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マリーエさんにはまたいつでも泊まりに来てねと言っておいた。もちろん妹さんも一緒にどうぞと言ったらすごく喜んで感謝された。
うん、帰ったら妹さんや家族とよく話し合った方がいいと思うよ。お私達もお互いにちゃんと連絡と相談しようね。
エミール君は仮の婚約者に突然指名されたのに、なんだか楽しそうだった。前回のカランの時に何も出来なかったから、今回はちゃんと関われて嬉しいんだそうだ。そういうもの?
あと出掛ける時に「行ってきます」って笑顔で出て行ったんだけど、ここが家だと認識してくれているみたいでなんだかちょっとほっこりした。
ロイさんとは少しだけ話をした。
デイルズ家のこととかボーグ家のこととか、さっきの話でも色々聞いたんだけど、なんていうか最終確認みたいな感じ。今更だけどね。
貴族の世界では貴族同士のこと、特に契約が関わるものには基本的に不介入が原則らしい。それに今回のことはボーグ家が画策した事だけど、デイルズ家がそれに気付かなかったのだからデイルズ家の落ち度であり非があるとみなされるそうだ。
それに対して私がどうこうしようと動くことは褒められることではないし、もしかしたら非難されるかもしれないと言われた。
「それでもマリーエ殿を助けようとするんですか」と。
別にね、私だって貴族なんていう未知の世界に何も知らない私が首を突っ込むのはどうなのって思うよ。だけどね、側で苦しんでる人が居たら助けたいと思ってしまうのは仕方ないでしょう?
聞いたところ、こういう騙したり騙されたりって話は貴族の世界では結構あるらしいんだよね。そんなものにいちいち介入なんてもちろん出来ないけど、自分の周りくらいはなんとか力になりたいって思うのは私にとっては普通の事だ。
出来ることに限りはあるし私だけじゃ何も出来ないけど、助けられるものなら私はマリーエさんを助けたい。ただそれだけだ。
偽善と言われようがかまわないし、私欲で動いて何が悪い。私は貴族じゃないし、貴族のルールに従う理由もない。非難されたってどうってことない。ああ、でもおじいちゃんの名前に泥を塗るのは困るかなぁ。
「でもやめる気はないんでしょう?」
「うん」
「仕方のない方ですねぇ」
そう言ってロイさんは出掛けて行った。
頼りにしてるよ、ロイさん。
さてと、私は振り返ってアルクを見た。
「そんなにロイさんのこと嫌い?」
アルクは普段からあんまりしゃべらない。二人の時はそれなりに会話もするけど、みんなでいる時は本当に必要な時や私に話しかける以外は基本黙ったままだ。
今回の話し合いの間もずっと静かに聞いているだけだったんだけど、ロイさんに対する警戒がね、なんだかものすごく高いんだよ。
「アレはリカを危険にさらした。許せるものではない」
「うん、まあそれはそうなんだけど、あの時はちゃんと側にいてフォローもしてくれたし無事ではあったし。命の危険はあったから私も全面的に許せる訳ではないけど、反省してるのは知ってるよ」
「反省しても恐らくアレは同じような状況になったらまたリカを危険にさらす」
「うーん、それは確かにそうなんだけど……」
効率重視なロイさんだし、ないと言い切れないのが困ったものだ。
「私はリカを危険にさらしたくないし、アレをリカに近付けたくもない」
「うん、心配してくれてありがとう。でもね、今回は私がお願いしてロイさんには来てもらってるんだよ? アルクは協力はしてくれないの?」
そう聞いたらアルクはちょっとむくれた。
「リカは……ずるい。私はマリーエが悲しめばリカが悲しむから協力はする。だがアレと馴れ合いたくはない」
「ありがとう。アルクが協力してくれるのは嬉しいよ。仲良くしてとは言わないから、喧嘩はしないでね?」
「……善処する。それとリカと離されるのも嫌だ。リカは私と一緒にいたくないのか?」
ああ、この間の留守番の事かな。あれからずっとご機嫌斜めだもんね。
「そんなことないよ、一緒にいたいよ。アルクが側にいてくれるおかげで私はすごく安心できる。この間、初めて別行動した時にアルクがいなんだなって思ったらすごく不安になった。私ってずっとアルクに守られてたんだなって思ったし、アルクに側にいて欲しいって思った。私はアルクと離れたいなんて思ってないよ?」
そう言ったら、アルクは私を抱きしめてくれた。
「私を置いて何処かへ行ったり、危険なことはしないで欲しい」
アルクは時々すごく不安そうにする。そういう時はいつも以上に過保護になったり私の側から離れなくなる。心配してくれるのは嬉しいんだけどけど、時々ちょっと大げさだなって思ったりもする。
「大丈夫だよ、何処にも行かないし、危ないこともしないよ」
私はアルクを不安にさせる何かがあったかなって考えたけど、それが何かは分からないままだ。
ぎゅうって抱きしめる力が強くなった。私はポンポンってアルクの背中をたたく。
アルクが不安になる理由、聞いたら教えてくれるかな。私は……何故か聞くのが、少しだけ恐い。




