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――翌朝
私のお肌はモチモチのツヤツヤです。
昨日はちょっと浮かれて騒いでいたらアルクにあきれられたけど、いつもお肌キラキラなアルクにはこの気持ちは分かるまい。
私のお肌は今、自分至上最良、十代の頃よりもさらにコンディションの良いプルプルだ。自慢したくなるほど素晴らしい状態でもう感動レベル、やっほうって感じ。
いやしかし、ポーション凄いし最初に美容に使おうと思った人も良く思い付いたと思うよ。異世界万歳だね。
私は朝からルンルンでマリーエさんにも驚かれたけど、お肌の様子に気が付かれて自分も欲しいと強請られてしまった。いつもの謙虚で控えめな彼女はどこにいったんだろう?
それにマリーエさんお肌ピチピチじゃん、必要ないでしょって言ったらめちゃくちゃ反論された。いっぱいあるから別にいいけど。あ、でも水はこっちの世界の物を使わないといけないかな。
やってきたエミール君はちゃんと気付いてくれたし「いつもお可愛らしいですよ」なんてさらっと言えてしまえる彼は絶対にモテると思う。
対してロイさんは「データ取らせて下さい」だって。人体実験とでも思っているのかね、まったく。あ、でも副作用とか効果切れとかで大変なことになったりとかは怖い、かも。次はエミール君にちゃんと鑑定してもらってから使おう……。
さて、今日の予定を確認しようと思ったら突然訪問客がやって来た。
「おはようございます」
挨拶するネロさんに連れられてきたのは若い女の子で、金茶のふわふわな髪に水色の瞳のとても可愛らしい子だった。
一体誰だろう?
不思議に思っていたら、急にその子がマリーエさんに走り寄って抱き着いた。
「お姉様っ。ああ、良かった、宿舎に帰られていないと聞いたので心配していたのです。それに先日の思いつめたご様子……私、私……」
わぁっと泣き崩れたのは、なんとマリーエさんの妹さんでした。
妹さんの訪問はマリーエさんにとっても想定外だったんだろう、すごく困った顔で彼女を落ち着かせようとしている。
えーと、とりあえずお茶の用意をしようかな。
ネロさんが経緯を教えてくれたんだけど、妹さんはマリーエさんを訪ねて騎士団に行ったらしく姉の不在を知ってどうしても会いたいと訴えたんだそうだ。で、事情を知っている騎士団長がマリウスさんに相談し、マリウスさんの判断でネロさんが呼ばれてここに連れてきたらしい。
あと私のことは妹さんには話していないとのこと。マリーエさんのお仕事は一応極秘任務ということで私を護衛しているのは伏せられているんだよね。
まあ町の人は私の事を知っている人もいるし、マリーエさんとは一緒に町を歩いているのでガイルでは公然の秘密みたいな扱いだ。だけど恐らく妹さんは私の顔を知らないだろう。
ネロさんは先に戻るというのでお菓子を包んで渡して見送った。いつも本当にお世話になります。
さて、妹さんはお茶をひと口飲んでやっと少し落ち着いたようだ。
「大変失礼致しました。私はマリーエ・デイルズの妹のリリーナ・デイルズと申します。突然押しかけてしまい申し訳ございません。私、あの朝に飛び出していったお姉様のことが心配で心配で……。昨日騎士団へ伺ったのですがお姉様は戻っていないと聞いて驚いてしまって……後からお仕事だとは聞いたのですが、どうしてもお会いしたくて無理を言って連れてきていただいたのです」
そしてマリーエさんに向き直るとお姉さんに似た意思の強そうな瞳でこう切り出した。
「私、お姉様にお話があって参りました」
「一体どうしたっていうの、リリーナ」
対するマリーエさんは困惑顔だ。
「私がライナス様と結婚します! もともと私がデイルズ家に残ると話し合っていたではないですか。お父様の事業にも私は関わっていますし、これから婿として入る方のお手伝いも出来ます。ですから家のことは心配せず、どうかお姉様は騎士を続けて下さいませ」
絶対に引かないぞという強い意志が見える。マリーエさんは突然の妹の言葉にとても驚いていた。
「そんな、あんな男とあなたが結婚なんてとんでもない、何故急にそんなことを……」
「急ではありません! お父様もお姉様も私がいない間にどうして勝手に決めてしまわれたのですか! お父様はすまないと謝るばかりでお話になりませんし、お姉様はお姉様で家に帰りもしないで……どうして私の話を聞いてくれないのですかっ!!」
「落ち着きなさいリリーナ、結婚の話は確かにあなたに黙って進めたわ。でもこれはデイルズ家当主のお父様が決めたことであなたが反対出来ることではないし、家に帰らなかったのは……ごめんなさい、仕事が忙しかったのよ……」
最後はちょっと目をそらしたマリーエさん。この間あまり帰ってないとは言ってたもんね。妹さんに何か言われるのが分かってて避けていたんだろうか。
それにしても……ちろっとマリーエさんを見たら目が合い、事情を説明してくれた。
「お騒がせして申し訳ございません。リリーナは最近までガイルを離れていたので私が婚約した事情を知らずにいたのです。リリーナの言う通り、デイルズ家では妹が婿を取ることも検討されていました。私は事業などにはあまり興味はありませんし、その、向いてもいませんから……ですが妹は私と違ってそちらの方面に才能があります。ですが、どちらが婿を取るかは決まっていた訳ではありません。それに父がボーグと契約を交わしたことで状況も変わりました。ライナスはご存じの通りの男ですし、あんな男と妹を結婚させる訳にはいきません」
なるほど、家に戻った妹さんはお姉ちゃんが意に沿わない結婚を自分の代わりにしようとしていると知って怒っている、と。
しかしお家のことだし話辛いのは分かるけど、ちゃんとその辺の事情も全部先に話していおいてよね、マリーエさん。ホウレンソウ大事!
それにほら、そんなこと言ったら……。
「私だってお姉様にそんな男性と結婚して欲しくありません! そんな自分を犠牲にするようなことはどうかおやめ下さいっ」
うわーんって、また妹さん泣き出しちゃった。あーあ。




