主義主張は戦場において考慮されない
「いたぞ、クレインさんも一緒だ!」
声が聞こえた後ろの方を見れば、全身鎧の騎士、ローブ姿の細い魔導士、両目が髪で隠れてる聖職者、あと……なんだあれ、柄のついた細長い、こん棒みたいな鉄塊……まあとにかく説明の難しい武器を背負ったジャケットの魔法剣士が通路の奥から姿を見せていた。
「ちっこい背丈に赤いネーム……あいつらか」
「クレインさんの言ってた通り本当に子どもじゃないですか……うう、気が引けるなあ……」
「おいおい子供だからって気を抜くなよ」
【風読み】スキルで連中のひそひそ話や各々の得物を構える音が私の耳に届いてくるけど、攻撃する意思だけよくわかっても困る!
五体満足な向こうに対して、こっちはスタミナもHPもおぼつかないし、数の上でも向こうに利がある。このまま戦いになれば今度こそ無事じゃすまされない!
反撃に使えるアイテムもたかが知れてる。
唯一にして切り札になるだろう【シンデレラパウダー】だって効果は有限だ。
HPを回復させる【加護】の効果時間は振りかけた量に依存してるから、3等分して何分何秒になるか見当もつかない。
この場の彼らをそれでやり過ごしたとしてもほかの増援がいたらもうアウトだ。
だったら説明して説得するしか……せっとく?
不意に、錯乱していた時に聞こえたマリーの言葉が脳裏をよぎる。
……私たちを殺してクエストを横取りしようとしてるのに、何をどう説明するんだ?
「ちょ、ちょっと待って、話を聞いてください! 事件は解決してます! 街ももうこれ以上壊れることは……」
「ダメ! おぼろちゃん離れて!」
「えっ――?」
前に出たおぼろちゃんの声と、傭兵が飛び出したのが同時だった。
飛び上がった傭兵は手に持ってるその鉄塊……いや、【処刑刀・アラガネ】なる武器を、スキだらけのおぼろちゃんの頭めがけて振り下ろす!
「ごめん! ――【方天戟】くんカマーン!」
それに対応したのはマリー。 抱えてた私を一言でほっぽり捨て、いつの間にやら取り出した薙刀で払いのけた! ナイス、お尻痛いけど!
「あ、あの……なんで」
「とーぜん、マリーさんはかわいい子の味方だからね、さっきのお詫びに心ゆくまで肉壁として消費したまえ! ……それに」
おぼろちゃんに軽くおどけながら返し、憎々しげにらみつけてる魔法剣士に向き合う。
……抵抗する意思のなかった彼女に向かって武器を振り上げたそいつに、冷めた目を向けながら。
「……てっぺいくんさ」
「てっぺいじゃねえ! 【鉄兵】! 俺は【鉄兵】パーシバルだ!」
「何でもいいよそんなとってつけたようなの……とにかくお友達連れて帰ってもらっていい? そっちはクレインさんに巻き込まれただけだし、私も今小競り合いする気分じゃないしさ」
そんな悟りきったような顔であってもマリーはあとくされのないよう、パーシバルに促す。
きっとおぼろちゃんの言葉を汲んでの物。結果が見えてるからこそ、私たちにはっきりと示そうとしてるんだ。
彼らが何をしに来たのかを。
私たちの事情や都合なんか、向こうは知ったこっちゃないんだってことを。
「は、ヤなこった! 【ブレイドインパルス】!」
「【風雅】!」
果たしてそれは行動で示された。
提案を鼻で笑ったパーシバルは、床を引きずる大振りとともに飛ぶ斬撃を繰り出す。
その一撃もバレバレとばかりにマリーは呼び出した小さな竜巻で防ぎ、肉薄しながら剣をふるってきたパーシバルと武器の打ち合いを始めた――!
「2ヶ月のβテストの時からずっと高みにいたんだ! いい加減トッププレイヤーの一角を譲ってくれてもいいだろうがよ、マリー!」
「なんで……ここで争う意味なんてもうないのに……!」
「……おっさん、おいおっさん! あんたあいつらのリーダーなんだろ、あいつらにやめろって言ってやってくれよ!」
2人の後ろでおぼろちゃんが立ち尽くすさまを見ていたシオンはクマ鬼に詰め寄るけど、「無駄だ」とにべもなく返されてしまう。
「なんでだよ! アイツら連れてきたのおっさんじゃねえか、なら少しは話を聞いてくれるだろ!? なあ頼むよ、おれが悪かったよ! リーズとおぼろは、おれがこれ以上街を壊さないようにわざわざ協力してくれただけなんだよ、だから!」
「無駄よシオン」
クマ鬼は嫌だって断ってない。
無駄だって、説得をしても意味がないって返したんだ。
「リーズ、お前も何言ってんだよ!」
「止めたくても止められないのよ。 でしょ、クレイン?」
「……ああそうだ、俺が止めたくらいであいつらは止まらん。 もともと『謎のクエストの攻略』と『工房を荒らした犯人をとっちめる』ってことで利害が一致したにすぎんからな」
……やっぱりか、おかしいと思った。
いくら頭に血が上って突っ走ったんだとしても、本来生産職のクマ鬼をダンジョン探索で1人きりにするなんてへんだもの。
大方向こうにとってクマ鬼は情報の提供相手くらいにしか思われてないし、クマ鬼自身もそれは承知の上だったんだろう。即席パーティだからこその芸当だ。
「……ってわけよ、そもそもとして目的が違うの。 あいつらは街の惨状に心を痛めたわけでもクマ鬼に共感したわけでもない、敵を退治するクエストをしに来ただけなのよ……1つのゲームのありふれたクエストをね」
……言ってて気分が悪い。
あれだけ強く拒絶したマリーの言葉を今しっかりと理解してしまったんだもの。
奪うか奪われるかのその時、誰も相手の事情なんて考慮しない。
その時その時で主導権を取ろうとしなければ、瞬く間に搾取され続ける弱者の側になってしまうんだ。
ああ、いやだいやだ。
これまでさんざんそんな目に遭っといていまだにわかってなかった。
龍を倒したくらいでいい気になって。ほんとお調子者でいやになる。
「だからねシオン、おぼろちゃん」
腹の底にたまってよどんだ空気を入れ替えるように、一呼吸おいてから2人の名前を呼ぶ。
このクエストで積み上げたものを蹂躙させないために。
この子たちにまで私のようなみじめさを味わわせないために。
「ここを切り抜けて脱出するわよ。手伝って」
もう容赦なんてしてやらない。
全員ブッ飛ばしてやる。
次回、地下水道編最終回です。
乱戦模様の中リーズたちはこれをどう切り抜けるのか、お楽しみください!
いつも応援ありがとうございます!
後もう少しでブクマ1000件というところまで来れてるのも皆様のおかげです。
本当に頭が上がらない。




