちゃんじゃない!
「吹っ飛べサギ野郎!」
というわけで腹から声出して爆風をプレゼントだ!
【エナジーキャノン】を地面にぶつけて爆発させ、そのままロックと私を強引に突き放す!
「ぐえーー!」
間近で衝撃波を受けた私は華麗な着地なんてできるわけもなく、野球みたいに草むらへ顔面スライディング!
よっしゃ度胸100点!
「くうっ……我慢、がまん……」
華麗さは0点……。
いいのよ、いいの。
爆風で距離を取ろうなんてマネしたらふつうはこうなる。
距離を保つために逃げてもすぐ追いつかれちゃうし、やけどになんないだけマシってもの。
「【火翔】!」
「げっ!?」
くっそうナメてた!
やっぱりふつうじゃなかった!
うわーん、吹き飛ばしたのに体勢立て直して即追撃とか華麗すぎでは!?
軽業師かなんかかこのプロはー!
*
これはいったいどういうことだ。
泥を塗ると豪語していた彼女がはじまったとたん逃げ出した。
ほんの少しだけ考えるそぶりをしたロックも草むらへと飛び込み、正真正銘の追いかけっこが幕を開けた。
そして今は時折、つんざくような雷音が巨大ススキ畑からわずかに届くばかり。
取り残されたおぼろは、ひとり困惑しきりで立ち尽くしていた。
「そりゃあ、距離を取り続ければいいってさっき言いましたけど……」
その提案は彼女に否定されたものだ。
1度強く言ったことをその場その場で撤回するほど彼女は卑怯じゃない。
【スタミナ】のみで正面から戦えると言い放ったのだから、それなりの作戦があるはず……と、ここまで考えたところでふと気づく。
「音がどんどん遠ざかってる……?」
逃げながら戦っているのだから自分のいる場所から離れていくのは当然のことだが。
その音が全く同じ方向……リーズが逃げた方のみとなると、逃げてるにしても意味が変わってくる。
「まさか……!」
リーズが今やっているのは“逃走”であって“逃げまどう”じゃない。
その答えに至ると同時、おぼろは走りだした。
*
「でえぇぇぇぇい!!」
対峙してから逃げるのはもはや慣れっこだ。
前しか向かないと決めてたものの、ファラから逃げドラゴンから逃げオバケから逃げ……情けないけどまあ力はついてる。
「やっぱりか──! 【火翔】!」
ススキ畑からいっきに飛び出したところで後ろから熱風。
飛んで回り込りこむ気か……流石に場数が違う。
馬鹿正直にまっすぐ走ってるんだから、行き先なんか丸わかりってもんだ。
「ジャマなんてさせないんだから! 【トペ・スイシーダ】オン!」
押しとどめようとするからこそ、無理に押し通る価値がある!
「くっ──!?」
「おじゃましまーーーす!!」
私は立派なご令嬢、どんな時も礼を欠いてはいけない。
マナーにうるさかった家庭教師の言いつけをきっちり守って川へ飛び込めば、待ってましたとばかりにばっしゃんばっしゃん水しぶき。
ダイナミックお邪魔した私へのお出迎えだ。
「こんな時間にごめんなさいねえーー!!」
もしかしたらお夕飯どきだったかもしれないし、一応お詫びは入れておく。
けど彼らは気にしてないようで、大きく振り上げた両ハサミをカチカチ鳴らして歓待の構え。
うむ、くるしゅーない!
「【ブリッツ】!! ブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツブリッツ!!」
くるしゅーないから食材になってね☆
来月からは週一になることを祈って。




