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 新しい収納鞄は、家にあった物と形状が似ていて小さな革製だった。ただ性能は段違い。


 実はエミール君が鑑定の能力を持っていたので見てもらったんだけど……


「時間停止機能、空間拡張機能付き収納鞄。容量……いっぱい?」


 試してみたらいくらでも入ってしまい、冗談でテーブルを入れる動作をしたら「ひゅん」って吸い込まれていった。


 うん、びっくりした。


 「いっぱい」ってなんだって思ったけど、確かにいっぱい入るみたいだ。みんなちょっと顔が引きつっていたし、これが異常だってことは私にも分かるよ。


 他の家具も順番に入れてみたけど、家にある物は全部入った。なんだかまだまだ入りそうだったけど、一応これだけ入ることが分かればいいと思う。


 あと熱々のコーヒーや氷を入れて時間停止機能も確認できた。はっきり言って最高です。


 とりあえず入れた家具は元に戻し、殿下にも言われたように扉が使えなくなった時のことを考えて水とか毛布とか、その他必要そうなものを色々入れておくことにした。アルクのお菓子ももちろん入れておく。甘味は大事。


 それといつでも食事に困らないように作り置きの料理も。だけど頑張り過ぎて午後の休みが全部調理時間になってしまった。


 いや、収納鞄が嬉しくてつい市場で買い過ぎたんだよね。しかも、エミール君がいつもご馳走になっているからと手配してくれて、ネロさんが大量に食材やなんかを持って来てくれたんだよ。


 使い切れなくても鞄に入れておけば腐ることもないんだけど、調子に乗って色々作り過ぎた。でも作り立てがずっと保てるって最高じゃない?


 うん、これでいつ遭難しても大丈夫。いや、出来れば遭難なんてしたくないし、あくまで備えだからね。



 さすがに夜はのんびりして久しぶりに本を読んだり、アルクとゲームをしたりとまったり過ごした。うん、これぞ休日って感じ。いいね~。




     ◇




 さて、休日の翌日も気持ちよく目覚めて、今は朝食後のコーヒータイム。


 だいたいいつもこの時間に二人がやってきて四人でお茶をしてから出発するんだけど、今日はマリーエさんが来ていない。いつもきっちりしている彼女が時間に遅れるなんて初めてのことだ。


 何かあったんだろうかとみんなで心配し始めた頃、ようやく慌てたマリーエさんがやって来たんだけど……


「遅れて申し訳ありません」


 言葉に力もないし、なんだかすごく憔悴した様子だった。一体どうしたんだろう。


 最初は頑なに「何でもないです、大丈夫です」と言っていたマリーエさんだったけど、どう考えても大丈夫そうじゃない。


 このままダンジョンに行って怪我や事故があっても困るし、ここは話を聞いた方が良いと私達は判断した。


 で、判明したのはマリーエさんが婚約者とトラブっているということ。


 えー、マリーエさんって婚約者いたんだってびっくりしたけど、こちらでは普通の事らしい。ちなみにマリーエさんはただいま十九歳、若いなぁ。


「私にはライナスという婚約者がいます。ボーグ家の次男で、結婚したら彼が婿として私の家に入る予定です」


 なんでも以前、マリーエさんのお父さんが事業に失敗して借金してしまったそうなんだよ。それでその時に資金援助してくれたのがボーグ家なんだそうだ。


 ボーグはすごく好意的で親身になってくれたこともあり、マリーエさんのお父さんは条件付きの契約を交わして資金援助を受けた。私は知らなかったけど、貴族は何か約束事をする時には必ず契約を交わすものらしい。


 その時の契約条件のひとつに、デイルズ家の娘とボーグ家の息子の婚約と結婚があった。


 どうも「ボーグ家の息子をデイルズ家に婿入りさせてデイルズ家の後継者に」という話だったようで、お父さんはもちろん悩んだけど、「もし二人の相性が良くないようなら解消してもいい」とボーグから言われて承諾したんだそうだ。


 資金援助のおかげでデイルズ家は持ち直すことが出来たそうなんだけど、ここでちょっと問題が起こった。それというのも婚約相手になる予定のボーグ家の次男というのがね、まあものすごーく嫌なヤツだったんだって。


 初めての顔合わせからマリーエさんを見下すような酷い態度で、彼女の事を嫌っていたらしい。マリーエさんはなんとか打ち解けようと努力したらしいけど、その態度は一向に変わらなかった。


 しかもマリーエさんに騎士を辞めろと言っているらしい。

 

「ライナスは私が騎士をしていることが気に入らないのです。女らしくないと。なので以前から騎士を辞めろと言われています」


 騎士職に誇りを持っているマリーエさん。辞めろと言われるのはとても辛いと言っていた。


 だけど何でそんな態度を続けるのかね。そんなに嫌なら婚約解消すればいいのに。


「私もそう思い婚約の解消を申し出ました。しかし、契約に違反すると受け入れてもらえませんでした」


「え、なんで? だって解消してもいいって条件だったんでしょう?」


 マリーエさんは首を振る。


「いいえ、実はボーグが言っていた婚約の解消については契約に盛り込まれていなかったんです。恐らく意図的なものです。気付かなかったのはこちらの落ち度ですが、契約は交わさてしまいました。口約束だけではどうにもなりません。ボーグ家が了承しない限り、婚約解消は出来ないのです」


 なんてことだろう。


「あれ、でもどうしてボーグ家はそんなにマリーエさんと結婚したいの?」


 そのライナスって人はマリーエさんのこと嫌ってるんでしょう? 何か目的でもあるんだろうか。


「それは家格の問題があるからです。ボーグ家はお金はあるものの貴族としては下級、対してデイルズ家はそれなりに歴史のある上級貴族なのです。本当に名前だけなのでお恥ずかしい限りなのですが、このデイルズの名前と家格をボーグ家は欲しているのです」


 この国では家を継ぐのは男性だけらしい。だから子供が女の子だけの場合は入り婿に後を継がせるんだって。


「恐らくライナスは私と結婚して家を乗っ取るつもりなのでしょう」


 ふうっと息を吐くマリーエさん。溜息が深い。


 最初は好意的に接してきたボーグだったけど、契約後は段々と本性を現し、事ある毎に契約を持ち出して脅したり事業にまで口を出して大きな顔をし始めた。


「今日呼ばれたのは、ボーグ家で行われるパーティーへ出席しろという話でした。どうやら先延ばしになっていた結婚を進めようとしているようで、そのパーティーで正式に結婚の発表を行うそうです」


 幼少期や成人前に婚約することが多いけど、大きくなってから解消というのも結構あることらしい。だから結婚発表を持って正式に婚約となり結婚するらしいんだけど、発表をしてだいたい半年から一年くらいで結婚するというのが一般的なんだそうだ。


 マリーエさんは相手が自分に興味がないのを幸いに結婚の話には触れないようにしていた。だけどついに逃げられないと思って途方に暮れ、昨日は眠ることも出来ずに悩んでいたそうだ。気が付いたらもう朝になっていて、慌ててここに来たんだって。


 もう、なんて慰めたらいいのか、いつもはキリってしているマリーエさんが今にも泣きそうな顔なんだけどー。



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