おはようじょ
前略パパとママへ。
お元気ですか?
私、荒垣莉世は今、新しく仲間になったシオンと一緒に……工房手前にある、茂みの中に隠れてこそこそしてます。
「なあ、いつまでこうしてるんだよ……」
「わかるわけないでしょ……とにかくこのままじっとしてなさい」
「えーマジかよー? 何分? 何秒?? 地球が何回回った時???」
「しつこい……ん? お、おお動くか動くか……? よーしいけー、ちょうちょー!」
「……静かにしてようって話じゃなかったのかよ!」
木陰からほとんど熱狂的な視線を注ぐ先。
そこにはピンク色の髪を細工のある古風なくしでまとめた、とろんとした目の小さな女の子。
動きに合わせて揺らめくはスリットのついた、赤紫色の萌え袖付きチャイナ服。
え? 仮にも全年齢用のゲームでスリット付きのチャイナはマズいだろって?
だいじょーぶ、運営さんも配慮したのかちゃんと下もはくタイプになってるので安心安全……なんか覚えのある奴と比べて丈が短いし、オフショルダーだけど。
「待つです、待つです【モンキーアゲハ】……おまえは貴重なものなのです……」
まあともかく、そんな子が工房の前で宙にいるちょうちょを捕まえんとぴょんぴょこ跳ねている様を、私は瞬きもせずに見ていた。
いやいや幼女をストーカーとかそういうことじゃないのよ、本当よ本当信じて!
とりあえず、何でこうなったかお話させて!?
……適当に喋ったりシオンを半ば押しかけ状態で仲間にしつつも工房の前にたどり付いたとき、きょろきょろとせわしなくあたりを見回すこの子が目に入ったの。
それだけならまだ道に迷ってるんだろうなーくらいにしか思ってなかったし、どこ行きたいのか聞いて案内してもよかったんだけど、
「困ったです、着いたはいいですが肝心のテロリストさんがいません……これでは連行できません……」
「なんだああいつ? 工房の前でなにを――ぐえっ!?」
そんな物騒な言葉をつぶやいたもんだから、私はシオンを引っ張り込んで即座に草むらへ隠れた。
「何すんだよ!」
「いいからジッとする」
ブレーメンは地下水道の崩落のせいで別の街に逃げたってことになってるけど、まだ情報はそれほどいきわたってない。
NPCへのパイプがないならなおさら。
漏れた中途半端な情報から街を破壊した謎のテロリスト・ブレーメンをいまだに探そうとしているのだろう。
「だったらこんなトコでずっと立ってるはずなくねえか? ……どっちかってーと用のあるテロリストさんはお前じゃねえのか?」
「あー、なるほどー……って私がテロリストなわけないでしょー!」
私はこの後、依頼分のレンガを調合して届けないといけないのよ。
むしろ、いの1番に立て直しに貢献しようとしている人間を捕まえてテロリストとかどういう了見だ!
「今……何か声がしたです?」
……しーーーーっ!
あっぶなあああああい! 今スニーキングの真っ最中だったあああああ!
「いや騒いだのお前だろ! 指を立てて1人で何やってんだよ」
「とにかくっ! あの子が離れるまでここから1歩も動かないことっ、いいわね?」
「ええ、おれとしてはこんなとこでジっとしねえでさっさと明らかにしてーんだけど……」
「四の五の言うなっ!」
「むう……こうなったら意地です。 テロリストさんが来るまでがんとしてここを動いてやらないです……大丈夫、私の意思はかたいです」
……と、いうわけで。
私たちと工房前に居座った女の子との我慢比べが始まったのでした……。
「ふぉ、やったです……採取ポイントなしで【モンキーアゲハ】を捕まえたです……今日の私はラッキーです……!」
「おーつかまえたー!」
変わらずゆったりしゃべりながらも目を輝かせている女の子を見ながら私はわがことのように喜んでいた。
もっと工房から離れてくれればよかったのに……とは思わなくもないけど、ああやって大いに喜んでいる女の子を見ていると心がほっこりとするし、何でもできる気がするものなのよ。
味のしないお料理だって、その先に流子ちゃんが喜んでくれる……! ってなったらほら、案外悪くないもんじゃない?
「……なんだかなあ、そんなやきもきするくらいならとっとと出てとってやればいいのに」
「わかってないわねシオン。 こういうのは過程が重要なんだから」
特番とかでよくあるでしょう?
子供を買い物に出して、その後ろをカメラで撮ってくヤツ。
こんな小さな子供を1人外に出して悪趣味だ! っていう人が結構いるけど、私はああいうのが案外好きだったりする。
仕組まれていたものだとしても、子供にとっては本気の冒険だもの。
そんな苦労を乗り越えた後にある、他人に喜んでもらえてうれしい! って感情に素直に浸れる経験は本当に貴重なものだ。
だからこそ子供の内からかみしめて、何度でも味わってほしいのだ……いつかどんなことが起きてもいいように。
「私は蝶よ花よと育てられたからああいうの経験したことないのよねえ……」
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素材【魔法の草】獲得!
素材【くず木・白】獲得!
素材【くりぼっくり】獲得!
素材【カナリザード】獲得!
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「なあリーズ……懐かしみながら何やってんだ?」
「うーん? 長期戦になりそうだし、素材の回収……薬の素材が欲しいのよねー」
「おいおい今やってる場合かよ!」
「どっちみちこの後調合にかかりきりだからいいかなって……シオンはしっかり見てなさいよ?」
「はあ!? いい加減ここでジッとすんの飽きたぞおれは! なあ、戻るのが無理ならせめて離れてどっか行こうぜ! このままじゃ退屈で退屈で――」
「だったら、よい提案があるです」
「!?」
いきなりすぐ近くであの子の声がした!?
振り向けば、茂みの出入り口にもう、さっきまでちょうちょを追っていた影が!
「採取ポイントがいきなり消えたと思ったら……れでぃのノゾキ見は、はしたないです」
「ぐふう……!?」
チャイナガールは眠たそうな目をさらに細めてもはやジト目の領域。
流子ちゃんもかくやな正論パンチも飛び出して、的確に私の良心という名の顎を捉えた!
「はあ、だーからいったじゃねえかよ……とっとと話聞いときゃよかったんだよ」
くっそう、ここでくずおれちゃだめよ!
立て、立つんだ! 私の良心……!
この程度の正論パンチ、流子ちゃんに何度も叩き込まれたでしょ!
……ん? 採取ポイントが消えた?
それってつまり採取ポイント、あのキラキラしてるところが見えるってことで――?
「あなたも生産職なの?」
「……はいです、師匠のクレインさんに教わりながら【薬士】をやってるです」
「クレっ――!?」
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エリンシア レベル:13
職業:薬士 属性:水
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遅れて出てきたウィンドウが、彼女……エリンシアちゃんの言葉に足りなかった部分を補足する。
けどそれ以上に気になるワードが出てきて、私もシオンも口をぱくぱくとさせてしまった……!
「クマ鬼の……弟子ぃ!!?」
「確かに情熱的すぎるきらいがあるです、でも基本いい人ですよ?」
いや情熱的で済まされる次元じゃないよ!?
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