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53話 一周回って

「さて、最後は貴殿か。マニュと言ったな。よろしく頼む」

「はい、お、お手柔らかに、よろしくお願いしますっ」


 そして、シファーさんとマニュの戦いが始まる。

 俺とミラッサさんは見学だ。


「マニュちゃんには頑張ってほしいわよね」

「そうですね、一緒に特訓したわけですし。でも……」

「うん。シファーさんに勝つのは……さすがに厳しいでしょうけど」


 マニュが持ってる攻撃方面のスキルって<短剣術>だけだし、しかもレベル3だ。

 さすがにマニュがシファーさんに勝てるようなことはないだろう。


 事実、マニュとシファーさんの手合わせは俺の目にも攻防が見切れるくらいだ。

 ってことは、シファーさんがマニュに合わせて手加減をしているんだろう。

 いや、手加減っていう言い方は違うか。指導と言った方が正しいかもしれない。

 マニュの実力を計るように、マニュが振るった短剣を剣の腹で巧みに防いでいる。

 ほれぼれするくらいの防御技術だ。


 ……あ、ひょっとして<防御の極意>って盾にしか効かないんじゃなくて、剣で防ぐときでも効果出るのか?

 なるほどなぁ。それならミラッサさんが適わなかったのも納得だ。

<剣術LV8>対<剣術LV9>+<防御の極意LV9>じゃ、どっちが勝つかは明白だもんな。


 マニュとシファーさんの手合わせは十分ほど続き、そしてシファーさんの勝利で幕を閉じた。


「マニュは……ふむ、一般冒険者くらいの力量は持ち合わせているな」


 シファーさんがマニュと戦った感想を述べていく。


「それに、動体視力もある。このまま鍛えていけば、将来的にはいいところまで行くだろう。ただ、現時点ではまだ自分の思い描く動きに体が付いてきてない。まだ若くて未成熟だし、仕方のないところもあるだろうが……貴殿たちはこれからすぐにエルラドに行きたいという話だったな? レウスとミラッサの実力なら十分に可能な話だと思うが……厳しいことを言うようで悪いが、マニュの今の実力ではさすがにエルラドでは通用しないのではないか?」

「ふぇ……っ。あ、でも、あの……」

「マニュは解体と運搬のスペシャリストなんです。戦うのは確かに苦手ですけど、それを補って余りあるほどの内の大事な戦力です」


 そうだ、伝え忘れてたや。

 マニュは戦闘役じゃなくて解体と運搬役だからな。

 そういう立場の人間としての実力と考えた時に、充分かどうかを教えてもらいたいところだ。


「なるほど、それは失礼した。私はそちら方面にはとんと疎いのでな。そういうことならば……うん、非戦闘員でそれだけの腕なら十分だろう。自分が狙われても数秒は稼げるはずだ。その間にレウスかミラッサが敵に対応すればいい」


 おお、マニュもお墨付きをもらえたぞ。

 戦闘員としてはさすがに力不足みたいだけど、そこは俺とミラッサさんでカバーすればいいし。

 マニュがいないとうちのパーティーは成り立たないからな、良かった良かった。


 シファーさんはかがんでマニュと目線を合わせる。

 そしてニコリと微笑む。


「それにしても、解体のスペシャリストということは、手先が器用なのだろう? 羨ましいよ」

「羨ましい……ですか?」

「ああ。私は倒した魔物の素材を適当に持ち帰るのだが、いつも『状態が悪い』とギルドからお叱りを受けてしまうからな。私だけでなく、エルラドにはそんなやつらばかりだ。マニュにはぜひともコツを教えてほしいところだよ」

「あ、はい、わたしでよければっ」


 エルラドには解体と運搬が得意な人ってあんまりいないんだ。

 どうやらリキュウの言ってたことは当たりみたいだなぁ。

 頑張れリキュウ、エルラドにも商機はありそうだぞ。




 全員がシファーさんと戦い終え、俺たちは四人でさっきの戦いについてしばし感想を言い合った。

 やれファイアーボールの威力に驚いたとか、やれ剣が速すぎて見えないとか、そんな風な緩い感じで。


「貴殿たちの実力は大体わかった。それは異常種を倒せるわけだ。貴殿たちと戦えて、私にとってもいい刺激になったよ」

「いえいえ、俺たちこそですよ。お忙しい中ありがとうございました」


 シファーさんは装備を変えに行く最中だったんだもんな。

 本来ならもうとっくに街を発っていてもおかしくないところを、わざわざ俺たちと戦ってくれたんだ。

 感謝しなきゃ。


 マニュとミラッサさんも、それぞれシファーさんに感謝の気持ちを伝える。

 シファーさんはそんな俺たち三人の顔を順番に見て、考え込むように顎に指をあてた。


「そうだ。もしよければなんだが……武器屋に付いてくるか?」


 ……え、それって?


「ミラッサはもちろん、レウスとマニュも剣を使っているんだろう? 今から私が向かう店なら、もっと貴殿たちにあった装備を用意してくれる。そこの店の剣を使うと、スキルレベルが二、三上昇したのと同じくらいの勝手の違いがあるんだ。エルラドに向かう最中の場所にあるし、時間のロスも少ないだろう。何より腕は私が保証するが、どうかな」


 シファーさんから直々に誘われるなんて、実力を認めてもらえたみたいで嬉しいな。

 でもどうしよう、三人で話し合わなきゃ……って、ミラッサさん!? 顔が近いですよ!?


「レウスくん、お願いがあるんだけど」

「……な、なんでしょう」

「行きたい」

「なるほど」

「行きたい行きたい行きたい。行きたい行きたい行きたい」

「真顔で繰り返すのやめてくださいミラッサさん! 怖いです!」

「ひぇ。み、ミラッサさんが壊れちゃいました……っ」


 鼻がくっつくぐらいの至近距離でそんな連呼されたら恐怖でしかないですからね!?


 とはいえミラッサさんの痛いくらいの思いは伝わってきた。

 俺としても別に拒否する理由もないし、いいお誘いだと思う。


「お、俺は行ってもいいですけど……マニュはどう?」

「わたしも行った方がいいと思います。シファーさんが贔屓にしている武器屋さんですから、きっと腕も確かでしょうし、そんな店とコネクションを持てるのは良いことなんじゃないでしょうか」


 おぉ……思ったよりちゃんとした答えが返ってきた。


「マニュは賢いなぁ。俺なんて半ばミラッサさんの迫力に押されて承諾しちゃったのに、ちゃんと色々考えて判断できるなんて」

「えへへ」

「ありがとうマニュちゃん。マニュちゃんのおかげで合理的な理由ができたわ」


 よかったですねミラッサさん。

 ……ところで以前、「マニュちゃんの前ではちゃんとしたお姉さんでいたい」って感じのこと言ってましたけど、覚えてますか?


「マニュちゃん大好き~! このこの~っ」

「むにゃるやっ!? み、ミラッサさん、ほっぺたむにゅむにゅするの駄目ですっ」


 ……覚えてなさそう。


「話は纏まったかな?」

「はい、是非ついて行かせてください」

「うん、わかった。そういうことなら早速行こう。思い立ったらすぐ行動だ」


 もう今から出発するの!?

 さ、さすがSランク、無駄な時間の省き方が大胆だ……!

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