厄介者たちの反省会②〜私の秘密と月華の誓い〜
【毛細地下水道】を崩落させた後、騒ぎを聞いた憲兵たちがやってくる前に私の工房に引っ込んでパーティは解散となった。
……さすがにもうくたくただったもの。
依頼してくれたマルジンさんも別の街の取引に行っててゲーム時間で3日経った後、リアル換算で丸1日くらいしなきゃ帰ってこないし、ならば今日はこのあたりでお開きにしよう、ということでログアウトと相成ったのである。
そうして解決した神風の盗賊ブレーメン……シオンによるリヒターゼンの破壊騒動からまる1日が経過したときの事。
あの騒ぎで、様々な動きが活発化したのを掲示板経由で知ることになった。
1つ目。
検証班がめっちゃやる気を出した。
なんでもいろんなダンジョンを爆破して壁が壊れないか調べたり、進めないのに壁に向かって延々体を密着させながら歩いてすり抜けられないか試したり、街の出入り口でしりもちを延々ついたりして急加速ができないか試したりしてたらしい。見なくてよかった。
2つ目。
この奇行の数々を知ってか知らずか運営が緊急メンテナンスを開催した。
時間にして6時間。今回の騒動の調整や、見つかった不具合の修正を行うらしい。
まあこの騒ぎは運営の調整のせいでもあるのでいい薬になっただろう。ざまーみろ。
そして3つ目。
私にとっては多分これがイチバンの問題。
その6時間にすることがなくなった私は、仕方ないから剣道場の竹刀の手入れをしてあげるかーってなったんだけど……
「じぃぃぃぃぃいいい……」
流子ちゃんがめっちゃこっち見てくる。
そりゃもう食い入るように見てくる。
彼女が持ってきた竹刀の手入れをする私の動きを、1動作1フレームに至るまで逃さんとしている。
「あのー流子ちゃん……竹刀の手入れしたかったりとか?」
「いえ、お気になさらず」
いや気になるって。
今の流子ちゃん全力集中してるときの顔だもん。
持ちうる視界を私1人にすべて注いでるもん。
「じぃぃぃぃぃぃいいい……」
息を吸って吐く音が視線を注ぐときの効果音になるレベルで集中してこっち見るとかちょっと狂気の沙汰だもん。
「あーやめやめ、そんな睨まれてるんじゃ手入れもできやしない! 何か聞きたいことあるなら聞いてよ!」
「に、睨んでたわけじゃ! ただ気になってることがありまして……!」
あらぱたぱたと否定してかわいい……って違う違うしっかりしろ!
なんでこんなに怖い視線を向けてくるのか問いただしてやんないと!
「私関連で気になってることっていうなら何でも答えてあげるわよ、このままジーっとみられてるよりましってもんでしょ!」
「では恐縮ですけどリヨさん……貴女は一体何者なんですか?」
「へ?」
その言葉が指すところに頭が行きつく前に、流子ちゃんはぐいっと顔を寄せてきた!
「私、出会う前のリヨさんのことをまったく知らないんです、知らなくていいとも思ってましたけど……でも昨日、何か言いかけてたり取り乱してたりしてる貴女を見てると、なんだか! なんだか、何かを隠しているように思えて……!」
「い、いや……ナニモカクシテナイデスヨ?」
目をそらした瞬間。
ばちーんとはたかれる勢いで両ほほを抑えつけられ、強制的に顔を流子ちゃんの方へ向けさせられる!
「お願いします、私を真っすぐ見て正直に言ってください……あのお花見より前、どこで何をしてたんですか? リヨさんは一体、何者なんですか?」
まずいまずいまずいまずいどうしよう、アルの時より厄介なことになった!
あの時は過激派信者の集いが来たからうやむやになったけど、ここはリアルだし、そんな都合のいいハプニングが起こるアテもない!
かといってこれを波風立てずにゴマかせるかというと無理だ!
相手は生真面目で頭のいい流子ちゃん……嘘をついてもどこかで引っかかれば絶対黙ってない!
正直に話す? 論外!
借金のハナシなんてしたら、この後どれだけ気まずくなることやら!
そもそも剣道場の師範やってる流子ちゃんのパパのおかげでここに住めてるのに、私個人があのヤのつく自営業めいた連中と繋がりがあるなんて知れたら、最悪……!
