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ダンジョンまでの道のりは順調だった。
途中に大きな湖があったり、森や山間部を通ったりと様々な景色を楽しむことが出来て、これを見るだけでも異世界に来た甲斐があると思える素晴らしさだった。
広大な大地に見たこともない植物や幻想的な風景の数々。夕日に染まる神々しいまでに美しい絶景には言葉を失う程見入ってしまった。
景色を見ていて時間を忘れるとか、私は初めての経験かもしれない。それほどまでに感動してしまうような世界がそこには広がっていた。
「きれい……」
自然と言葉が漏れた。
アルクもマリーエさんも私が景色に見とれて立ち尽くしている間、ずっと静かに見守ってくれた。
こういう景色を見ると、改めてここが異世界なんだなと思うし、自分がここに居ることが今更ながらに不思議でしょうがない。私、なんでここに居るんだろうなぁって現実感がすごく薄くなる。
うん、本当に信じられないくらいの幸運だと思うよ。
さて、ガイルからはかなり離れてもうすぐ目的地のダンジョンという所までやってきた。
ここまで数日かかっている。山越えなどもあって馬車が使えなかったりする場所もあったけど、道はちゃんとあったし危険ということもなかった。
最短ルートという訳ではないそうだけど、私が景色を楽しめるように道を選んでくれていたみたいだ。なんかもうありがたくて拝んでしまう。
「連れてきてくれてありがとう。本当に嬉しい」
そうお礼を言ったら、二人とも驚きながらも笑顔を返してくれた。
そうそう、仕事はこの一週間お休みだったりする。クリスマス、年末年始とお店は忙しく、落ち着いた時期に従業員が交代で冬休みを取るんだけど、私もお休みをもらえたのでそれに合わせての遠出だった。
お休み終了後は伯父さんからの連絡をこまめにチェックしつつ、行ったり来たりを続けるつもりでいる。マリーエさんにもお休みが必要だし、ずっと付き合ってもらうのは申し訳ないからね。私が仕事の時は休んでもらって、あとは相談しながらやっていければいいかなと思っている。
私達は途中で馬車に乗ったり歩いたりを繰り返しながら進んでいった。
やがて徐々に村や町が増え始め、しばらく進むと立派な門のあるイスカの町に到着した。この辺りは植物が少なく、赤い岩肌の山が多い。乾燥した空気や広がる砂漠が異国情緒たっぷりだ。
イスカにあるからイスカのダンジョン。単純だけど分かりやすい。
アルクが来た時は小さな町だったそうで、それから随分と発展して大きくなったらしい。国境に近いこともあって交易も盛んで、町中の通りには店が立ち並び、飲食店、宿屋などもひしめき合っている。とても賑やかな印象だ。
私達はさっそくダンジョンを見に行くことにした。入ってきたのは東門だけど、ダンジョンは町の北門を出た先にあるらしい。
門から外に出てしばらく歩き、岩の裂け目のような細い道を進んで行く。両壁は崖のように高くそびえ立ち、道幅は狭くうねっているので歩きでないと進めないし先も見えない。
どれくらい歩いただろうか。
狭い視界が開け、突然正面に巨大な神殿が現れた。
「おおっ」
なんか、圧倒される。
それは高さ数十メートルという見上げる様な大きさで、良く見ると岩を削って造られている古代の遺跡のようだった。なんとも凄い迫力、これがダンジョンの入り口らしい。
しばらくあっけにとられて眺めていたんだけど、気を取り直してさっそく中を覗いてみることにした。
入り口を入っていくと大きな空間があり、ひんやりとした空気を感じる。なんだか緊張感が漂う、と思ったのも束の間、突然あたりに声が響いた。
「間もなくガイドツアーが出発しまーす! ご参加の方は集まって下さーい!」
ええ、雰囲気が台無し……。
結論から言えば、ダンジョンはすっかり商業施設と化していた。
入り口を入ってすぐの場所にはカウンターが設置されていて、係の人が入場料の徴収やガイドツアーの案内などを行っていた。パンフレットまで用意されているのを見て、なんだかなぁと思ってしまう。
マリーエさんの説明によると、ここは国内でも数少ない観光地として有名らしい。一階層目と二階層目はほとんど魔物も出ず、誰でもダンジョンの中を見学できるとあって珍しい物が好きなお金持ちや貴族に人気なんだそうだ。
ただ三階層目以降は、魔物も増えて素材採集にはもってこいの場所でもある。上層階のアイテムは取りつくされてしまっているけど、あまり強い魔物も出ないし初心者でも潜れるダンジョンとして駆け出し冒険者に人気だそうだ。加えて少し下層まで行けば強い魔物や珍しい素材もあって、それなりに稼げるダンジョンらしい。
そうそう、冒険者。そう呼ばれている人達はこの世界では一定数いるらしく、職業として定着している。私はなんとなく、魔物と戦うことがメインなのかと思っていたけどそうではなく、彼らの主な仕事は素材採集なのだという。
武器や防具、装飾品にするための魔物の皮や牙や爪、鱗、あとは薬を作るための薬草だったり、果実や種、鉱石とか魔石といった素材を集めて売ったり、依頼を受けて探しに行くのが彼らの仕事だ。だから魔物と戦うのはあくまで採集の為なのだとか。
で、冒険者の中でも腕が良いとか経験豊富なベテランになるとそれなりに稼いでお金もあり、装備を揃えたり優秀な仲間を誘って強いパーティを作る。そうすることによってより報酬が高くて難易度の高い依頼を受けられるようになるそうだ。
冒険者として名を上げた成功者は少ないけれど、誰もが一度は憧れる夢のある職業として冒険者人気は根強いという。ロマンだよねぇ。
そしてこのイスカのダンジョンは素材採集だけでなく、未踏破という点でも有名だった。
国内にダンジョンは数あれど、未だ攻略されていないというものは少ない。もしアイテムのひとつでも手に入れば一攫千金。さらに踏破となれば冒険者として揺るぎない地位と名誉を得られるとあって、血気盛んな挑戦者が後を絶たないんだとか。
まあ、そのほとんどがあまりにも広く深い階層にあきらめるそうだけど、誰もが一度は挑む冒険者の登竜門的存在なのだそうだ。ふむふむ。




