表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/215

88


「私だって貴族の娘です。政略結婚など覚悟していたつもりです。例え相手がどんな方でも……。しかし、しかし、あの男はっ……!」


 泣きそうな顔から一転、怒りの表情を見せるマリーエさん。握りしめる拳が小刻みに震えてる。こんな彼女の姿を見るのは初めてだ。


 昨日実家に戻ったマリーエさんは、待ち構えていたライナスに直接会って話を聞いたそうだ。


 さすがにマリーエさんの親の前ではまだ大人しいみたいだけど、ライナスの嫌味な態度は隠しようもなく、しかも二人きりになるとそれはそれは酷い態度で「お前のようなガサツな女と結婚してやるんだからありがたく思え」とまで言ったそうだよ。まじ最悪。


 さらにライナスはどうせ結婚式なんてものは形だけ整っていればいいのだから、パーティーが終わったらすぐにでも式は挙げる。お前に掛けるお金ももったいないし、立ち合いは親だけで十分だろうと言ってマリーエさんとの結婚を早めるつもりでいるらしい。なんて夢も希望もない。


「貴族の結婚ってそんなものなの?」


 エミール君に聞いたらブンブンと首を振って否定していた。


 でね、さらにライナスはこんな事まで口にしたんだって。


「そういえばお前の妹、さっき見かけたがなかなか可愛い顔をしているじゃないか。お前よりよっぽど女らしいし俺の好みだ」


 最っ低だよね。


 嫌らしい顔で笑うライナスにマリーエさんは目の前が真っ赤になったそうだ。今までライナスの暴言には耐えてきたけれど、さすがに我慢できずに殴りかかろうとしたんだって。


 だけどライナスの言葉でギリギリ踏みとどまった。


「いいのか! 俺を殴れば契約はデイルズ家によって破棄されたとみなすぞ。契約を破ることは重罪だ。お前の親もこの家も、どうなるか分かっているよな?」


 にやにやと嫌な笑みを浮かべるライナスを前に、何も出来なかったマリーエさん。


「チッ、すぐに暴力に訴えようとする。やはり野蛮な女だ」


 パーティーには必ず出席しろと尊大に言い放ち、マリーエさんをあざ笑いながらライナスは帰っていったそうだ。


「妹にまで手を出そうとしているなんて……私は、私は……何もできない自分が悔しいですっ」


 うん、そのライナスって男は到底許しがたいね。


「なんてことだ、そんな女性を貶める様な言動や行為は恥ずべき行為です、許せません!」


 エミール君も相当お怒りの様子で、いつになく感情をあらわにしている。


 彼も婚約者で色々あったからね、余計感情移入しているのかもしれない。何とか力になれないかと親身になって考えている様子が伝わってくる。


 私だって彼女のあんな姿は見ていられないよ。


 さて、どうしようか……。



 ひとまずマリーエさんを落ち着かせて休ませることにした。


 だいぶ興奮していたからアルクに頼んで静めてもらい、ついでに眠気もプレゼント。昨夜眠れなかったマリーエさんは、糸が切れたように眠りに落ちていった。たぶんいつものマリーエさんならこんなに簡単にはいかなかっただろう。


 ガイルの家は結構広い。カウンターのあるお店のような作りの部屋以外にも複数部屋があり、ゲストルームもちゃんとある。その一つにマリーエさんを運んで寝かせ、その間に私達は作戦会議をすることにした。


「どう思う?」


「あきらかに計画されたものですね。裏がありそうです」


 エミール君の言葉に私も同意する。


「ライナスが盾にしている契約ってそんなに大事な物なの?」


 私はこの国や貴族の事についてはあまり、というかほとんど知らないのでエミール君に聞いてみた。


 あ、そう言えば「エミール君」呼びは早々に許可をもらった。どうしてもつい言ってしまいそうになるので思い切って呼んでもいいかと聞いてみたんだよね。そうしたら、ちょっと照れながらもオッケーしてくれたのだ。


 なので私の事もリカでいいよと言ってある。名前の呼び方を変えただけだけど、お互い距離が近付いて親しくなれたような気がするよ。


「はい、貴族にとって契約は絶対です。破ればライナスの言っていたように重罪となります。しかし、契約内容が気になりますね。どのようなものかは分かりませんが、他にもデイルズ家に不利なものがないか心配です」


「確かにそうだよねぇ。まずは契約の詳しい内容を確認しないとだね。あとマリーエさんのお父さんの借金の理由とかも気になるし……うーん、まずはマリウスさんでしょ、あとは……やっぱり専門家にお願いした方が良いよねぇ」


「専門家、ですか?」


「うん。ほらいるじゃない、こういうのが得意そうな人が」


「?」


 貴族のあれこれに詳しくて化かし合いや企みが得意そうな人。


 調査とついでに打開策も考えてもらえたら最高なんだけど。


 こんな貴族間の契約とかが絡むあれこれに首を突っ込めるほどの知識も力もない私は、誰かの力を借りるしかマリーエさんを救う方法がない。


 そんな訳で私の得意技、ザ他力本願始動!!


 通信は苦手だけど、覚悟を決めて私は鏡に手を置いた。


 マリーエさんの笑顔が取り戻せるなら、使える手段は何でも使うよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