この世界を楽しむ、ただそれだけのために
5日も出せずに申し訳ありません!
「まじで何にも知らないのか……」
「なによわるかったわね……そんなに有名なプレイヤーなの?」
外に出てからクマ鬼へコールしたエリンちゃんの結果を待つ間、私たちは各々準備や談笑をして時間をつぶすことに。
そこで手の空いた私は早速アルに声をかけて、ロックというプレイヤーの話を聞いてみることにした。
……なにも知らないで割って入って振り回されるのは、ちょっと前散々味わったしね。
「……ファラの所属してる動画会社の『ナイアール』っていう実況チームからプロに転向した変わり種だよ、実質あいつの先輩だ」
「プロ、って……もしかしてプロゲーマーってコト?」
「ああ。一時期雑誌で話題にもなった。『確かにすごい強いけど、実況者風情がプロになって平気か?』って。んで――」
「その下馬評を跳ね返しちゃったの?」
私の言葉に、何も言わずアルは静かにうなずいた。
実家で習っていた拳法由来の感覚と、もともとの才覚として備わってたゲームセンスでファラとは別の舞台で大活躍している、新進気鋭のプロVRプレイヤーなのだという。
「だから俺としては不思議でならないんだよ、本来の領分はMMOとかじゃなくて対戦形式のアクションゲームだし……何よりこんな太っ腹なサービスするような人種じゃない」
そんな超有名な存在なら多少勝手が違ってもゲームのイロハは知っているに決まってるし、こんな大っぴらに情報を出すってなったらそりゃあ怪しく思える。
「ところでロック、今日はどんなところに行くんだ?」
「こ、こらシオン! そんななれなれしく……」
「いいよいいよおぼろ、ヘンに堅苦しくいられるよりよっぽどいい。それで今日行くエリアってのは……」
視線の先のロックは行き先についてシオンとおぼろちゃんに説明してる。
おぼろちゃんもあんなに強くなるわけだわ。もともと天才剣道少女だったところに、プロに手ほどきしてもらってたんだもの。
「うーん……なんでこんなにロックは私たちに優しいのかしら」
「俺もそこは分からん、強者の余裕ってやつなんだろうか」
偉そうなやつ、人のモノを奪ってでも勝ちたいやつ、人の話を聞かないやつ。
これまでいろんな連中に会ってきてからのこれだ。
仮にもβ時代にほかのプレイヤーを寄せ付けなかったプロがイベント目前の今、自分にとってまるで旨みのないお誘いをしたり、誰かれなく優しかったり。意図が全くつかめない……。
さっきだって――
『ここでレベリングに臨むことになった臨時パーティの、イカれたメンバーを紹介するぜ!』
その1、【爆砕】ロック!
その2、おぼろちゃん!
その3、シオン!
その4、エリンちゃん!
その5、アル!
その6、私!
『以上だッ!!』
……もしロックの提案をアルが受け入れていたらこうなる。
やっぱり多いわよねえ……ダンジョンの攻略ならともかく、レベリングにフルメンバーで臨む必要性は果たしてあるのかしら?
確かパーティを組んでる時の経験値取得は頭数に合わせて分配された後にボーナスがそれぞれつけられる、とかだったはず。
いくらウマい相手だとしても、フルで挑めば割ることの6つ。経験値効率はそれだけ落ちる。
βテストからこのゲームをプレイしているロックがこれを見落としているとは思えない。
だとすると、彼には他に狙いがあるのかしら?
「うーん、ダメだ全然わかんない……」
考えても考えてもわからない。
というか裏があるかどうか考えようったって、権謀術数は大の苦手分野だ。
それに私の新しい戦い方、クマ鬼の渡したいものとやら、その先にあるイベント……私を悩ませるタネはたくさんあるし、この上で彼のことを疑ってたらキリがない。
「……考えても仕方ない、か」
「あ、おい!?」
エリアの情報は2人に任せて新しいアイテムを作りたかったけど、気になることを先延ばしにはできない。
「ロック、ちょっと聞きたいことがあるのだけどいいかしら?」
欲しいものは全部すぐにもらう! 後でじっくり考察とかやっぱり私の性に合わない!
だって私は前しか向かないもの!
「イベント前でライバルになるかもしれない私たちに、ここまでする理由ってなに? 正直今、あんたものすごい損してるわよ?」
「あのな……バカ正直に聞いたところで答えてくれるわけないだろ」
バカは百も承知よ。
でもさ、これから共同でやろうって相手に探り合いをしてる場合じゃないっての。
さっさと腹を割って話して、吐いてもらったことを信じた方がいいじゃない。
ヘソを曲げられたとしたらその時はその時。手段を新しく考えるわ。
対するロックは何を理解したか「ああ、そういうことか」と軽く口端を釣り上げた。
「別に損得とかは考えちゃいないよ、俺は別にこのゲームで一番を狙ってるわけじゃない」
「へ?」
「どういうこと? 一番になりたいんじゃないの?」
「……とりあえずお前たちが勘違いしてるってことは分かったよ」
そこから出てきた答えに首を傾げる私たちを諭すようにロックは軽くため息をついて続ける。
「……俺は別にこのゲームでまでトップを狙いに行く気はないんだよ。ゲームってのは本来、現実逃避とか息抜きで楽しむためにあるもんなんだから……たまには競技になってないゲームを好きにやったっていいだろう? プライベートなんだし」
その口から飛び出したのは当たり前の感情。
そりゃそうだ、としか返せないくらいに普通の返事。
……そう、つまりはアレだ。ガッチガチのガチ勢ロックはこの世界にハナからおらず、今いるのは。
「ただのエンジョイ勢ってコトか……?」
「そういうこと。 俺は文字通りここで遊ぶために来たってわけだ……こんな返事で満足できたか?」
私たちは顔を見合わせた。
つまりこれは私たちが勝手に勘違いをしただけであって。
勝手な憶測で1人相撲を取っていただけであって。
「ふぃい、クレインさんをようやく説得できたで……す?」
エリンちゃんが帰ってきたと同時、私たちは二人してへなへなと崩れ落ちたのであった。
やっぱ考えすぎって、よくないわ。




