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 迷い人。


 殿下がおっしゃるには時たま現れる存在らしい。


 突然どこからともなく現れ、言葉は通じず、また忽然と消えてしまうこともあればそのまま保護されることもある。


 この国では昔から迷い人は手厚く保護する習慣があり、国も発見したらすぐに届け出るようにと御布令を出しているそうだ。


 先日のお祭りで見たように、迷い人は神話にも登場する。この国で迷い人が大切にされるのは「神様が探していた迷い人が帰ってくるかもしれない」、そう考えられているからなんだそうだ。


 監禁しようとして逃げられたんだし、帰ってくるかなーとか思ったけど、それはまあ置いておいて。


 迷い人の数は十年に一人くらいと言われている。だけどそれは発見された人数なので実際の所は不明だ。


 現れる場所によっては長く迷い人と知られずに過ごすことになったり、運悪く発見されなかったりなんてこともあるらしい。


 怖いよね、当然山奥だったり人里離れた辺鄙な場所に放り出されたら最悪だし、見知らぬ土地で言葉も通じないとか、もう絶望しかないと思う。


 で、そんな迷い人が最近北のシュライデン領で発見されたと報告があったという。


 国では保護したりその後の生活の面倒とかも見てくれるそうだけど、帰してあげられるものならもちろんそうしたいと殿下はおっしゃっていた。


 以前おじいちゃんが対応して迷い人を元の世界に帰したことがあったらしいんだけど、今回は私が居るので可能ならばお願いしたいとの依頼だった。王家は私やおじいちゃんが別の世界から来ていることを知っているんだよね。


 でもおじいちゃんが帰してあげられたってことは、日本とか私の住んでる世界の人だったってことだよね。あっちとこっちの世界って繋がりやすい何かがあるんだろうか。うーん。


 どちらにせよ迷い人はシュライデンにしばらく滞在し、その後王都に向かう予定らしい。なのでどこかのタイミングで話をしてみて欲しいとのことだった。力になれると良いんだけど。




 せっかくのお茶の時間を中断されてしまったけど、今日のおやつはアルクが作ってくれた紅茶のパウンドケーキだ。しっとりした生地とほんのり香る上品な紅茶の香りが最高に美味しいんだよ。


 今日のお菓子もだけど、この間カランに持って行ったマドレーヌもアルクがこちらの材料だけで作ったものだった。だって向こうから持ってきた材料だと家以外で出したら途端に消えちゃうからね。


 日本と同じような材料を揃えるのは大変なこともあるけど、アルクはこうやって美味しいお菓子を作ってくれる。


 本当にお店で売っているくらいの完成度で、アルク凄いって尊敬しかない。もう今度からシェフとかパティシエって呼ぼうかな。


 アルクのスイーツを堪能して、さて、私もお料理の作り置きをしようと思う。


 実はですね、ついに出たんだよ、念願の収納鞄が! もうすっごく嬉しい。


 しかもアイテム自体もかなり良い物で凄くレア。いや、収納鞄ってだけでレアなんだけど、収納量がかなり大きいのと欲しかった時間停止機能付きという、まさに理想的なアイテムだったんだよねぇ。実用性高すぎ。


 実は十一階層以降は地図が作成されていないということでエミール君がマッピングをしていた。お兄さんに頼まれたそうでアルクと道を確認しながら進んでいたんだけど、アルクも階層全部を把握している訳ではないという。


「進んだ道は覚えているが、進まなかった道もあるのでそちらはどうなっているか分からない」


 下層を目指してはいるんだけど、目的はあくまでアイテムだ。なので宝箱が存在する可能性も考えて、おじいちゃんが進まなかった道を確認してみようということで意見は一致した。


 これまでと違って何かトラップなどがあるかも、と慎重になったんだけど……なんか関係なかったみたい。アルクが危険を察知して警告、それを受けてマリーエさんやエミール君が反射神経で対処。


「アルク様のおかげです」


 そう言ってにっこりマリーエさんは笑っていた。


 でね、十五階層で横道を進んだら急に開けた空間に出たんだよ。


 そこで遭遇したのがかなり強そうな魔物だったんだけど、登場の仕方とか貫禄みたいなものがあって中ボスとかそれなりの存在じゃないかなって感じだった。


 今までより攻撃の威力とか凄かったし、さすがに少しは手こずるかなって私は思ったんだけど、なんと三人はその魔物も余裕で倒してしまった。みんなどれだけ強いのって感じの戦い方で、魔物がちょっと哀れに思える程だった。


 マリーエさんやエミール君は「万全な状態で挑めるからですよ」って謙遜していたけど、それでも強いよね。あとアルクの援護が大きいとも言っていた。チームの相性も良いのかもしれない。


 で、その魔物を倒したらドロップしたのが収納鞄だったんだよねぇ。


 宝箱に入っていると思っていたけど、魔物を倒しても手に入るんだなぁってびっくりした。だけどこれってかなり稀なことだったらしい。やっぱりボスクラスだったんじゃないかな、あれ。


 まあそんな感じで手に入った収納鞄なんだけど、これを私の物ってするにはやっぱりちょっとみんなに申し訳ない。だから一応預かりってことにしてあるけど、本当にアイテムの配分どうしようかなって悩んでる。


 どうせならあと三つ同じものが手に入ればみんなに一つずつ鞄は分けられるんだけど。さっきの魔物って復活したりしないかな。それとも復活はあっても鞄は出ないとか。


 とりあえず魔物の復活は今度確認してみることになった。


 また出ると良いなぁ。




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