「リヨさん……!? 痛かったですか……やっぱり何か、聞いちゃいけないことだったん、ですか?」
急に動揺しだした流子ちゃんは手を離す。
どうしたんだろういきなり……と思っていると目の横を雫が少しずつ流れていくのを感じて、ああまた泣いちゃったんだなと気づいた。
「大丈夫よ流子ちゃん……私がダメダメなだけだから」
思いつく限りで最悪の展開。
それは何もかも失ってあの何もない日々に戻ること。
誰もそばにいない、誰もついてきてくれない道を当てもなく歩くだけの、何もかもがない地獄のような日々。
「ご、ごめんなさい……! 私、無理にでも聞かなきゃって思って……なんだかいつか、急にいなくなっちゃうような気がしたから……」
「いいのよ、いいの……私こそ謝らなきゃいけないんだから」
あの日、転げて川に落ちた私を流子ちゃんたちが助けてくれなかったら。
それを心から嫌だと思う今の自分は、この世にさえいなかった。
「流子ちゃん、私はあなたたちにいえないことがあるの」
「言えない、ですか?」
「うん、心の準備ができないんだ……だから教えてあげられない」
我ながら卑怯だなと思う。
でも私は、あなたにこうやってぼかした返事をすることしかできない。
見ず知らずだった私をこんなにも救ってくれたあなたたちだからこそ、私の内面に、過去に……汚れたものに触れてほしくないんだ。
「わかりました……」
流子ちゃんもわかってくれたらしく、ようやっと乗り出してた体をひっこめてくれた。
……と思ったら、私の目の前に手を出して小指を立てる。
「流子ちゃん? これは?」
「ですから約束です。 貴女の隠し事を、その心の準備が出来るまで聞かないでおきます、ですから……どうかその時まで、私のそばからいなくならないでください」
「……ふふっ」
「笑わないでくださいよ! こうでもしないと本当に……本当に消えちゃいそうなんですから、って……子供扱いもしないでください! もー!」
流子ちゃんの頭をなでてからかってやりながら私はうんと小さい時のことを思い出す。
いやあ、指切りなんてお世話になってたお手伝いさんを最後にもうしないものだと思ってたもん。
そーれ。
ゆっびきりげんまん、うっそついたらはりせんぼんのーますっと。
「……これも立派な約束ですからね、破ったら許しませんよ」
「しないしない! 小さい時から約束は100%、死んでも守ったんだから!」
「……これからは定期的に掃除するように、とかもやっといた方がいいですかね?」
……うぐ。
「やめて、それは守れる気がしないわ……ハリセンボンの用意も面倒だろうし止めましょ?」
だいたい、ハリセンボンってどこの魚だったっけ……?
これまでの旅行を思いかえしてみても、どういうところに住んでたか定かじゃないし、軽くダイビングするくらいじゃ捕まえられないと思うんだよねえ……
「大丈夫です! 約束破ったら剣を首に1000回突き立てますので!」
……止めろこわい死ぬ。
*
「……はあ」
リヨさんの家から出た私は、夕暮れの中でため息を1つ付きました。
正義の側であるという自覚は危うさを持っているし、それを貫けるからといって正しいということでは決してないのだと、昨日思い知らされたから。
あの時、クレインさんがまた動き出すまでの間、私は互いのやり取りに言葉をはさめませんでした。
彼自身が被害者としてシオンを責めることは何ら間違っていないのだから。
……自分にとって正しいと信じたものを貫こうとしているだけなのだから。
私たちに憤る彼の姿を見て、なんだか鏡の前に立っている気分になったのです。
自分の見たものを信じ切って何も話を聞こうとしない彼は、まごうことなくPKを重ねていた時の私と同じ。
もしかしたら。
あの時うさぎをいじめていたプレイヤーさんやPKの方々から見た私は、ああいう風に見えていたんじゃないかと思っていたんです。
……私はまた、正しさを貫くということにやっきになって目を曇らせてしまうかもしれません。
たとえそうなったとしても絶対に正しい事、だと信じ続けたいものができたから。
「ああ、強くなりたいな――」
彼女の助けになるということ。
それで貴女が秘密にしていることを素直にしゃべられるくらい安心させてあげられたら。
そうしたら……私は強くなった、といえるのでしょうか。
今日もまたのぼり始める月を見上げながら、私は家路を歩いていきました。
3章は次回で完結です!
ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
好きな作家様が書籍化かっ飛ばしてコミカライズしたおかげか最近モチベの高まりが凄いので
しばらく2〜3日以内の投稿が続きます!
みんな、ついて来れるか!
評価、ブクマいつもありがとうございます!
皆様の思いで作者のMPもリチャージされております!
まだの皆様も、↑の方のブックマークか↓の星を押すだけなのでぜひぜひ。
作者とリーズがより頑張れます。
それでは!!
12月31日追記。
次回で終われませんでした!!!!
ごめんなさい!!!!




