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 なんだか色々バタバタしたけど、やっと少し落ち着いた。


 あの事件からガイルに戻った後、私は伯父さんからのいつもの無茶振りでしばらく忙しかったんだけど、合間で訪問客の対応をしなくてはいけなかったりでなかなか大変だった。


 それというのも、カランのコンテストが終わった後に、何故かみんながガイルに立ち寄ったからだ。


 最初に来たのはクロフトさん。マリウスさんと一緒に、というか正確にはネロさんに案内されてやってきたんだけど、いきなりの訪問だったからすごく驚いた。


「事前に申し入れると断られると思いました。どうか非礼をお許し下さい」


 意外に強引な人なのかと思ったけど、私と話す機会が欲しかったそうで申し訳なさそうにしていた。


 で、彼の用件というのが「領都へ遊びに来ませんか?」というお誘いだった。


 歓迎するとは言われたんだけど、私は気ままに町歩きしたりご飯食べたり観光したりしたいだけなんだよ。いつか行きたいとは思うけど、偉い人達に囲まれたりとかパーティーとかそういうのは遠慮したいのだと正直に話した。


 そうしたら「分かりました」って。


 なんだかあっさりし過ぎて逆に驚いた。ただ、せっかく領都に来ていて知らないのは悲しいので、連絡は必ずして欲しいと言われた。


「それでこちらをお持ちしたんです」


 クロフトさんが持ってきたのは、三十センチ四方くらいで縁が木製の彫刻のあるアンティークな鏡だった。


「これは通信用の鏡です。鏡同士で互いに連絡が取れるよになっています。こうして表面に手を置いて、力を流すと登録してある鏡に繋がります」


 おお、なんか凄いね。


 前にロイさんが話してくれると言っていた通信手段ってこれかな。クロフトさんに聞いてみたら恐らくそうだろうとのことだったけど、相変わらずの謎技術だ。


 あと以前に見た監視機能付きの鏡を思い出してちょっと心配だったけど、そういう物は付いていないと否定された。調べてもらえれば分かるとも。いやそこまで疑っている訳じゃないんだけどね。


 クロフトさんはね、私と友好関係を築きたいんだそうだ。なのでお友達としてお付き合いしたいって。すごく真面目に言うから思わず頷いてしまったけど、あれ?


「領都に来る以外にも何かありましたらご連絡下さい。色々と便宜は図らせて頂きます」


 そう言ってクロフトさんは去って行った。なんだかなぁ。



 そして次に来たのがエミール君。


 兄弟でも行動は別なんだなぁと思ったけど、普段から一緒の事はあまりないんだそうだ。今回カランに来るのも二人でというのは初めてだったらしい。


 彼からは最初に会った時の威圧感はもう感じられなくなっていた。


 なんかね、すごく私の事を警戒していたんだって。


 突然現れた賢者の孫って存在に周りはみんな浮かれていたけど、エミール君は一人怪しんでいたそうだ。偽者かもしれないって。それにもし本物だったとしてもルーチェみたいな女だったら最悪だから、お兄さんに変な女を近寄らせないぞ、という思いで私に接触したらしい。


 あー、なるほど。


 お兄さん思いの良い子だなぁと思ったので、お茶と一緒にケーキを出してあげたらすごく喜んで目をキラキラさせていた。それで食べている間におしゃべりして、ルーチェのこととかお兄さんのこととか色々聞いてあげていたら……結果、なんだか懐かれた。


 クロフトさんから通信用の鏡をもらったと言ったら自分も連絡すると言っていたし、あと私が領都に行ったら観光名所や穴場のお店を案内してくれるそうだ。お忍びで出掛けたりしてるのかな。


 また遊びに来ると行って帰っていったけど……え、来るの?



 で、次が殿下とロイさん。


 まさか来るとは思わなかったんだけど来ましたね。


 しかし、なんでみんな連絡なしで来るんだろう。居なかったらどうするつもりなんだろうか。


「来たぞ」


 護衛は外で待機させて、ロイさんを伴って現れた殿下の一言目がこれだった。


 はいはい、この場合の来たぞは「お菓子寄こせ」ですよね?


 先日無理やりお菓子をご馳走する約束をさせられたんだけど、なんでそんなに食べたいんだかってくらいの勢いだったんだよ。なんだか私の出すお菓子や食事が美味しいと噂が独り歩きしているようなんだけど……あんまり期待されても困るんだけどなぁ。お菓子は私が作ってる訳ではないしね。


 とりあえず準備をしておいて良かった。クロフトさんとエミール君が来た時点で嫌な予感はしていたんだよ。なのでアルクにはマドレーヌを焼いてもらい、仕事の都合でお店に行った時にケーキも買っておいた。


 アルクはなんだかちょっと不満そうな顔をしながらも作ってくれたんだけど、この間からあまりご機嫌が良くないんだよね。色々思う所があるようなんだけど。うーん。


 困ったなぁと思い、ちょっとサプライズプレゼントをしてみることにした。


 ネットを見ていたらバレンタインが近いこともあって美味しそうなチョコレートの特集があり、アルクが好きそうなチョコの詰め合わせを選んで注文してみたのだ。


 今日渡したらすごく喜んでくれた。それにこの季節はチョコレートのお店がたくさん出店するんだよと教えたら興味深々で、今度一緒に出掛けることになった。アルクのご機嫌も直ったし、私も出掛けるのが楽しみだ。あーチョコ美味し~。


 えっと、そうそうそれで、殿下にはケーキとマドレーヌを出したら気に入ってもらえたようだ。満面の笑顔でご機嫌な様子だったし、私としてはほっとした。期待と違うとか言われても困るしね。


「リカ、中央領には来ないのか?」


「うーん、そのうち?」


 メルドラン内も全然見てないからまだまだ先になるかなぁ。


「そうか、その時は私が案内しよう」


 ええっと、断っても……あ、はい、ヨロシクオネガイシマス。


 私達がお話している横でロイさんは小さくなっていた。一応お茶は出してあげたけど他は無しだ。


 殿下が「美味しい、美味しい」と言って食べているのを「ああ……」って羨ましそうに見ていたロイさん。正面にはアルクが座ってジトーって見てるし、かなり居心地は悪そうだった。


 で、やっぱり通信鏡の話になり、自分も登録するから連絡しろと一方的に言って去って行きました。殿下はとてもお忙しいらしいです。だったら来なくていいのにね。


 あー、疲れた。



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