爆砕と蛮雷、そして三の解③~30秒でわかる特異点~
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後の展開に不備が生じたため、後半部分の展開を大幅に変更しました。
ご了承ください。
「あの、さっき見た時よりリーズさんの状態が悪化してるような……? 何やったんですか?」
「千本ノック」
「せんぼっ……え、え? でも単純作業だけならこんなに疲弊しませんよね……?」
「ああ、だから戦闘のコツも教えた。これが案外飲み込みが早いからちょーっと楽しくなってきてな……」
「いくら何でも無謀では!?」
いったん休憩しに戻ってきたおぼろちゃんとロックのやりとりがこれだ。
うん、やることが多すぎる!
ひとしきり戦闘が終わった後、ロックはありがたいことに意識しておきたい立ち回り方とかを教えてくれるのだけれど、ちょっと考えてみてほしい。
相手に合わせて体を動かしながら?
状況を頭で判断して?
勝ち筋と負け筋を瞬間瞬間で的確に割り出せ?
ついでに対人戦のレクチャーしてやるから全部覚えろ?
そんでもってふいうちだの砂かけだの、まともな人間からは明らかに出てこないであろうダーティ戦法も考慮しろ?
「ぷしゅううううううう……」
……脳が焼けるに決まってんでしょそんなん!
「ううううううう……!!」
「リーズさんしっかりしてください……! そうだ【フルフト】食べますか? こういう時には甘いもの、仮想世界とは言え味覚はあるはずなので気休めにはなるはずです」
ふええおぼろちゃんが優しいよお……。
頭痛で頭抱えてたワケじゃないんだけどそれでもうれしいよお……。
まってまって刀で柿の皮むこうとしないで危ないから。
私頑張ってそのまま食べるから……。
「ううう、おいしい……」
「よかった、まだ言葉まではゆであがってないですね……!」
イゴイゴしてて味しないけどおいしい、おいしいって言い聞かせるんだ。
かわいい女の子は万象に効く……!
そんな私の様子を見て胸をなでおろしたおぼろちゃんはロックの方に向き直った。
「鍛えて欲しいとは言いましたけど、なんだってそんなことしたんですか? 心得があるならともかく初めて1週間の初心者ですよ?」
「……言わなきゃダメか?」
「ダメです、言ってくれなきゃ納得できません」
大きな目がロックを見据える。
こうなったおぼろちゃんはてこでも曲がらない。
……頼もしいけど、なんだか危ういんだよなあ。
刀なんてなくても、視線の鋭さは刃のよう。
絶対に逸れないその目を見て観念したか、1つため息しながらロックは口を開いた。
「βの頃にもいたよ、お前たちみたいな特異点が」
……私たちはそろって顔を見合わせた。
肩をすくめてからロックが切り出したのは以前マリーも言ってたへんてこワード。
アレ、マリーの造語じゃなかったのね……。
「べつにそんな珍しいハナシじゃない。こんなにMMOが普及すれば『始めたての素人が知らず知らず環境を大いに荒らす』っていう現象もあるにはある話だしな」
前提と過程は重要じゃない。
はたから見て不可解なビギナーズラックでも、何度も起きたら最強という結果は現実になる。
私が偶然から【スーサイド】を手に入れて破竹の勢いだったように。
【辻斬り】を続けたおぼろちゃんがロックから教えを受けたように。
シオンが走り回った結果【暴走機関車】に目覚めて街を半壊させたように。
「でも、そういう奴はえてして悪目立ちするもんだ。身に覚えあるだろ?」
もしシオンがここに居たらどう反応したんだろう。
おぼろちゃんみたくうつむくか……なんにせよいい意味の物じゃないか。
「もしかしてその人は今……」
「初心者狩りに遭いまくってβテスト終了とともに行方不明だよ……ウワサの1つも聞かないあたり、辞めたのは本当なのかもな」
私たちはよく言えば金のタマゴを生む鳥……悪く言っちゃえば目の敵。
このゲームは始まったばかり、シオンが起こした騒動のせいもあってβ時代とどこまで違うかの検証がようやっと終わる段階だ。
新しいマップの開拓もおぼつかない未開の地状態……そんな何もかも手探りな中、1人飛び出してぐいぐい突き進むような命知らずがいたら、そりゃあ目立つ。
「こいつにつけていけば自分も何かおこぼれにあずかれるんじゃね?」ってハイエナめいた連中が出るのは自然だし、実際に出た。
けどな……!
「さっきから聞いてりゃ……! ただのフヌケのやっかみじゃない!」
「割り切れないんですよ……『同じじゃない』って、人によってはすごくコンプレックスになっちゃうから」
「だけどさ!」
おぼろちゃんも私も、何だったらシオンもリアルがリアルだし周りと一味違うってコトには一家言あるけど、私にそういうやつらの気分はわからない!
なんもないからって、周りから奪い取ろうなんて少しも思わないもの!
腐っても私はご令嬢、たとえ空腹でも卑しくはなれない!
「リーズの言うことはごもっともなんだがな、実際のところそういう風潮はある」
うんざりだとばかりに息をついてから、ロックは続ける。
「お前の目的は普通にゲームを楽しむことじゃないんだろ「うっ……」――どうであれ邪魔する奴は必ず出る」
まっず、思わず声出しちゃった。
……でもなんでわかった?
モチロン私の身の上は話してない、何なら山歩きしてた時さえろくすっぽ話してないのに。
「お前の目的がなんなのか知らんが超えなきゃなんねえ壁なのは確かだ、なら乗り越えるのを手伝ってやろうと思っただけさ」
ロックは私たちに背を向ける。
そして小さく、本当に小さく……ホントは知ったこっちゃないって言うべきなんだろうけどな、と誰に言うでもなく口にしながら、
「少し休憩を挟もう、さすがに急ぎすぎたしな……いろいろ整理つけたらまた来い、手加減ナシで相手してやる」
そういって少し離れたところに座り込んでしまった。
そんで深く息を吸って、吐いて……ってこれもしや座禅組んでる?
うわあ、この小石だらけの場所で座禅って勇気あるなあ……。
取り残されるハメになったおぼろちゃんはというと、しきりに私たちを見比べておろおろしてる。
この状況で自分のレベリングをしてもいいか否かって考えてるんでしょうね、きっと。
「うーむ……」
私もおんなじだ。
これまであったことを考察して作戦を立てようにも、さんざんぶつかって手詰まりな感あるし、ノーヒントで考えるのはもう限界……多分またぷしゅうってなる。
だったら、だ。
「おぼろちゃん、手伝って!」
このチャンスを、ロックと1番長くいたおぼろちゃんの情報を逃すわけにはいかない。
何でも使っていいって、始める前に言ったんだから文句はダメよ、ロック!




