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 マリウスさんとの話を終えて家に帰ってきたら、例の鏡がチカチカ点滅しいた。


 なんとなくクロフトさんへ連絡を入れるのが面倒だなぁと思っていたら、向こうから連絡が来てしまったみたいだ。でもなんでだろう、すごく出るのが嫌というか気が進まない。


 結局しばらく鏡を眺めていたら、アルクに「出ないのか?」と聞かれてしまった。


 なので仕方なく、手を鏡の表面に置いてみた。


 すると手のひらから鏡全体に光が広がり、やがてクロフトさんの姿が鏡に現れた。


「ごきげんよう、リカ様」


 にっこりと相変わらず上品な笑顔のクロフトさん。


「ご、ごきげんよう……」


 クスっと笑われてしまった。ううっ。


「領都に戻ったので、そのご報告と通信の確認の為にご連絡しました。御変わりありませんか?」


「はい、大丈夫です」


 何が大丈夫なのか分からないけど、直接会うのと同じくらい、いやそれ以上に緊張するね。元々電話とかするのも苦手なんだけど、やっぱりこれも駄目みたい。うん、便利ではあるけど、なるべく使わないことにしよう。


 あ、でもダンジョンのことを話さないと。


「実はですね、イスカのダンジョンという所に行きたいんです」


 私はさっきマリウスさんにした説明をして、アイテム取得の為にダンジョンへ行きたいのだと伝えた。


 クロフトさんはすぐに頷いてくれて「必要な物があれば用意するので言って欲しい」と言ってくれた。ただ、イスカのダンジョンは難易度が低いこともあって上層はほぼアイテムは残っておらず、かなり下層まで行かないと何も見つからないだろうと心配されてしまった。


 それはマリウスさんも言っていたことだし、なるべく下層を目指すつもりではいる。行ってみないと分からないけどね。


 とりあえず、ダンジョンを目指すことはクロフトさんに了承してもらえたので良しとしよう。




     ◇




 クロフトさんの通信から約一週間後、私達はガイルを出発した。まず扉でカランへ行き、そこからダンジョンに向かって進んで行く。


 今回も目的地までは馬車を用意してもらった。マリーエさんが御者も請け負ってくれて、「必ずお役に立ちます」とダンジョン行きにすごく気合が入っていた。


 でね、マリーエさんが出発前に用意してくれたものがあって、私の旅用の服をカランで仕立ててくれたんだよ。私が前に「買おうかな」と呟いていたのを覚えていたらしい。コンテスト用の服を作った時に採寸していたので、そこで注文しておいてくれたんだって。


 服はなかなか丈夫そうな生地だけど着心地は良く、絶対高いやつだと思う。しかも例のごとく白が基調。「とてもお似合いです」ってマリーエさんは満足そうだったけど、なんで白なのかな?


 黒のアンダーに白の膝丈の上衣。腰にベルトをして肩にはフードのついた短いケープのようなものを羽織っている。ちゃんと靴まで用意されていて、こちらは革製のブーツだった。すごく軽いし履き心地も良い。さすがカランの職人さん。しかしすべてオーダーメイドとか、贅沢だよねぇ。


 全部身に着けてみたら、なんだか物語の冒険者にでもなった気分だった。うん、恰好は完璧だね、恰好は。中身が伴わないのがすごく残念だ。



 馬車はサクサクと順調に道を進んでいる。しかも足の速い馬を用意してもらったので前回より進みは早い。代わりに乗り心地が犠牲になるけど、今回は前のようなことにならないように、対策も完璧だったりする。なんとアルクに頼んで少しだけ体を浮かせてもらっているのだ。


 これで揺れは体に伝わらないし痛くなることもないはず! そう思ったんだけど……


 なんか酔った。


 どうもね、体感と視覚にズレが出たみたい。体の動きがないのに外を流れる景色と揺れが目から情報として入ってきて気持ち悪くなった。ちょっと我慢できなくてダウン。途中、家で休ませてもらうことにした。


 横になったおかげで回復は早かった。少しずつ慣れて、しばらくしたら問題なく乗れるようにはなったんだけど、ふぅ、やれやれだね。


 休憩や食事は町で取ったり、外だったり、たまに家に帰ったりしながら進んで行った。それで思ったのは、やっぱりガイルは食事の水準がすごく高いということ。


 訪れた先で出される食事はそれなりに美味しいけど、ガイルから離れるほどシンプルで素朴な料理が増えていって小さな町になるほどそれは顕著だった。ガイルは都市だし食材が豊富だっていうのもあるけど、料理の種類や味付けも多様だし、すごく美味しい物が多いと改めて思う。


 貴族は情報も入ってくるしレシピを買って料理人に作ってもらえるけど、町中のお店なんかはやっぱり新しい物を作るってすごく大変なことなんだろうなと思った。


 あ、でもね、立ち寄った町で山パンが売られているのを見かけたんだよ。お店はすごく繁盛していて売れ行きは良さそうに見えた。たくさんの人の口に入って美味しさが広まるといいなぁ。




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